ハリポタ | ナノ

謎の香りに包まれて  




なにひとつ変わらないホグワークでの生活。基本的には学校内で過ごして、たまにある変化はホグズミードへ行けることぐらい。なにひとつ変わらず、起床して授業を受けて、宿題をこなすルーティーンの中で、いつも一緒にいるリリーがふと不思議そうな表情を浮かべてあたしを見つめる。


「ナマエ、あなた香水でもつけた?」


リリーは鼻をくんくんとさせながら、いつもより顔を近づけて聞いてくる。その行動に思わず少しだけ困惑しながら体を後退させてながら「つけてないよ」と返せば、さらに不可解そうな表情で首を傾げる。


「そう?いつもと違う香りがする気がするんだけど」
「え、匂うってこと…?」


慌てて自分のローブや服の匂いを確認してみるけれど、自分では解らない。そういう時って大概、良い匂いじゃないって知ってるから、まずいと思ったらリリーに「心配しなくて平気よ」と言われて、更に困惑しかない。


「さっき言ったじゃない。香水つけた?って。変な匂いじゃないわ、普段のナマエと違う匂いだったから気になっただけなの」


リリーはそう言うから安心して良いんだと思う。でも、あたしには解らないそれ。改めて自分の袖を嗅いでみるけれどやっぱり解らない。リリーは何を感じたと言うのだろう、と胸の中にすっきりしないモヤモヤを残した。




あれからリリーに匂いについて言われることはなかったからすっかり忘れていたまたある日のこと。あたしは図書室に行きたくて、一人校内を少しだけ早歩きで歩いていた時だ。前からやってきたのはスリザリンのネクタイをしている男子生徒。きっちりと制服を着こなして、周りに目もくれず歩いてくる彼をあたしは知っていた。レギュラス・ブラック。あのシリウスの弟だ。見た目的には似ているのに中身は正反対で、物静かで何事も我関せず、取っ付きにくさは似ているか、っていう感じかな。だから、校内で会ったとしても目が合ったってフイって逸らされちゃうことも珍しくはない。まあ、それは横にシリウスがいるせいかもしれないけれど。シリウスといつだって歪み合ってるせいで、あたしはもう少しお話してみたいと思うのになかなか距離が掴めないでいた。


「あの」


だから、早歩きだったスピードも落として歩いてみたものの今日もそんな感じかなって思って肩を落としていたから、突然あたしに向けられた声にびっくりして肩が飛び跳ねる。慌てて振り向いてみればレギュラスが何とも言えない顔をしてあたしの方を見つめていたから、空耳ではなかったらしい。珍しくレギュラスが声をかけてくれたことが嬉しくて、でもそれを表立って示すわけにもいかずに、あくまで冷静さを繕って「どうしたの?」って返してみた。

だけど、レギュラスからの返答はなし。立ち止まって難しい表情のまま考えて黙こくってしまった。その時間、ほんの数秒のことだけれど、その後レギュラスは「何でもないです、気のせいです、気にしないでください」の三拍子を矢継ぎ早に呟いていなくなってしまった。呆気に取られるまま、ことは過ぎてしまい、結局呼び止められた真意もわからぬまま、また何も話せなかったという落胆した気持ちだけが心に残ることになったのは言うまでもない。




談話室に戻ったあたしは、ソファーに身を沈めて図書室で借りてきた本を開く。英文で書かれた内容も今ではある程度のスピードで読むことができるようになった。図書館の方が静かなのは重々承知の上で、あえてこのガヤガヤした談話室で読むことには意味がある。肩に重さを感じつつ、髪の毛は勝手に上がったり梳いたり。ぴったり、と言うべきなのかわからないけれど、あたしの横をシリウスが座っていて、あたしに寄りかかりながら、あたしの髪をいじりつつ、ジェームズとチェスをしている。基本的には各々のことをやっているし、シリウスにされていることも気になることではないので、好き勝手にさせて本を読み進めたりしていた。


「…シリウス、ここ教えてほしいんだけど」
「どこだよ」


文章を読み進めていく上で、ふと引っかかる部分が目に止まる。何度読み返してみても、ピンとこないあたしは、隣のシリウスに声をかけることにした。あたしがここで本を読む理由はこれ。どんなにここでの生活が長くなっても、その国ならではの言い回しや例え、表現でピンとこないことはまだまだたくさんある。だからこそ、一人で読んでいるときに誰かに聞かなきゃいけないし、その相手はリリーだったりリーマスの時もあるけれど、最近ではもうシリウスに頼りっきりだ。シリウスもいつだって嫌な反応せず、答えてくれるから。現に今もジェームズとチェスをしていたはずなのに、頭使うのに何も気にせずあたしが読んでいた本に視線を移して読み取って、解説しようとしてくれる。ジェームズもそれについてはニコニコと見守ってくれているから、とてもありがたい。


