椎名ニキの憂鬱



※椎名視点

結局、あの日から燐音くんには何もいってない。


言っていいのかもわからないし、言ったところで何があるのか。


どう答えを捻り出しても行き着く答えは誰もハッピーじゃないミライ。


料理人の仕事をしてもアイドルの仕事をしても、楽しいはずだったことが全部モヤモヤして食べても食べても満たされない。


こんなに他人のことで悩むなんて馬鹿馬鹿しいかもしれないけれど、僕にとってそれだけ2人が大切だからこそ悩んでしまう。



だからこそ、これ以上悩みは増やしたくないんすけど、




「…ほんとなんなんすか」




これはなんだ。

デジャブを感じるっすよ。


僕の視線の先には優希ちゃん。


今回は割とラフな格好をしていて変装もしていない様子。今日もオフ…っすかね。


人目を気にする様子もなく、歩く優希ちゃんはキョロキョロと何かを探している様子だった。


いや、誰かを探していたんだ。



優希ちゃんはすぐに御目当てのものを見つけたらしく、パァッと笑顔を浮かべて小走り。駆け寄った先には黒いパーカーに黒のパンツ姿のショートヘアーの男がいた。

この瞬間に僕は頭を抱えて思わずうずくまる。


何か悪い夢であって欲しい、けど、これだけではまだ何も決まっていない。


僕は意を決してまた立ち上がり、優希ちゃんたちに気づかれないようにしながらも、2人を捉える。前回と違うのは男の方の顔が見えているということ。僕はこの人を知らない。もしかしたら燐音くんは知ってるのかもしれないっすけど、どうなんだろう。


楽しそうに笑いかける優希ちゃん。

対してHiMERUくんみたいなクールって感じの相手は優希ちゃんの話をあまり表情は変えずに話を聞いている。うーん、ただの知り合いかもしれない、それじゃ前回見たのは何だったのか?自分がただ単に見間違えたのか?


もぉわかんないっすよ〜。



それからすぐに歩き出した2人を僕は気づけば少し距離をおいて追いかけていた。

不思議なことに、街中の人たちは案外優希ちゃんたちに気づかずに過ぎて行く。平日の真昼間ってのもあるかもしれないっすけど。


そしたら、優希ちゃんが有名なフランチャイズのコーヒーショップの目の前で立ち止まる。入り口に立ててあるボードを指さして、おそらくこれを飲もうって話をしているようだった。そして2人は店内へ。お店の中に入ってしまったら、もう深追いはできないし此処で終了っすかね…なんて思っていれば、まさかの2人が出てきたっす。ちゃんと手にはオーダーしたであろうドリンクも持っているから、テイクアウトにしたみたい。透明なカップに入っている限定フレーバー。あぁ、見てるだけでお腹が減りそうっす…。ここでお腹が空いたら、僕が大変なことになっちゃうんで、ゴソゴソと取り出したのは非常食用のバー。とりあえずこれを食べて凌ぐっすよ。ちゃんとした食べ物はこの後摂取すればいい。今はとりあえず優希ちゃんたちっす。




優希ちゃんは自分の手にしていたドリンクのストローを咥えて少し、飲んだであろうそれを男に感想を言っているようだった。男もその話に乗っかっていて、そしたら、優希ちゃんのドリンクのストローを…え、飲んだっす。優希ちゃんの、ドリンク。




優希ちゃんが自分の飲み物を誰かに飲ませるところって燐音くんと弟さんしか見たことがない。たまたまかもしれない、けど、弟さんもそうだけど、割と燐音くんも優希ちゃんも一線引くところは引いてるというか、故郷での慣わしって言うんすかね?そういうのがあるよな〜って傍で見ていて思ってたんすけど。


だから、こういうのもやらないもんだと思ってたんすけどね。


僕の気のせいだったのかな、ってぐるぐると今まで記憶を辿るが答えは出ない。



そんなこと考えてたらギョッとした。


男の方が優希ちゃんの口元を指で拭ってるんすけど…?!?!

しかも2人とも距離近くないっすか?!

男の方の身長も優希ちゃんより少し高いぐらいだから、目線の高さも近いんだろうなってのは見てて思ったんすけどっ!




「本当に訳わかんないっすよ」



優希ちゃんは相手の服の袖を引っ張って2人仲睦まじく歩き始めてしまった。


パーソナルスペースって言うんすか…?


優希ちゃんもびっくりするぐらい近かったし、相当親しいというのは見ていて嫌でもわかってしまう。もう僕にはついて行く気力も無くなってしまって、その場から足は動かなくなってしまった。


誰かお願いだから、夢なら僕を起こして。

空腹で行き倒れて意識を飛ばしているなら、誰か僕の口に食べ物を突っ込んで起こして欲しいっす。

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