雨の日2
ESに向かう途中、それは突然だった。
ポツポツと顔に何かが触れたと思ったら、ザアザア降りの雨が突然降り始める。周りで雨宿りするよりもあと少しでESに着くため、とりあえず走ることを選んだ。
あと少しと思っていたけれど、見知った道とはいえ、この雨の中。走っても走ってもなかなか着かないように感じてしまう。やっとESの入口が見えてきたときには、着ていた服はかなり濡れてしまっていた。
「優希、何やってンの」
濡れた服を無駄だとわかりつつ、水気を落としていたら突然声をかけられる。自分の服しか見ていなかったあたしは、声のした方に視線を向けて見れば、そこにいたのは驚いた表情でマジマジとこちらを見つめてくる燐がいた。
「ここに来る途中で雨降ってきちゃって」
「傘は」
「持ってない」
「…買わなかったのかよ」
あたしが傘を持たずにここまで来たことを知った瞬間、燐はなんとも言えない表情に変わる。声のトーンだって一気に落ちてしまった。燐は持っていた手荷物から一枚のマフラータオルを取り出して、あたしの頭をわしゃわしゃと拭き始める。
「さっきまで練習してたからよ…、汗臭いかもしんねェけど」
「んーん、平気だよ」
「これ、使ってねェやつだからよ」
「ん、ありがとう」
平気と言っても、燐は多分気にしてるんだろうな。そんな大丈夫なのに。燐からの優しさに触れて安心で気持ちよくなってしまって外だということも忘れて目を閉じていれば、「ったくよ…」なんて声が耳に入ってくる。
「なんか、昔みたいだね」
目を閉じたまま、その瞼の裏に描かれるのは遠い昔の幼少期。あの時もこんな風に家を出てから突然の雨が降ってきて濡れちゃったんだよな…。燐のところに行こうとしたときで、そのまま行ったら燐に心配されたんだよね。
「そうだな」
昔みたい、って言った言葉に対しての肯定だろう。うっすらと目を開けて見れば、燐は小さく笑ってくれた。
「走ればすぐに着くと思ってた距離なんだけどね」
「ン…」
「走ってみたら、思ったより距離があるように感じてね」
「あァ…」
「雨宿り、も考えたんだけど、まあいいかってなっちゃって」
「…よくねェだろうが」
言ったら多分、燐は納得しないだろうなって思ったことを口にして見れば、燐はやっぱり少しだけなんとも言えない声色になる。けど、いいの。濡れちゃったけど、
「だって、ね。なんとなく、こうやって行ったら燐がいる気がしてたから」
そう、あの日の記憶と重なって、足を止めるのがもったいなかった。確証も確信も何もない、ただのあたしの気持ちだけで動いていて、そうしたら、本当に燐がいて内心驚いたけれど、それ以上にやっぱりいてくれたという気持ちが強かった。
なーんて言ったら、燐は一瞬面食らった顔を浮かべたけどすぐにフッと笑って「そーかよ」と呟いた。
雨は降ったし濡れちゃったけど、こうやって燐にも会えたし、正当な理由で外で堂々と外にいられたから、気分はとっても晴れやかである。
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