「まるでマーキングだよね」
「え、?」
「シリウスの行動さ」


ジェームズはいつもと変わらない笑みを浮かべてあたしたちを見比べている。一瞬何を言われたかわからず、思わず聞き返してしまったけれど、ジェームズはさっき言ったことであろうことの補足を口にした。


「シリウス、さっきからナマエにベッタリじゃないか。寄りかかって、髪で遊んで。そんなふうにくっついているからナマエにシリウス、君の香水がつくんじゃないか」
「そうなの?」
「あぁ、リリーにも言われなかったかい?いつもと違うって」


心当たりがあるはずだよ、そう言われた言葉に確かに心当たりはあった。先日、リリーが言っていた「香水をつけたか?」と言うことだ。あの時は本当につけていなくて否定したし、その後もリリーが何も言わずにいたからてっきり忘れていた。その時だけ何かの匂いがついたのかな、って結論付けて気にすることも忘れていたのだけれど、ジェームズの言葉を聞いて点と点が一本の線で結ばれていく。


「リリーはすぐに気づいていたから、その後は何も言わなかったみたいだけどね」
「だから、あの時…」
「犬って大切なものを集めてそばに置いておく習性もあるし、まさにパットフット、君そのものじゃないか」
「うるせぇな」


ニコニコとしていた笑顔はどうやら、からかいを含んだ笑みだったらしい。シリウスの行動をいろいろと犬に例えて語るジェームズ。意識的にやっていたのか無意識的にやっていたのかはわからないけれど、ジェームズに言われたことが面白くなかったようで、シリウスは不貞腐れた声をボソリと呟いた。ちゃっかりとあたしを抱き寄せて、肩に顔を若干埋めているから、怖くも何ともないんだけれど。


「ナマエは俺のだから良いんだよ」
「犬の習性そのものだね」
「ジェームズッ」
「事実だろう?ナマエも大変だね」
「うーん?」
「そこは否定しろ」


チェスは良いのか、とか、ここは談話室なんだけど、と思うことはいろいろある。まあ、ジェームズとシリウスのやいやいしたやりとりもいつもの事で、案外みんな慣れっこなのか我関せずだ。あたしに話を振られても、大変て言われても。というのが正直な気持ちだったりするからなんて答えれば良いのか悩みながら返事をしたら、それがシリウスにとってはお気に召さなかったようでズイッと言われてしまう。


「大変だろう。シリウスはわかっててナマエにベッタリくっついてるんだからね。視覚的にも嗅覚的にも自分のものだと知らしめている」


そう言われたら確かに、と納得せざる終えない。シリウスと付き合い始めてから、特に物理的な距離も近くなったし、でも日本人と違って…って何事も捉えていたけれど、そうではないのかもしれない。ジェームズとリリーで比較するのはちょっと違う気もするのでしないけれど、ことある毎にシリウスはくっついてきたり、今みたいに触れることもよくある。それって、つまりはシリウスなりの異性との付き合い方だと思っていたけれど、もしかしなくてもあたしが思っている以上にシリウスの中では大きな感情を抱えてたのかもしれないことに気付かされる。
シリウスに視線をずらせば、やっぱり至近距離にいるせいで視界いっぱいにシリウスの顔があるし、そんなシリウスは困ったように少しだけ気まずそうに眉毛も下がっていて、らしくない表情。それが少しだけおかしくて、ついクスって笑ってしまえば、シリウスは「何だよ」って覇気なく呟いた。


「幸せだなって思っただけ」


だって、こんなにも自分を思ってくれる人に出会えるなんて幸せなことだと思う。異国の地で生まれ、育ち、考え方も価値観も違う。特にシリウスは器用なのに、育った環境的に不器用な性格だということを知ったから。東洋からやってきて、いろんなことを俯瞰的に見なければやっていけないと思っていたこの引っ込み思案な性格(他国と比較した際に)もこういう部分で冷静に物事を受け止められる利点となったらしい。素直に嬉しいと思ったし、そのことを口にすればシリウスは面食らったように目をぱちくりと瞬きを繰り返す。


「ナマエが寛大でよかったね、相棒」
「だーもう、ジェームズはいちいち言うな!」



ジェームズの一言にまたシリウスが声を荒げたし、それがおかしくて、つい笑ってしまう。

そういえば、あたしは本を読んでてわかんないことがあって聞いていたし、シリウスたちはチェスをやっていたのに良いのかな、と思うのはこれからまた数秒後のことである。


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