再会1



あたしはニューディ所属のアイドル、水城優希。本名で活動中。元は顔出しをせずに活動していたのだが、周りの支えてくれてきた人たちをきっかけに最近では、少しだけだけどイベントにも出るように活動している。


本当は顔出しとか、テレビとかあんまり出たくないんだけどね…。

なーんて、以前はアイドルらしからぬ考えを持っていた。
これは、そんなあたしが彼と再会した時の話。



「優希は次、どんな仕事なんだ?」
「前にレオくんからもらった楽曲、あれの収録だよ。でもその前にKnightsのみんなの練習に顔出す予定」
「えっ、優希が来るのか?!じゃあ、俺も練習行く!」
「レオさん!あなたが参加するのは必須事項ですので何言ってるんですか…!」


ニューディのフロアからエレベーターホールに一緒に向かいながら話しているのは、同じ事務所のKnights所属である月永レオくんと朱桜司くん。レオくんとは、ニューディに入る前からの付き合いであり、レオくんをきっかけに司くんとも知り合った。
手には、事務所でもらった資料を抱えつつ、この後のスケジュールを言うとレオくんは嬉しそうに笑ってたし、司くんはプリプリと声を上げていた。こういう時、2人が学生時代の頃…というよりはレオくんが在学中のことを思い出して、懐かしいなと思う。まだ数ヶ月前のことなのにな。


ボタンを押して、やってきたエレベーターに3人で乗り込むと、向かう階はこれから3人で行く予定のレッスン室。多分、泉くんとかもういるんだろうな。凛月くんは、大丈夫かな…、ナルちゃんが連れて行くと言っていたし大丈夫だと思おう。



「前にスオーがセナのマネしてた時のアイツなんだっけ」
「なんのこと…?」

気づけばお目当ての階にエレベーターはついており、降りて2人と一緒に慣れたルートで目的地を目指す。ぼんやりと他のメンバーのことを考えていたものだから、2人の話を全く聞いていなかった。

「こはくんのことですか?彼なら今は同じunitの方々とお仕事に励んでるようですよ」

最近たまに聞くようになった司くんの幼馴染。こはくんと言うらしい。ちなみに、レオくんは顔見知りなのかな?割と聞く気がする。所属事務所が違うのと、あまり他の情報を仕入れないようにしていることもあって、なかなか覚えられないでいる。


(多分、ないと思うけど…)


ふと過ぎるは眩しいぐらいの優しい笑顔をした彼のこと。

彼が好きだと言ったアイドル。

本当なら忘れなければならないし、なる資格もないのに、なってしまったアイドル。今、彼はどうしているのだろうか、と思ってはその気持ちを掻き消す日々。


ズキンと痛む胸は気のせいではない。



「そういえば、こはくん…桜河が優希お姉さまのことを聞いて来たんですが、優希お姉さまは、こはくんとお知り合いだったのですか?」

「えーっと…多分知り合いじゃないと思うけど」

その、こはくん?おーかわ?とやらが、あたしのことを聞いてきた?司くんも不思議そうに聞いて来たけれど、あたしも心当たりはない。基本仕事は小さな仕事ばかりで、レオくんかKnights絡みのものばかり。ここの時点でかなり名前も広まりそうに聞こえるが、レオくんが別の名前で作曲しているものだったり、Knightsに関してはほぼ裏方仕事、プロデュースのお手伝いだったりする。

昔、知り合って間もない泉くんに「ダンスがすごいキレイだし、いろいろ見えてることが的確なんだけどなんで?」と問い詰められたことが懐かしい。


「実はmessageが来てまして、こはくん…というより、memberの方がどうやら優希お姉さまにお会いしたいみたいで」

スマホを片手に届いていたであろうメッセージを確認する司くん。危ないよ、と思いつつレッスン室が見えて来たし、大丈夫かなと思っていた時だった。いつものレッスン室だったことと、司くんが歩きスマホをしていたこともあり、あたしは何も気にせず扉を開けていた。

今思えば、この時に気づいていたら、また変わっていたのかな。


扉を開けて司くんを横目に入った時、「坊」と聞き慣れない声と言葉が耳に入る。それに続いて聞こえて来たのは、「あら、お疲れ様」とナルちゃんの声。そして気づいた時には、がっしりと誰かに腕を掴まれていた。

訳がわからず、司くんから目線を外して見た先にいたのは、さっき思い浮かべた姿よりも大人びた彼だった。



「燐…」


一番、会いたかった人であり、


一番、会いたくなかった人である。

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