ハリポタ | ナノ

ホリデー  





新学期が始まって数ヶ月。
楽しい生活が続いていても、これは例外なくやってくる。


「じゃあシリウス、手紙を書くね」
「おう」
「よい休日を」


いつものグリフィンドール寮、

いつもの談話室、

いつも一緒にいたジェームズたち。


いつもと違うのはジェームズもリーマスもピーターも防寒着をしっかりと着込んで、首もマフラーを巻いていて、大きな荷物を持っていたことだ。

俺はいつもと変わらずそれを眺めて「じゃあまた休み明けな」とだけ声をかけるとみんな俺に背を向けて行ってしまった。

みんなこれからホグワーツ特急に乗るため、これから自分達の実家に戻るための身支度がされている。



新学期が始まってからあっという間だった。楽しい時間は一気に過ぎていき、季節も変わって冬になった。学校内も例外なくホリデー休暇が始まり、ホグワーツにいる大体の生徒たちは実家で過ごすために談話室を後にする。普段は賑やかなここも、一気に間抜けの殻。しんと寝った談話室。俺の大好きなここが一気に無になる瞬間。


これから短いようで長い休みが始まる。


一人で過ごす此処はつまらねぇし、何より一人が嫌になる。


せめて、ナマエがいたら違ってただろうに。


そう思ったって、あいつも例外なく帰ると言っていた。ナマエは遠いここまで来てるからこそ、より母国に帰れる時は帰りたいはず。慣れない国で慣れない言葉を喋って、今でこそ慣れてきたかもしれないけれどそれでも母国ほど落ち着くものはないだろう。



「まじつまんねぇ…」



ポツリと呟いた声を拾ってくれる奴は今誰もいない。此処での日常を楽しく過ごしている反動を今まさに嫌というほど実感してしまう。


こんなの実家にいる時と変わんないと思いたくなる、景色全てが白黒に見える。そんな気分だ。それでも、


「まだマシか…」



あんな場所に帰らなくていいなら帰りたくない。帰る必要がわからない。何もかも視界に入れたくないあの場所を自分で思い浮かべて胸糞悪くなって一気に頭の中から記憶をかき消した。



とりあえずフラフラと校内を歩いてみるが、何一つ変わらない。動く階段も動く肖像画も何も変わらない。なのに、明らかに校内に残った生徒の数は少なくて、すれ違うことの方が少なかった。やることもなければ、時間潰す方法をどうするかと考えて、読みたいわけでもないけれど図書室に行ってみる。中にはポツポツとだけれど残った生徒たちがいた。だけどその数はやっぱり普段より少なくて、ただで寒いこの時期、暖かく温度調整している室内なのに何処となく寒いような寂しいような気持ちしさせられる。適当に本棚の本を眺めて、目についたものを手にして開いてみるけれど、活字を読む気にもなれずにすぐにその本を戻してしまう。

結局、ここも俺の暇を潰せるわけではなく、図書室から出ることにした。


マジでやることが思いつかねぇ。



「ナマエ、何してんだろ…」

「あたしはここにいるけど」

「…は?」



無意識に言葉に出していたらしい。
今頃どこだ、どうやって帰るつってたっけ。とナマエとのやりとりを呼び起こしていれば、突然聞こえてきた声に俺はびっくりして後ろを向いた。



「シリウス、見なかったから帰っちゃったのかと思った」



ふんわりと笑みを浮かべるナマエは、良かったと小さく呟く。何その俺が帰ってたら、と言いたげな言葉は。



「帰ったんじゃなかったのか…」



驚いて一瞬忘れかけていたが、ナマエが此処にいることの方がおかしいはず。ナマエは確かに実家に帰ると言っていたし、その会話をした記憶もちゃんとある。だけど今目の前にいるのは私服姿だし室内にしては厚着だけれど、毎日顔を合わせてこの休みの期間で会えないと思っていたナマエだった。



「うん、戻るつもりだったよ。だけどシリウスは一人で残って寂しいんじゃないかなって思って」
「…なんだよそれ」
「ってジェームズに言われて、残ることにしたの」



思わず「はぁ?」って声が出た。自分が思ったよりも大きい声で、ここが図書室だったら間違いなく怒られていた。ナマエは当たり前のように俺が寂しいんじゃないかと言うもんだから、寂しい…わけではないけれど満たされない心の内を見透かされたようで上手く言葉にできずにいたら、これだよ。今頃ニヤニヤしているんじゃねえか、ジェームズの奴はよ…。



「帰るって言ったのに帰るのやめちゃったから、これから手紙出しに行くの。シリウスもいく?梟小屋」



ナマエに言われるまで気づかなかった。手には一つの便箋。ナマエが前に言っていた、書いてあるのは日本語だと。きっとそれはナマエの家族に宛てたものだと俺はすぐに理解した。





「日本の冬はね、コタツってものに入るんだよ」
「コタツ…」
「そう、低めのテーブルにね、布団みたいなのが被ってて、その上にテーブルの板が乗ってて。そこに足入れてると中があったかいんだよ」



ナマエの話はいつだって新鮮だ。今聞かせてくれている日本のコタツってやつも、説明の意味は理解できるけど想像しにくい。俺が思い浮かべてるものが正解なのかもわからず、少しだけ歪に感じるものが想像で出来上がってしまう。それを悟ったのかナマエは横でクスクス笑い始める。



「シリウスにも日本に来てもらいたいな、そしたらコタツ見れるのにね」
「ん、そうだな」



手紙を梟に括り付けて、ナマエは優しくその梟を撫でてやる。「遠いけど、できるかな」なんて聞くところがナマエらしい。前に言ってた、「日本までの距離は移動手段を使ってる自分だってツラいんだよ、すっごい疲れるんだから」と。だけど届けるのが仕事である梟は大丈夫と返事をするかのように鳴き声を一つあげて、そのまま小屋を飛び立って行った。





「…シリウス?」




耳に入ってくるナマエの声。俺の名前を呼ぶたびに、胸の中が満たされていく。気づけばナマエの腕を引いて抱き寄せて、ナマエのことをぎゅっと抱きしめていた。最初こそ、不思議そうにしていたナマエも寄り添ってくるだけ。



「今年はシリウスと一緒に年越しできるね」
「そうだな」


声だけでもわかる、嬉しそうなナマエの声。それもすぐにハッとした声でかき消されてしまう。


「あたしで良かった…?」
「ナマエがいい」
「そっか」



何を不安になるのか、いつだってそう。すぐに何かに不安を抱くから、俺はそんなこと気にしなくていいのにといつだって投げ掛ける。ジェームズたちがいない時間はいつだって白黒でつまらない世界だった。


だけど、今は違う。


今年はナマエが横にいる。



それだけでこれから短いようで長いホリデーも本当に短く感じそうだ。


さて、これからどうやって一緒に過ごそうか。


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