気付けば嵐の真っ只中



怒涛の収録を終えた頃、


やっと息抜きができると思った。



のに、




休みなんてあたしにはなかった。



現実が何をしたって変わるわけではないのをわかってはいるし、どうしようもないのを理解した上であたしは事務所の机にぶっ潰して一人項垂れる。


「優希さん、大丈夫ですか?」
「つむぎくん…」
「すごい顔になってますよ、はい。とりあえず飲んでください」
「ありがとう…」


あたしの様子を見かねて、声をかけてくれたのは我らがニューディの副所長でもあるつむぎくんだ。つむぎくんは持ってきてくれた飲み物をテーブルに置きながら、あたしのことを察してだろう、苦笑いを浮かべている。


「つむぎくん…」
「はい、なんでしょう」
「…お仕事増やしてごめんなさい」


つむぎくんは優しいから、あたしに優しい言葉をかけてくれる。けど、つむぎくんだって大変なはずだ。その証拠につむぎくんの顔には疲れが浮き彫りになっていて、各方面からいろいろ言われてるんだろうなってのは聞かなくても分かった。



「一番、大変なのは優希さんですからね」
「…けど」
「優希さんは軽率な行動をする方ではないのは知ってますから。今は身動きが取りにくいでしょうけど、仕方ありません」
「うん…」
「Knightsのみなさんも優希さんのためにいろいろ協力してくれてるじゃないですか。落ち着くまで、もう少し動きが可能になるまでの辛抱ですよ」



つむぎくんは優しく諭すように呟いた。その優しさが更に胸がズキっと痛む。そう、あたしはつむぎくんだけじゃない。Knightsのみんなにも迷惑をかけている。なんなら、ニューディ全体に、だ。あたしは思わず、はぁ…とため息をついた。

多分、Knightsのみんなも仕事の先々でマスコミに追われたりしてるんだろうな。それななにあたしは事務所が用意してくれたホテルで過ごしては、こっそりと事務所に連れてきてもらったりしてる。あたしはどこまでも配慮されていて申し訳なくなるほどに。


家に数日帰ってない。


つまり、この数日は確実に燐にも会えていない。


燐は大丈夫だろうか、コズプロだってきっと今大変なはず。


あたしは手元にある自分のスマホのロック画面を解除してネットニュースの一覧を開く。嫌というほど、見てきた文字。何でこうなっちゃったんだろう、と思ったって仕方ないのはわかってる。後悔先に立たずって言葉もあるほどだから。まあ、後悔する点もわからないのだけど。



“コズプロの毒針・天城燐音とニューディの歌姫・水城優希熱愛発覚”



そう見出しに書かれたのはもう数日前のことだった。




いわゆる熱愛報道が出始めてから数日が経過している。それでも変わらずホテル生活。ベットの上に一人座り込むあたしの横には放り投げたように放置してある自分のスマホ。画面は光ったまま、バッテリーが消費されているのはわかるけど、これ以上画面を見るのも嫌になってしまったあたしはそのままにしてある。


スマホの画面は先ほどまで見てきたネットニュースで記事を見るからに、割とずっとあたしたちは見張られてたみたい。書かれていたのはCrazy:Bのライブ後、打ち上げを終えた燐があたしのところに来たところや一緒に近場へ出向いてるところ、なんならこの前あたしが酔って燐が迎えに来てくれたところもばっちり撮られていた…。



“Crazy:Bの天城燐音、歌姫・水城優希を騎士から奪ってお持ち帰り”

“天城燐音、ライブの後にまさかの密会”

“毒針に刺された歌姫・水城優希”


ただの熱愛報道でさえ、大変そうだとおもっていたのに、実際の報道は気分の悪いものだった。どれを見ても、燐の書かれ方は見ていて気分の良いものではないし、ネットでは大炎上。元々Knightsのみんなと仲が良いのもあって、納得できない人たちもいれば、相手が燐という理由で言いたい放題。あたしにかかるのはストレスばかり。でもそれでクヨクヨしてる場合でもない、だって燐の方がきっと嫌な思いをしてるはずだから…。



(あれから、連絡らしい連絡もできてないんだよな…)





燐のために在りたいのに、いつだって迷惑かけて足を引っ張ってる気がする、こんな時に限って浮かぶのは今までのこと。ここ最近のことだけじゃなくて、故郷で過ごした時間や故郷を出て行ったりした日のことで、精神的疲労が溜まっていたあたしは段々と視界がぼやける。


周りには誰もいないのに、誰にも見られたくなくて膝を抱えて蹲る。


蹲ることにより視界が遮られて聴覚が鋭くなる。部屋の静けさが自分だけと自覚させるように、孤独さが更に際立って逆効果な気もするが、何をしたって落ち着かないし、何を見るのも辛いから仕方ない。


何でかはわからないけれど、ふと顔を上げてみたら、放置していたスマホにお知らせのポップ画面が映し出されているのがわかった。

あれだけ見たくないと思っていたはずのスマホを手に取った。

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