アロハと法被



※燐音視点


「きゃっはは!なぁなぁ、どうよ?」
「天城が一番しっくり来ますね」


ES内の会議室、目の前に広がるのは様々なデザインのアロハシャツ。そのうちの1着を手にとって、袖に腕を通す。周りにいたメンバーに聞いてみれば、メルメルがいつものテンションで返してくる。面白味がねぇなァ…。



「せっかく、夏らしい仕事が来たってのに、つまんねェ反応だな」
「夏って言ったら、水着の仕事来そうっすけどね」
「水着よりアロハシャツがわいらのイメージっちゅーことやろ」



ニキはハンバーガーやパスタのプリントが施されているものに手を伸ばしながら不思議そうな表情を浮かべている。が、こはくちゃんの言う通り、俺たちが実際水着とかの仕事をもらったとして、それを着るのかどうかって話になる。



(全員そう言う感じじゃねえから、こっちの仕事が来たんだろ)



そういう意味ではこういう印象に思われていてホッとしてる部分もあった。




(仕事とは言え、過度な露出したい訳でもねェし…)



俺は悟られないようにテーブルに並べられたとあるサングラスを手にとった。



「まあ、俺っちたちはアロハシャツ着て、ハートのサングラスがお似合いってことだろ」
「びっくりするぐらい、天城はしっくりきますね」



カラーレンズ使用のハートのサングラスをかけてアイツらの方を向けば、またメルメルが冷静に言葉を投げる。もっと楽しそうにしろよなァ〜。


















結局あれから、全員それぞれ試着やらを試して打ち合わせをしたのだけれど、打ち合わせも途中休憩という流れに。そのため、ESの下の階にあるコンビニへ飲み物やら食べ物を買いに行こうという話に。ジャンケンで買い出しいくメンツを決めようと言い出してみたら、まさかの自分が負けた。




「あ〜、今日の俺っちはついてねェな」
「自分が言い出したんや」
「こはくちゃんは冷たいねェ」
「うっさいわ」



負けたのは俺っちだってのに、何故かこはくちゃんも一緒についてきた。自分でスイーツ見たいんだと。ニキのヤツなんて、腹減って動けねェとか言いながら、容赦なく欲しいものをスッゲェ言ってきたけどな。



「俺っちは何にすっかなァ、」



ペタペタと履き替えていたビーチサンダル。足に馴染みきっていないため、少しの違和感を足に感じながら、歩くたびフロアに響く足音。あぁ、サングラスもつけっぱなしだったわ、なんて頭に乗せたサングラスの存在をここまで来て思い出す。



「そういやァ、サングラスしっぱなしじゃん、俺っち」
「せやな」
「おいおい、こはくちゃんよォ。んな距離とんなよ」



スタスタと歩いて行くこはくちゃん。そりゃ室内でこんな格好してるのはおかしいだろうけど、仕事だろ〜?んな顔すんなよ〜と思いながら距離を詰める。肩に腕を回して絡めば、案の定こはくちゃんが嫌そうな表情を浮かべて逃げようとするから少しだけ逃げられないように力を加えた。



「ちょっ、やめんか…!」
「ァアッ?良いだろうが〜。ほら、あそこにお祭りムードのヤツだっていんだろ」



肘を使って押し退けようとするこはくちゃんをどうイジるか考えながら構っていれば、視界の隅に入ってきたのは法被を着ている人の後ろ姿。これまたこんな場所には似つかねェ格好じゃね?とか思いつつ、顎で指して見る。こはくちゃんは不可解そうな表情で俺っちを一瞬見るも視線を同じ方向へとずらした。



「…ほんまや」
「だろっ?こんな仕事してたら気にしてらんねェって」



きゃははっ!と笑っていれば、突然法被を見に纏った奴が振り向いた。振り向いたのは別に良かったけど、俺っちは思わず目を見開いた。「は?、」なんてつい声が漏れた。



「やっぱり!燐!こはくん!」



振り向いたのはまさかの優希だった。遠目だったし、こはくちゃんイジりに気が取られていてちゃんと見てなかったというのもあるが、こうやってみたら背格好とか優希そのもので。いつもより高い位置で結んでいるしっぽが振り向いた拍子でゆらゆらと揺れていた。


「なんや、優希はんだったんか」
「奇遇だね。お仕事…?」
「打ち合わせの途中なんよ。今は休憩でちょっと飲み物とか買いに行こうとしててな」
「そうなんだ!おつかれさま〜」



