側近から見た日常




「「「おつかれさまでしたーっ!!!」」」


この掛け声とともにぶつかり合うグラスには並々に注がれたドリンクたち。ゴチンと鈍い音を何度も不揃いに立てて、ある程度すればそのグラスを各々口をつけていく。


「ぷっは!美味いな!」

「月ぴ〜いい飲みっぷり〜」

「アンタたち、程々にしなよ〜」


ゴクゴクと飲み物を一気に喉を通過させ、潤いを満喫するレオくん。その様子を見ていた凛月くんが楽しそうに声をかけて、それを更に泉くんが何とも言えない表情で静止をかける。まあこんな時ぐらい良いんじゃないかな、と思いつつもこれがKnightsとの打ち上げの形である。


「今日もありがとう」

「優希ちゃんもお疲れ様」



そして私の横に座るのは、Knightsと一緒に仕事を終えた優希ちゃん。いつだって、ありがとうという言葉を真っ先にかけてくれる優希ちゃんに癒しと励みとやる気をもらってる気がする。お互いに顔を見合わせて笑って、どちらからともなく持っているグラスをコツンと合わせた。



「優希ちゃん、調子はどう?」

「うん、なんとか…!あと少しでひと段落つきそうかな」



最近、優希ちゃんは楽曲作りで忙しそうだ。アルバム作成中らしく、スタジオにこもってることが多いらしい。昼も夜も時間を忘れて楽曲作りに追われて、頭がおかしくなりそうなんて言ってる時もあったけど、それも終わりが見えてきたのなら良かった。だからってこともあってだろう、忙しいというのに今日はKnightsの予定に呼ばれてやってきた優希ちゃんは、彼らなりの息抜きも兼ねてのお誘いだったのかもしれない。



「明日もスタジオに行くの?」

「うん…でも明日はちょっとゆっくりしてから行こうかなって。だから、今日は羽を伸ばして楽しむ」

「じゃあ、いっぱい飲んで食べよ〜っ」

「ちょっとそこ〜!飲み過ぎ食べ過ぎ禁止だからねぇ〜?!」


優希ちゃんがゆっくりできることもわかって、こういう機会って貴重だからめいいっぱい楽しもうと声を上げれば、こういう時ばっかり耳が良すぎる泉くんにバレて怒られた。それまでがいつもお決まりのパターンなので、私は適当にハイハイとあしらっておいた。













時間はあれからあっという間に過ぎてしまい、あらかたテーブルの上の料理も捌けてきた頃。


「優希ちゃん、」

「ん〜…?」

「お水もらおうか」



連日の仕事の疲れも溜まっていたのだろう、潰れるまではしないけれど、ゆらゆらと体が揺れている優希ちゃん。確実に酔いが回っているのは誰が見てもわかる。酔いがまわる前には自制をしてるタイプだけれど、今回は多分読み誤ったのかもしれない。スケジュール的にもかなり大変なのはわかってたので、店員さんにお水を頼むことにした。



「おーおー、見事酔ってンじゃねぇの」


店員さんにお願いしてから数分後、店員にしては口が悪く確実にうちのスタッフではないであろう声がして、視線を向けた瞬間に私はギョッとしてしまう。



「優希チャン、大丈夫か〜?」

「んぅ…」



私は確かに店員さんにお水を頼んだはずだ。しかし、今目の前にいるのは誰か。Crazy:Bの天城燐音ではないか。しかもちゃんと手には頼んだであろう水を持っている。何故彼が、いろいろ思ったところはあるはずなのに、言葉がつっかえて出てこない。


突然、天城燐音が現れたというのにKnightsのメンバーも驚きもしなければ、慌てもしない。なんなら、当たり前のように彼を認識しているではないか。「あぁ、やっときた〜」みたいなことを凛月くんが言ってた気がするのは空耳ではないはず。天城燐音は持っていた水を優希ちゃんの前に置いて、ふらふらと揺れる彼女の後ろに立って背もたれになっていた。

元々背もたれのある椅子だけど、頭までの高さがないはずなのに頭が突然支えができて不思議に思ったのか、後ろを見上げたかと思えば今までの酔ったボーッとした様子から一変してへらりと笑顔を浮かべる。



「りんだぁ」

「そうそう、俺っち」

「りーんっ」

「はいはい」



天城燐音を見るなりすごく嬉しそうに、しかも声のトーンも感情に従って上がっていた。天城燐音のシャツを掴んで、甘える様子は二人の関係性がよくわかる。言わずもなが、すごく距離が近いことを。


「ンじゃ、優希は連れて帰るわ」

「はい、きちんとご自宅までお願いしますね」

「わーってるよ。あ、優希の代わりにこはくちゃんでも呼ぶかァ?」



結局、優希ちゃんは天城燐音に支えられながら帰る事に。天城燐音と言えば、Knightsのみんなに連れて帰る挨拶をちゃんとしたかと思えば、司くんに対してケラケラと冗談を言い始めたりして、司くんは「結構です」なんて言いながら首を横に振っている。やっぱり何とも掴みにくい。



結局、私はテーブル席から立つこともなく、二人が座席を後にする後ろ姿を見つめるだけ。あぁ、行ってしまった…、優希ちゃんは大丈夫だろうか、なんて思っていれば、私の考えを見破ったかのように凛月くんが口を開く。「優希なら大丈夫だよ〜」と、いつもの様子で。それなら良いけど、なんて思っているタイミングで気づいた、


このテーブル席から姿を消している人に。

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