静寂の中の現実




「優希、帰ンぞ」

「んぅ〜、りん…だっこ…」

「帰ったらなァ」



完全に幼少期のようになっている優希は相当酔ってンな…と見ただけでも分かっていたはずなのに、流石に外でこんなんじゃどうすっかなァ…と思わずにはいられない。優希を支えながら、店の入り口付近までやってきた。さすがKnightsだなと思う、店の雰囲気だって店員の対応だってしっかりしてンな…と。俺が最初、アイツらの座席聞いた時は流石に驚いてたけど、そのあとは何食わぬ顔で接客してきたし。多分、今俺らがこんな感じでも見て見ぬ振りなんだろうな。ありがてェことに、周りには人影なんてねェんだけどよ。







「ちょっと、」

「ア?」


優希を支え直して、店を出ようとしたら誰かに声をかけられた。こんなタイミングで誰だよ、と思って見れば、なんだ。Knightsの鳴上嵐だった。優希がよく、ナルちゃんと呼んで、よく一緒にいる話は聞いている。テレビで見ても、なんで見てもニコニコしていて我関せずって印象、


「ンだよ、辛気臭ェ顔してンな」


辛気臭ェつーか、不意に落ちないつーか。何かを腹に溜めてるのだけは見てわかる。俺っちは普通に優希を迎えに来て、穏便に連れ出したはずだけど何が気に触れたんだかねェ…と思っていれば、ずっと思い詰めていた目は何かを心に決めて、俺を捉える。



「アナタにとって、優希ちゃんって何かしら」


「ハァ?」 


突拍子もない質問に驚いて、思わず声を上げてしまった。優希は酔っていて、気にしてない様子どころか、多分分かってないんだろうな。


「何ってなんだよ」

「優希ちゃんから、アナタたちのことは聞いてる部分もあればそばで見ていることもあるから知ってることは多いと思ってるわ。けど、それを形容するならばどんな言葉になるのかしら、と思ってね」

 

内容も本当に突拍子もねェな…。なんでこのタイミングなんか…って思ったけど、コイツがそんな意味もなくそんな話をするわけねェ…と思ったら、多分優希絡みなんだろうなってのは予想がついた。腕の中で擦り寄る優希の髪を撫でて、考えてみる。




「俺っちが優希と付き合ってるとかどうとかって問題が聞きてェの?」



そう呟いても返ってくる言葉は何もない、俺はそれを肯定と取らせてもらった。形容ねェ…と内心言葉を繰り返していたら、ふと笑みが溢れる。



「優希も分かってンじゃねェの。俺らは付き合ってるわけじゃない」



溢れた笑みも自分でもわかるぐらいすぐに消え失せてしまって、アイツを見返せば俺の反応が予想外だったのか一瞬だけ、小さくだけどびくりと体を震わせたのがわかる。まあ、さすがプロって感じだよなァ。



「優希は俺っちのだし、俺だって優希のモンだ。同じ故郷で生まれて育ち、優希は俺を君主として扱うように育てられた。俺は逆に言えば民のためにあるべき存在。その中で俺らは言葉で言うならば許嫁ってところだろうな」


「…それは」


「けどな…、所詮それは俺たち故郷での価値観であって、俺らはそんな言葉で収まらねェんだわ」



支えていた優希を抱きしめて、髪に顔を少しだけ埋めれば優希の愛用しているシャンプーの香りがした。



「付き合うってなんだ、キスしたら?セックスしたら?だからなんだよ。ンなのだったら、セフレだってそうだろうよ」



言葉にして、形容してそれが何になる。



「まあ、それでも使うなら嫁じゃねェの。事実、優希は小さい頃にお嫁さんになるって言ってたしなァ」



事実婚ってのだってあるんだし、珍しくねェっしょ。


歪んでるって言われようが、どうだっていい。







俺と優希が納得してたらそれで良いんだよ。

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