…なーんて、会話を優希とこはくちゃんがしている訳だが、正直言って俺っちの耳に入ってはすり抜けていくだけ。何故かって?ンなのそうさせる理由があるからだ。



「優希はんこそ、お仕事なん?法被なんか着よって」
「そうそう…!斑くんが一緒なんだけど、お祭りイベントでね、和太鼓をやる企画があって」



優希曰く、企画で祭りに参加することになったのだが、その内容が和太鼓に挑戦というものらしい。まあ、優希なら、そういう飲み込みの筋は良いから、適役だろう。ただ俺が気になるのはそこじゃない。



「ンだよ、その格好」
「法被だけど…?」
「そうじゃなくって」



不思議そうな表情を浮かべる優希。だけど、そこに目を合わしてないのは決して気まずさとかではない。気になる点がその下にあるからだ。



「優希はん、下ってサラシなん?」



何と言おうか、直接的に言っても良いが優希だって仕事の一環。俺が口出しするわけにもいかず、しかし気になるのは気になるわけで言葉に詰まっていたら、その意図を汲み取ったかのようにこはくちゃんが口にした。その言葉を聞いて、優希は多分俺の言いたかったことも理解しただろう。あぁ、なんて言いながら自分自身の胸元を見下ろして、そっと撫でる。



「そうなの、お祭りで法被着るんだし、ってことでね。斑くんもしてるよ」
「斑はんらしいな」
「うん、すっごい似合ってた!」



そう楽しそうに話す優希。一彩もそうだけど、過度な露出に抵抗があるというか、どうも育った環境での刷り込みは拭えるものではないため、正直こんな格好して人様に露出するのはどうかと思ってしまう。しかも、優希だから尚更だ。絶対映像とかにも残るだろう。俺がそう思うだけで、優希はもはやそんな抵抗もないんだろうか…、まずそれ以前にやっぱりこういう格好が一概にダメとは言わないが、納得しきれないのも事実で頭の中で煩悩が払えずにいる。



「ホントはね、和太鼓やるからって肩出しも提案されてたんだけど」
「ハァ?!」
「っ、びっくりしたわ!」


モヤモヤとした気持ちを掻き消そうとしていれば、優希の次の言葉に思わず声が漏れた。というか、声をあげてしまった。その声は自分でも思うより大きく、隣にいたこはくちゃんが肩を震わせてビックリするほど。普段だったら、わりィなんて軽口叩けるはずなのに、それところじゃない。優希だって目を見開いてビックリしてる。いや、ビックリしたのはこっちだし。


「提案!されてたんだけど!なしにしてもらったの!」


俺の表情と言葉を察した優希が少しだけ強さを含んだ声で訴える。


「サラシに法被までは良かったんだけど、お祭りだし。ただ片方とは言え肩出しして叩くとかちょっとね〜抵抗というか、あたしの気持ち的に踏ん切りつかなくって」


そう言って優希は苦笑いを浮かべる。仕事とは言え、やれることとやれないことがある。それは事務所的な意味だったり、方向性だったり。あとは個人の意見だったり。優希の理由は最後のやつだった。



「仕事は選ばな。何でもかんでもやんのも大変やもんな」
「うん、まあね」



こはくちゃんは気づいてねェだろうけど、優希も結局俺と同じってことに心の何処かで安堵する。そんなことを思っていたら、優希と目が合った。



「2人も仕事で…?」
「そうそう。似合うっしょ」
「うん、そういうのも良いね」


おちゃらけた感じでサングラスを掛けながら聞けば、優希もクスクス笑いながら頷く。そういやァ、さっきから口数がいつもより減っていたわ。



「でも、浴衣も見てみたいな」
「浴衣かァ」
「Crazy:Bとお祭り!うん、似合うよ」
「祭り言うたら、ニキはんが別の意味で喜びそうやな」
「ふふっ、屋台的な意味でかな、想像できる…!」



浴衣な〜、そういやァ、オフで着るなんてしてねェな。



「浴衣着るなら仕事だけじゃなくって、今度オフでも着るか」



俺の言葉に目をパチクリさせる優希。この言葉をどんなふうに捉えたかわからないけど、すぐに嬉しそうにはにかんで頷いた。


だってなァ?



もうコソコソする必要ねェし、イイっしょ。

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