嵐の波に切り込みを
一緒に共演する方々に挨拶も済ませて、確認と打ち合わせも無事終わった。目の前に並ぶカメラがあたしに向けられていて緊張しかない。精神統一させるために目を閉じて深く息を吸い込んでゆっくりと吐き出した。
「はい、今日はNEW DIMENSIONで歌姫とも呼ばれています水城優希さんゲストに来てもらってます、よろしくお願いします!」
「よろしくおねがいしまーす」
「水城さんと言えばKnightsの皆さんと仲良しで有名ですよね」
「はい、みんなとは仲良くさせてもらってます。みんなあたしよりも年下なんですが、すごい頼もしくて日々助けてもらってます」
「そうなんですね!よく一緒に共演やプライベートでも仲良くしてる様子はSNSでも話題ですが…、助けてもらってる、とは?」
「実は…あたし、地元を飛び出してるんです」
あたしは話した。
天城兄弟とは幼馴染であること。
大人たちとの折り合いが付かずに故郷を飛び出したこと。
世間知らずだったあたしのことを助けてくれたのがレオくんを始めとするKnightsのメンバーであったこと。
助けてもらった彼らのために芸能界の仕事を共にしてきたということ。
そして、また天城兄弟と再会したこと。
「アイドルは、故郷にいる時から素敵だなって思ってて、よく兄の燐音と見てたんですよね。自分で故郷を出ることを決めたはずなのに寂しくて、思い出を忘れたくなくてアイドルになったのかもしれないです」
燐が憧れてた、なんて言ったら燐のイメージがまた変わっちゃいそうだから、ところどころ伏せるところは伏せて、言い直して言葉を紡ぐ。
「二人とは幼馴染であり、弟の一彩は本当の弟みたいに可愛がっていたんです」
ひーくんと初めましてした時が懐かしくて自然と表情が緩んだ。
「けど、兄の燐音はあたしにとって憧れてでした」
物心ついた頃からずっと横には燐がいた。楽しいことも嬉しいことも一緒だったし、嫌なことも大変なことも燐がいたから乗り切れた。
「今、世間ではいろいろお騒がせしてすいません。みなさんからのいろんな意見とかも拝見してます」
応援してくれてるファンからの意見、アンチな言葉、言いたい放題のメディア。
「故郷を出て、あたしはもう帰れないと思っていたし、だからこそ二人には会わないつもりでした。逆を言えばもう会えないと思ってたんです」
そう、会いたくても自分がどんなに望んだって、もう会えないと思っていたあの頃が懐かしい。
「あたしも彼もアイドルですが、それ以前にずっと一緒に育った幼馴染で在り、あたしにとって大切な存在です」
一呼吸置いて、言葉を自分の中で整理する。
大丈夫、ちゃんと話せてる。と、確認しながら。
「長く一緒にいたから、これを交際と言うのかとかもピンと来ないけれど、これからもずっと一緒にいたいと思える人だから。今回の件で驚いた人たち、ショックを受けた人たちもいることは重々承知ですが、これからもアイドルの水城優希としてもしっかり活動していきたいと思ってますので、プライベートに関しては見守っていてほしいな…と思います」
これが正解なのかわからないけど、故郷を出て行くことを決めたあの時、言葉を発することすらできなかったあたしがあの日と違うことをするためにテレビで語ることを決めた。
つむぎくんに無茶言って、番組の収録を抑えてもらって。
今回のスケジュールが決まってからKnightsのみんなにも打ち明けた。
みんな、心配してくれたけど、ナルちゃんはすごく応援してくれた。
ありがとう、多分あの日のあの言葉がなかったら、あたしはまだ悩んでたかもしれない。
“優希ちゃんらしく。二人のこと応援してるわ”
燐には怒られちゃうかな…、また勝手に決めてこんなことしてって。
でも、あたしができる思い付くことはやらずにはいられなかった。
理解されなくても、受け入れられなくても、知ってほしかった。あたしの気持ちを、考えを。
みんなには申し訳ないけれど、あたしはアイドルよりも燐優先だから、いざというときはそれなりの覚悟も決めていたのは内緒だけどね。
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