そして戻ってきた時間とこれから



数日ぶりの我が家。

長期的に空けていたわけじゃないのに、だいぶ久々にここへ戻ってきた気がするのは多分連日あった騒動のせいで。やっと落ち着けたら、今までの溜まってたものがプツンと切れた糸のように溢れててきた。



「ンッ、ふっ」



息が苦しいのに頬に添えられてる手のひらも、絡められた舌も腰に回された手でさえ、触れているところ全てが幸せで離れたくないと体が、全身で求める。向かい合うようにソファーに座って密着しているせいで燐の体温が伝わってきてそれさえも愛おしい。腰に回された腕に自分の手を添えていたけれど、必死に応えようとしても上手くいかなくて、つい腕に触れていた手に力を込めれば、それに気づいてそっと離れる。


肩で息を吸って、閉じていた目を開いてみれば、至近距離に映るターコイズブルーの瞳がゆらゆらと揺れていた。



「ん…」



もっと見つめてたい気持ちもあるけれど、もっと全身で目の前にいることを実感したくて、ぴったりと寄り添って首元にすり寄った。頬から身体から伝わる体温と定期的なリズムで鼓動を打つ心臓が安心感を与えてくれる。



「あんなことすんなら、言ってくれよな…」



頭上から降ってくる燐の声は少しだけ面白くなさそうだった。
首元に顔を擦り寄せてるせいで、燐の顔は見えなくて見上げてみようと思ったら、上げる前に頭を頬擦りされる。背中に回された腕に力が込められて、身動きが取れないけれど伝わる体温が心地よくて苦じゃない、はずなのに、ここ最近の出来事と今の言葉で胸の中でザワザワしたものが埋め尽くす。



「だって、燐も大変だったし…、燐のこと悪く書かれてるの見てられなくて」



燐はあたしが相談なしに番組のスケジュールを組んで行った行動が納得できなかったようで、ムスッとした声色だった。だから、あたしは素直に思っていたことを呟くだけ。そんな反応をさせたかった訳ではないので、ごめんね、と謝ればまた頬に手を添えられて触れるだけの口付けをされた。



「コズプロの奴らにジッとしてろって言われるし、アイツらにも迷惑かけらんねェし身動き取れなくってよ、それなのに優希は一人でよ…」
「り、ん…」



さっきまでと体勢が逆転して、気づけば燐が次はあたしの首元に顔を埋めて、ハァ…とついたため息が耳に入る。鮮やかな赤い燐の髪を撫でながら、やっぱり怒らせちゃったなぁ…なんて思っていれば、少しだけ視界がぼやける。


「優希一人、背負わせちまったな…」


今、動かないと思っていたから完全に気が抜けていたあたしは燐が何を言ったのか一瞬理解できなかった。気づけば燐と目が合っていて、さっきまでの声色も言葉も嘘みたいに優しい目をしていて脳が処理しきれなかった。


「頑張ったな」


昔、大変だったお稽古や練習を終えた後、燐のところに行ったとき、よく言ってくれていた言葉とその時が重なって、懐かしさと嬉しさと安心感が溢れ出る。おかげで少しだけぼやけていた視界は完全にボヤボヤになってしまって、目から涙が止まらない。自分じゃ止める手立てがなくて、燐に抱き付けば頭上から笑い声が聞こえてきた。








あの放送自体も好評で、ファンの方々からは“優希ちゃんの過去がしんどい!けど、話してくれてありがとう!”だったり、“初めて知った… ”“意外だった”と反響はさまざま、とりあえず好評な方に転がった。

順って、熱愛報道の騒ぎの方まで繋がって、こちらは“まさかの水城優希から逆プロポーズでは?!”と更に騒がれてしまった。

うーん、どこがだろう…と思うが、見た人たちにはそう捉えられたのか。結局、交際って概念もわからないからなぁ。


あたしの話により、“天城燐音の印象が変わった!”“幼馴染でずっと一緒とか恋愛漫画か?!”と言われたり、“ずっと思い合ってるの良き…”“もはや事実婚では?!”などと言いたい放題。


結果、燐としては名誉挽回になり、むしろ高感度に切り替わる部分もあったりもして、あたしのファンたちも今まで語られなかった過去を知って心打たれる声が多く上がったから良かったのかな。





「俺っちがかっこよく決められたらよかったなァ」


と、ぼやく燐。


「燐は…」
「ン…」



頭を撫でながら聞こえてきた声にあたしは、モヤっとしながら顔を上げる。




「…いつでもかっこいいから、これ以上はだめ」



燐が取られちゃう…、そう見上げながら呟けば、燐は面食らった表情を一瞬だけ浮かべるも、すぐにまたギュッと抱きしめられたことにより燐の表情が見えなくなる。ハァ〜〜〜って声が聞こえるし、多分この反応は嫌じゃないはず。



「ンなこと不安になる必要ねェけどさ…」
「うん」
「これで堂々とできるし、離れた分いっぱい埋めような」



離れていた期間、燐もあたしと同じ気持ちでいてくれたことが不謹慎ながらも嬉しいなって思えてきたから、単純過ぎる。燐の言う通り、みんなにバレて一時は大変だったけど、いい方向に転がったから、とりあえず今はアイドルじゃない水城優希として、燐との時間をいっぱい過ごさせて欲しいな。

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