椎名ニキの目撃
※椎名視点
これは僕、Crazy:Bの椎名ニキが体験したお話っす。
あれはシナモンでの仕事があった日のこと。
僕はお店の客の出入りが落ち着いた時間に足りない材料に気づいて買い出しに出てたんすよ。本来なら業者に発注して、シフト入っているときに買い出し〜なんて、昔やってたバイト先じゃないし、僕もアイドルなんで易々と街中にこんな理由で出れたりしないっす。
本当にたまたま、どうしても行かないといけない理由ができて外出してたから、この出来事がなければまず僕はこんなにもモヤモヤすることもハラハラすることもなかったと思いたい。
「調達終わりっ!はー、案外探してる時って見つからないもんなんすね。ちょっとじかんかかったゃったっす」
買い出し目的となる品を探していたわけだが、それがなかなか見つからず、結局手に入れられたのはシナモンから少し離れたお店だった。
時間も時間だ、思ったより時間がかかってしまったことに驚いて、早くお店に戻らなきゃ。
まだ平気だけど、もう少ししたら客足が増えてくる時間帯がやってくる。料理人が店にいなくてどうする。でもその前にお腹も減ったし何か食べながら帰るっすよ〜。
適当にすぐにお腹の足しになるものを買ってすぐ咀嚼して胃袋に収めながら帰路につく。見慣れた街並みを眺めながら、新しい試作品も作りたいな〜なんて常に考えるのは食べ物のこと。こういう時ぐらいしか、こうやって料理とか食べ物について考えられないから、仕方ない。アイドルするのも楽しいっすけどね!
順調にお店にも戻れそう、だけど念には念をで近道を使おうと思って、ちょっとだけ人通りの少ない細道に入る。
なるべく、無駄に体力消費をしたくないっすからね。
この道は店通りに対して平行にある脇道だから、ぶらぶらと街並みを楽しみたい人はまず通らない。おかげで通行人を避けながら歩くストレスもない。あと少しで通りを抜けて再び大通りに出る手前、僕は見慣れた後ろ姿を発見する。
あれ、優希ちゃんっすよね…?
多分カモフラージュとしてだろう、メガネをかけているけどあれは優希ちゃんに見える。仕事の帰りっすかね?優希ちゃんは小走りで何処かに足を運んでいるかと思えば、次の瞬間自分の目を疑った。
だって、優希ちゃんが見知らぬ男に近づいて、腕を組み始めたから。
一瞬、何かの撮影とか?って思って左右を見渡したけど、そんな人影はなく完全に優希ちゃんがオフであることはわかった。
見知らぬ男、そう思ったのは優希ちゃんが近づいた相手が燐音くんと違っていたから。
燐音くんは赤い髪をしているのに、その人は黒い髪をしていて、帽子を被ってマスクもしているから顔は見えないけど、昨日燐音くんと会ったっすけど、燐音くんはちゃんと赤い髪だったっす。解散したのも夜遅くだし、髪を染めるとかそういう話も聞いていない。
「えっ、どうしよう」
僕は首を横に振って見間違えかと思ったけど、見間違えではなかった。
「えっ、うっそ」
僕は悪い夢だと思いたいっす。
だって、男の方から優希ちゃんに今キスした…っすよね???
えっ、優希ちゃん…、燐音くんがいるのに浮気っすか。
絶対二人はそういうことありえないと思っていたのに。
僕はこういう時、どうすべきかわからないっす。
考えれば考えるほど、頭を働かせてしまってお腹が減ってしまった。あぁ、せっかくお腹の中を満たしたはずなのに、またお腹がギュルギュルとしてきた…。
結局その後の仕事も身に入らなかったし、ご飯食べてもお腹は満たされてもスッキリしないまま僕は燐音くんと顔合わせることに。
「んだよ、ニキ。元気ねぇな」
「僕だって悩みの一つや二つあるんすよ」
燐音くんと一緒に食堂でご飯を食す。今だって食べ物が目の前に並んでいるというのに、食べても食べても僕の中のモヤモヤはスッキリしない。さすがの燐音くんも不審に思ったらしく、質問しながら僕のフライドチキンを一つ手に取った。
「ニキの悩みってなんだ、料理の新作でも悩ンでんのか?」
「う〜ん」
それだったらどんなに良かったか、そう思いながら今何を発しても墓穴を掘りそうだから言葉を濁す。
「優希ちゃん、最近元気っすか?」
「は?優希?どうしたんだよ、急に」
「…いや、最近会ってないなと思って」
燐音くんの気を逸らしたくて質問を逆に投げかけたけど、結局優希ちゃんのことでこれこそ怪しまれたかもしれないっす。僕は口いっぱいに食べ物を詰め込んで今何言われても咀嚼してるから返事ができないようにした。
燐音くんはそれを見て結局どう思ったかわからないけれど、興味なさそうに「ふーん」と答えるだけだった。
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