騎士と打ち上げ



※燐音再会前
※鳴上視点




『かんぱーい』


今日はKnightsのみんなと優希ちゃんで打ち上げ。優希ちゃんは先日、成人を迎えたということもあって今日のドリンクはアルコールにしてたわ。


「優希ってお酒呑むの?」
「んーそんなにかな…。家では基本呑まないし、お付き合い程度にこういうところでは少し呑むけど」



優希ちゃんは、凛月ちゃんからの質問に答えながら、ちびちびとお酒を口にする。うーん、と考えながら答える様子は彼女の性格の表れよね。元々の性格的にはっきり、スパッとなんでもいう子ではなくて、控えめというか自分を全て曝け出さない感じ。レオくんをきっかけに知り合った時よりは全然口数も増えたし表情だって変わるようにはなったけど、人間の本質ってそう簡単に変わるものではないものね。



「お酒も詳しくないし、次の日の仕事に響いてもよくないし」
「お酒の飲み過ぎはむくむから、今日だってほどほどにしなよね〜」



泉ちゃんはそんなふうにいうけど、素直に優希ちゃんのことが心配って言えばいいのに。全く素直じゃないんだから。けど、優希ちゃんも「ありがとう」なんて答えるから、ホントに不思議なくらいいい子よね。わがままとか言わないのかしらって心配にもなるわ。














なんてやりとりをやってたはずなのに。


「優希ちゃん大丈夫?」


気づけば、こっくりこっくりと船を漕いでいる優希ちゃんが横にいて、見れば目はとろんとしているじゃない。頬も赤みを帯びていて、完全にこれは酔ってるわ。グラスを見れば、赤い色をしたカクテルがまだ半分ぐらい入っていて、あまりにも色鮮やかで視線が外せなくなる。


「言わんこっちゃない…水もらおう」


泉ちゃんも優希ちゃんの様子に気づいて、店員さんに水を頼んでくれた。テーブルに残ってるだし巻き卵を摘みながら凛月ちゃんがあることに気づく。



「優希、さっきも赤いお酒呑んでたよね」
「そういえばこれ、2杯目だったかしら」
「さっき注文されてたのはspumoniで、今回はcherry blossomですね」
「よく覚えてるね、ス〜ちゃん」
「先程、店員さんにorderする際、優希お姉さまが赤いお酒を聞いていましたから」



なるほど、なんて思いながらスマホを出して司ちゃんが述べたお酒を調べてみることにした。スプモーニは、カンパリにグレープフルーツで呑みやすいらしい。たしかにグラスのところに柑橘系の何かが添えられてて可愛らしかったわ。それで今回呑んでいるのがチェリーブロッサム。って、桜の花のことよね…なんて思いながら調べてみたら、ちょっとちょっと!驚きよ!



「ねえ、このお酒25度ってかなり強いお酒じゃない?!?!」



スプモーニと比べて小さなカクテルグラスに注がれているそれは、スプモーニと比べると全く可愛くない度数。お酒を呑んだことがないあたしたちでも、一般的に買えちゃう缶のお酒の度数が5から7ってことを何となく知っていて、もちろん度数の高いお酒があるのも知ってるわ。あまりにも驚いちゃって柄にもなく声をあげてしまったけど、アタシの声の大きさではなく放った言葉に驚いたであろうみんなが目を見開いて見つめてくる。



「優希、大丈夫か?今、セナが水もらってきてくれるぞ」
「んんんッ…」



さっきまで紙とペンを渡されて作曲に夢中だったレオくんまでも優希ちゃんのことに気づいて心配で声をかけていた。優希ちゃんは酔いが回ったせいでちゃんと座ってるのも無理なのか、テーブルにぶっ潰してしまう始末。やだやだ、優希ちゃん大丈夫じゃないわよ〜。



「、ん…」
「なぁに?どうしたの」


優希ちゃんが何やら消え入りそうな声で何かを呟くけど、聞き取れない。耳を近づけてみて、やっと聞こえてきたのは「り、ん、」と誰かの名前だった。



「優希お姉さまはなんて?」
「…りんって言ってたけど。レオくん、知ってるかしら?」


聞き慣れない名前にあたしは首を傾げる。司ちゃんからの質問にもそれだけしか答えられず、あたしたちよりも長く過ごしていたレオくんに尋ねてみるも、レオくんは神妙な面持ちで黙ってしまった。



「なになに、月ぴ〜。地雷トーク?」
「そんなんじゃない!」



凛月ちゃんがニヤニヤしながらレオくんにちょっかいを出してみれば、レオくんはぷんぷんした様子で声を上げる。「おれはほんとうに知らない!」なんて絶対何か知ってるじゃない。それでも言わないのは多分、優希ちゃんの触れちゃいけないことなのだろうと思う。



「ほら、優希。お水もらってきたよ」
「優希お姉さま、起きてください…!」



戻ってきた泉ちゃんと司ちゃんに介抱されててる優希ちゃん。優希ちゃんは多くを語らないし自分を出さない子だけれど、呑んでたお酒だって、呟いた名前だって、きっとこの子の中では大切なことなんだろうなってことだけはわかったわ。


人はいろんな過去がある訳だから、捜索しようなんて思わないけれど、優希ちゃんが今後少しでもたくさん笑えて過ごせたら良いなとアタシは思うの。

[ ]









×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -