椎名ニキの誤解



※椎名視点


僕の頭の中はサイレンの如く危険信号が鳴り響く。

だけど、そんなことを知らない燐音くんは足を止めることなく、優希ちゃんたちの前で立ち止まった。

あぁ、お願いっすから穏便に…穏便に…!!!







「何、優希酔ってんの?」
「あぁ、うん…。打ち上げでね。疲れてたし酔いが回りやすかったかも」



燐音くんは優希ちゃんのことを覗き込みながら、男に尋ねる。ビニール袋を持ってない方の手で優希ちゃんの頬を優しく撫でながら、まるで優希ちゃんの様子を確認するようにするその仕草。ここから表情は見えないけれど、思ったより燐音くんの声色が普通でそっと胸を撫で下ろす。いや、全然まだ安心はできないんすけど…!


男の方も燐音くんに聞かれて、優希ちゃんに視線を移しながら現状を説明。


「そんなに呑んではいないよ」
「あァ、呑んでたらむしろ困るわ」


ははっ、と燐音くんの笑い声が聞こえて、…アレ?


てっきりここから不穏な空気になると思っていたら、拍子抜けっていうか。僕だけが置いていかれてる気がする。



「えっ、顔見知りっすか?!?!」



もう思わず声に出さずにはいられない。
あんなに僕がずっと悩んでいたのに!燐音くんに知られちゃいけないって思ってて!優希ちゃんがまさかの浮気?!って、スキャンダル…?!どうしようどうしようって色んなことを思って抱えていたはずなのに、混乱し過ぎて何一つ言葉にできない。やっと出せた言葉は、2人が知り合いだったのか、ということの確認だった。



「ア?顔見知りっつーか、優希のバックバンドのギターだけど」


そういった燐音くんの後ろで、男の方がペコリと軽く会釈する。



バックバンドのギター…、


つまり、優希ちゃんのバンドメンバー。



手にしていたビニール袋を落とさない程度に一気に全身が脱力したっす。聞くところによると、優希ちゃんは最近新曲とアルバム制作で曲作りでスタジオにこもってたとのこと。それでやっとひと段落した結果、お疲れ様会を兼ねての打ち上げに。ずっと詰め込んでいたスケジュールの疲れもあって、優希ちゃんは酔って今に至るってことらしい。



なんだ、燐音くんの言ってた通りだったんすね。



「も〜そうだったんすね、だからこの前2人で出かけてたんすかね?僕はてっきり浮気現場かと」
「は?」



燐音くんのドスの効いた声が耳に入った時には、全身冷や汗がドバッと流れる。燐音くんとこの人が知り合いってことを知って、一気に気が抜けちゃった僕はずーっと抱えていた疑問点もサラリと口にしてしまった。知り合いであっても浮気現場問題は別物だった、一緒じゃないのに!!!と後悔は先に立たないみたいな言葉あった気がするっすけど、正しくその通り過ぎて、あぁ僕の平穏な時間よ、さよならっす…大事な野菜とか早く冷蔵庫に入れてあげたかったっすよ〜鮮度第一!なのに…、


「ぶはっ」


なのに、燐音くんったら突然笑い出したっす。
今のこの流れでどこに笑う要素があったのか、僕は考えてみても全くわからなくて。困惑しながら2人の顔を交互に見ていたら、燐音くんが説明してくれたっす。



「こいつ、女だから。こんな見た目してっけどよ」
「んぃ?そうなんすか…?」
「こんな見た目って言葉は余計だ」
「ア?事実っしょ」


びっくりした、どう見ても男っぽいこの人は女の人だったらしい。ってことは僕、すっごい失礼じゃないっすか?!ハッとして、ごめんなさい!と言えば、「よくあることだから気にしてないし、好んでしてる格好だから」と少しだけ笑ってくれた。

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