ハリポタ | ナノ

東洋の安定剤  





ジェームズはエバンズを追っかけていて何処かへ行ってしまった。リーマスはピーターのレポートの手伝い。

手持ち無沙汰となった俺は欠伸を一つ、噛み締めながら動く階段を一段抜かしで降りていく。談話室を出る前に忍びの地図を開いて目的のモノを探して悪戯完了。ただの紙切れに戻してベッドの上に放り投げた。逃げるわけでもなければ、急がなきゃいけない訳でもないのに、一段抜かしで降りて行くのは俺が早く行きたいという気持ちの表れ。

階段を降り切って、見慣れた廊下を曲がって小走り。視界の端にスニベリーを捉えたけど、今はそんな時間さえ勿体ない。


疎に生徒が出入りする扉が開いたままの図書室に俺はスルリと入り、本棚の合間を覗いては次の本棚へと移動する。物静かそうな奴が分厚い本を読んだり、本棚に並ぶ本を眺める奴もいたり。普段、ジェームズたちといるせいで騒がしさばっかりだから、此処は一段と静かに感じてしまう。


何個目かの本棚を抜けた時、此処に来た目的であるナマエが自分よりも遥かに高い位置にある本を何故か背伸びで取ろうとしている姿を見つけた。アクシオでも使えば簡単だというのに、他の奴がそんなことをやっていれば呆れて鼻で笑ってしまいたくなるそれも何故か、コイツの行動で見ていると全てが可愛く見えてしまうものだ。


「何探してんだよ」


背伸びするナマエの真後ろに立てば、その身長差は顕著に現れる。元々、ナマエは東洋の日本人。エバンズと比べても小柄に見える体格は、俺と比べてしまえば男女の差も加わり、本当に同い年か…?と思わずにはいられない。それは身長差だけじゃなく、顔立ちだってそう言えるだろう。現に、俺が声をかけたことにより、背伸びをして右手を高く上げた状態でぴったりと後ろに立っている俺を見上げるように見つめるその顔立ちは幼子のようだ。こんなこと、言ったりしたら怒るんだろうけど。


「シリウス…?あの本が取りたくて」


ナマエが指差す先にあったのは古びた背表紙の本。ナマエからしたらあと少しで届かない高さにあるそれは、俺からすれば難なく届く高さだった。そのままの位置で手を伸ばせば、あっさりと届いてしまったそれを引いて本棚から引き出す。その間、目の前にいるナマエをすっぽりと腕に収めながら。


「ん、ほら」
「ありがとう」


お目当ての本を手渡せば、ナマエは嬉しそうに受け取った流れでペラッと本を捲り出す。此処は図書室、つまり辺りは静かな訳で、ペラッペラッと紙が擦れて捲られる音がシンとした図書室内の本棚と本棚の間に響く。


此処に俺がいるというのに、見向きもしないナマエ。それが少しだけ面白くなくて後ろからぎゅっと抱きしめる。髪に顔を埋めて軽く耳を甘噛みすれば「やめて」と顔を押し退けられた。


「んだよ」
「シリウス、ニオイ嗅がないで。臭うかもしれないからイヤ」
「臭くねぇし、俺はナマエの匂いが好き」
「ヘンタイ」


俺のことをヘンタイ呼ばわりすんのも、こうやって嫌がるのもナマエぐらいではないのかと思う。大体のオンナは、キャーキャー騒ぐしうるさい。自分で言うのもなんだが、モテるから仕方ない。言い寄ってくるオンナは変に臭えし正直言って、実家のことを思い出して胸糞が悪くなる。


「ナマエぐらいだろ、んなこと言うの」


だけどナマエは違う。
俺のことを見てくれる、ブラック家のシリウス・ブラックではなく、ただのシリウス・ブラックとして。だから、こうやって嫌がってくれるし、ハッキリ言ってくれる。まあ、日本人として見たら、本音を隠しすぎだと思うけど。


「シリウスは物好きだよ」
「なんで」
「なんでってこっちが聞きたい」
「俺からすりゃ、日本人はなんでそんなに本音を隠す?」


ナマエの頬は赤いし、必然的に俺を見上げるための上目遣いでそんな顔しておいて言ってることが支離滅裂過ぎでは?めちゃくちゃ俺が好きって顔しといてよく言うわ。理解できなくて、俺は訳わかんねぇって思いながらもナマエを抱きしめながら頬にキスを落とす。


「ここ図書室…!」
「じゃあ、静かにしねぇとマダム・ピンスに怒られるな」
「わかってるなら静かにさせて」
「ナマエが騒ぐ理由がわかんね」


腕の中でモゾモゾと動いていたナマエもいつものように諦めたようで段々と大人しくなっていく。結局、ナマエが何かを諦めるまでがいつもの流れでさっき取ってやった本に視線を戻してしまった。


「…なあ」
「なあに」
「…」


気づけばナマエを呼んでいたけど、返事をされても何を伝えるべきか言葉に詰まる。出てきそうで出てこない言葉をどうすべきか、こんな時ジェームズだったらペラペラと出てくるんだろうけど、俺はアイツと違うから意識したらその分だけ出てこない。


「不安にならなくても大丈夫だよ」


まるで心を見透かすような一言。

ナマエは本から視線が外れることはなかったけれど、確かにそう呟いた声は俺の耳に届いている。


「シリウス、」
「…ん、このまま…」



擦り寄るナマエの体温。優しい声に囁かれて、俺は抱きしめた腕に力を少しだけ込めて、もう少しこのままでいさせてと願った。



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