静寂の中の違和感



インタビューとか、バラエティーとか、ラジオとか。

トークする機会があると、ついて回る内容の一つだとあたしは思う。



“初恋はいつですか”

“好きなタイプはどんな人”



そう恋愛に関する話。


みんながいう恋愛って何?


あたしは恋愛ってものをしたことがあるのかすらも分かってないのに。


あたしが燐に感じるものは?

燐のことは好き。

だけど、テレビや本でいう好きとあたしの思う好きは何かが違う気がするの。




みんなの言う好きってなあに。






意識が浮上する感覚で、そっと瞼を開けて見れば至近距離の燐の寝顔。キラキラとした綺麗なターコイズブルーの瞳は瞼が閉じていることにより見えなくて、それでもすぐ目の前に燐がいるだけであたしは目が離せない。

昨夜といえば、Crazy:Bのライブがあって、打ち上げが終わってからあたしのところに燐がやってきて。ライブでの熱と久々に翌日がお互いにオフであること、そしてアルコールのせいで気分は間違いなく良くなっていて、お互いの気分も乗っかって体を重ねたんだった。

まだ朝方の早い時間だろう。時計はこの位置からじゃ見えないし、見るために動くのも億劫でボーッと燐を見つめていれば、耳に入るのは燐の寝息の音と微かに聞こえる鳥の囀り。布団をかぶっているから見えないけれど、あたしも燐も何一つ服を着ていない。そのため、素肌で布団の肌触りを感じるし、至近距離でいることにより触れ合っている燐の体だって素肌なのがわかる。肌と肌が触れ合って、燐の体温が伝わってきているのだが、これがまたあたしの中に安心感を与えてくれる。




それなのにこの安心感と同時に過るのは、不意に落ちない感情だった。




「ン…」



ボーッとしていたら、燐が動いて引き寄せられる。多分、起きてはいないし無意識のものだろう。元々近かった距離がさらに縮まった。身動きが取れないけど、あたしはこの距離感も伝わる体温も時間さえも好きだから、少しだけ燐を起こさないように擦り寄って目を閉じた。















『…と…の熱愛記事が週刊誌に取り上げられました』


あれから数時間後、目が覚めて適当にシャツだけ着て歯を磨いていれば、垂れ流しているだけのテレビから聞こえて来るアナウンサーの言葉。あたしはその報道を無意識に手を止めて眺めてしまっていた。



「優希、?」

「ん…」



気づけば、洗面所にいた燐がそばにやってきていて不思議そうな表情でこちらを見る。なので、なんでもないよと伝えるように首を横に振って入れ替わるように洗面所へとあたしは移動した。



「んー…」


時間も時間だし、と思って何か食べるものと思って冷蔵庫を開けてみたけれど、びっくりするぐらい食べ物が入ってなかった…。どうしようかな、なんて思っても冷蔵庫の中身は変わらない。


「優希、ほら」

「ありがと」


ケトルでお湯を沸かした燐がコーヒーを淹れてくれたようで、マグカップを手渡してくれた。なので、とりあえずそのコーヒーを受け取って、一口頂く。



「燐」

「ン〜?」

「ごめん、食べるものなくって」

「あァ、んじゃどっか出るか」



こう言う時、燐はいっつもそうだ。あたしが申し訳なく思ったって、燐は嫌な顔をしなければ、いつだって解決法を見出してくれる。こういう燐の優しいところが居心地良くて、また一口コーヒーを口にした。


コーヒーを飲み終えて身支度を整えて、一応全身鏡の前でチェック。昼間に燐と一緒に出かける訳だから、変に目をつけられないようにという意味で自分の姿を確認していれば、いつの間にか後ろにやってきていた燐に抱きしめられる。何事かと思って鏡越しではなく、振り向けばそのまま唇を塞がれた。



「ッン、…り、ん…?」



突然のことに訳も分からず、名前を呼んでみれば珍しく擦り寄ってくる燐。はぁ…と小さくため息を吐くのが耳に入ってきた。


「…出かけるのやめる…?」


体調が悪いのか、本当は嫌なのではないかという思考が過ぎって心配にる。その考えがどうやら表情に出ていたのか、はたまたバレバレだったのか燐の小さく笑う声が聞こえてきた。



「ン…、幸せだなァ…って思ってよ」

「…幸せ?」

「昨日のライブも最高だったし、優希とこうやって過ごせるしなァ…って思ってよ」



そっか、燐は幸せだと思ってくれていたんだ。と思えば、あたしも一気に気持ちは晴れやかになる。頻繁に会えるわけでもなければ、故郷にいた頃のように外を堂々と歩けるわけでもないけれど、燐にそう言ってもらえるなら、あたしだって嬉しい。


そんなことを思っていたら、さっきまで抱えていた疑問もすっかり気にならなくなる始末。



「ンじゃ、出かけっかァ」

「うん」



だから、危機としてあまり意識がなかったのかもしれない。


守られていたことへの意識も薄れていたのだろう。


一つのレンズがあたしたちの行動を捉えてたなんて思ってもみなかった。

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