ハリポタ | ナノ

手を伸ばしてきた一等星  




あの日からシリウスとは話していない。なるべくシリウスと顔を合わせないようにして、ジェームズにはリリーとペアを組みたいと言った。ジェームズはいつもみたいに粘ってくると思ってたから、あっさりと了承してくれたことに拍子抜けしてしまったけど、もしかしたらシリウスかリリーから何かを聞いたのかもしれない。

リーマスともたまに話していたけれど、頻度は明らかに減っていた。

朝が得意じゃなくてギリギリに来るのも知っていたから、逆に早めに朝食を済ませて大広間を後にする。授業の座席も早めに行ってしまえば、周りの座席が埋まってそばになることはない。


なるべく一人になるように、なるべく彼らと鉢合わせにならないように。



そうは言っても同じ学年、同じ寮生。

ふとした時、狙わずしてシリウスと目が合いそうになることがある。直感的にまずいと思って、あからさまに視線を逸らすことだってあった。それさえ、仕方ないことだとあたしは自分に言い聞かせて今日も目立たないように、波を立てないように一日を過ごす。




忘れていたはずなのに、周りの目が怖い。

自分に向けられてる感情や視線が読めない。

深く考えすぎなのかもしれないけれど、それ以上にあたしはもう平穏に過ごしたいという気持ちが強いのだ。




「ナマエ、気分転換に行くといいわよ」


最近のあたしを見かねたリリーにそう言われた。見るからに酷い顔をしているあたしが見ていられなかったんだろう。リリーは優しい、きちんと話さなかったのに、深く聞かないでそばにいてくれた。話したくないあたしの気持ちを悟ってくれたんだと思う。まあ、あたしが塞ぎ込んだら話さないって性格を理解した上で、リリーは気分転換での手段として温室に行くように提案したんだと、思っていた。



「…ナマエ」



温室に入って、シリウスと鉢合わせになるまでは。



温室に入った瞬間は気づかなかった。一歩、また一歩と踏み入れてあたりを見渡していたら名前を呼ばれて顔を上げた瞬間にいつからそこにいたんだろうか。何日振りかのシリウスと目が合う。一瞬にして酸素を吸う方法も声の出し方もわからなくなって、頭の中は真っ白になってしまった。今、自分がなぜ此処にきたのかもすっぽ抜けてしまい、思うように息ができない。



目の前にいるシリウスも辛い表情を浮かべている。それは全てあたしのせいだってわかっているからこそ、それがまた悲しくて切なくて自分自身の呼吸が乱されていく。



「…ナマエ」



再び名前を呼ばれても、あたしは何で返せば良いのかわからず、だからと言って回れ右をして立ち去るほどの勇気もない。



「メシ、食えてねぇだろ」



痩せたんじゃねぇの?と困ったように笑っているけれど、やっぱりシリウスの表情も雰囲気もどこか切なさを含んでいて胸の内がズキッとする。



「…た、べてるよ」
「顔色悪いだろ」
「そんなことっ、」



そんなこと言ったらシリウスの方が、って言いかけて言葉を発することなく飲み込んで、目を逸らす。


だって、あたしにそんなことを言う資格はないから。





「ナマエってさ、昔から真っ直ぐだったよな」



なんとも言えない沈黙の中、再び口を開いたのはシリウスだった。脈絡のない言葉になんのことか訳もわからず、あたしは必死に頭の中をフル回転。



「初めて会った時もそうだったなって」
















そう、シリウスと初めて会ったのはホグワークではない。

あれは本当に昔のこと、物心ついた頃から英語も話せるように仕込まれていて、魔法使いであることも知っていた。だけど親からは魔法使いであることを言わないように教えられていて、マグル界での生活はすごく難しかったのを覚えている。ある日、親と一緒にイギリスへやってきたあたしは何でかは覚えていないけど、外で一人遊んでいて、そこで一人の男の子と出会った。


「日本人?!」


慣れない異国にやってきて、生きにくさを感じつつも母国は落ち着くものだ。親に連れられて出会う大人たちの話は訳がわからず、同い年ぐらいの子たちに会えば、まだ英語を完全にマスターしていなかったせいで話すスピードに完全に置いていかれて揶揄われていて帰りたいと言う気持ちが強かった。

だから黒髪の人=日本人って安直な考えで初めましてなのに声かけてみたけれど、日本人じゃないから日本語で話しかけても通じなくてしょんぼりしたんだっけ。



「日本人…なのか?」
「…うん」
「一人でここにいんの?」
「ううん」



また話していたら、相手に揶揄われるかもしれないと自然と思い込んで、言われた言葉への返事だけ。だけど、その子は何一つ嫌な顔しないで話しかけてきてくれて、今まで知り合った子たちと違かったのが嬉しくて、気づけば自分からいろいろ話しちゃったりして。


その相手がシリウスだった。






「…覚えてたの?」



ホグワーツに入学して、シリウスを見かけた時すぐに気付いた。あの時の男の子だって。でもシリウスは気付いてないと思ってた。だって、あたしを見ても興味なさそうだし何も言われなかったから。だから、あたしも核心に触れずにいたから今回の言葉に正直驚いたけれど、シリウスは「悪いな、忘れてたの思い出したんだ」と言う言葉を聞いてやっぱりね、と納得させられる。




「誰に言われたか忘れてたけど、この時がきっかけで俺は自分家の純血主義である考え方に疑問を持ったし、嫌悪を抱いたんだよ。何が違うんだってな。まあみんな変わんなかったし。けどさ、ここに来てジェームズたちに会って環境が変わったし、何よりお前と会えたことがでかいよ。俺のことを見てくれた」



そう言ってシリウスは懐かしそうに微笑む。あの時のあたしは自分と周りの違いが理解できなくて、周りからの反応についていけなくて。シリウスに吐露した感情だって、今思えばなんで言ってたんだろうって思ってしまうけれど、逆に何も知らないから言えたのかもしれない。





「俺のことちゃんと見てくれてたのに、俺の方がちゃんと理解できてなかった」



シリウスが何に対してその言葉を言ってるのか、最初の出会いを忘れていたことに関して?今回のトラブルについて?わからない、どのことを指しているのかわからず、あたしは言葉に詰まる。



「日本のこと、ナマエのこと、知りたいし教えてほしい。ナマエが好きだから、その…付き合ってほしい」





びっくりした。思わず目を見開くほどに。驚くのもそのはず、告白文化は日本のものだと知っているから。だから日本以外で告白を聞くなんて思ってもみなかった。ましてや、言ってきたのはあのシリウス・ブラック。これはあたしにとって都合のいい夢なのではとさえ思えてきた。とにかく、脳内処理が追いつかないあたしが頭の中でグルグルとまとまらない思考回路を回転させていれば、ずっと黙っていたことがシリウスは不安に思ったのか、いつだって余裕のある表情が少しだけ不安そうに歪ませているのがあたしのせいだと思ったら、心臓がドクンと鳴った。



「に、日本人ってこうやって付き合うって聞いたんだけど…」
「え、あ、うん…」
「うんじゃなくて。俺、ナマエのこともっと知りたいし、何より俺はそばにいたい」



あの時のようだった。

外国人という理由で、東洋人って外見と特に日本人ということからうまく話せない言葉。それだけで周りの人たちが、あたし自身を見てくれなかった中出会ったシリウスはあたしという人間を見てくれた。



「っ、あたしはそんなシリウスのそばにいれる人間んじゃ」
「ナマエじゃなきゃダメなんだよっっ」




突然の大声にびっくりして体が震える。思わず縮こまってしまったら、シリウスが慌てて小さく「悪いっ」と謝ってくれたけど。




「あの頃の俺、ブラック家に縛られて息苦しくて、ナマエと初めて会った時、ブラック家の在り方を知らないナマエに会えたことが凄い嬉しかったんだよ。なーんも知らなく俺に話しかけるナマエが新鮮だった…」
「シリウス…」
「ナマエの横なら、俺が俺でいられるから」



シリウスの腕の中。抱きしめられて、身動きが取れない。だけど、伝わってくるシリウスの心音、早く脈打つ鼓動があたしに伝わって来る。あの時、シリウスはあたしのことを見てくれていたと思ったけれど、それはシリウス自身も思ってたことだったんだ。シリウスが家のことで大変なのは知っていたけれど、こんな風に思っていたなんて、知らなくて。あたしは…、






「あたし、みんなみたいに器用じゃない」



シリウスの気持ちは純粋に嬉しい。でもそれじゃだめ、あたしが良くてもシリウスは?周りのみんなは、そんなの関係ない。あたしがどんなに自分に大丈夫だと、平気だと言い聞かせたってそれはただの強がり。ただの意地。張りぼて、虚勢だ。




「そんなことねぇだろ」
「日本人だし、」
「ナマエは俺がブラック家だから一緒にいてくれたのかよ」
「ちがっ」
「俺もそう。ナマエが日本人だからって理由で思ったりしない。言い訳にしないで、ナマエの本心…聞かせて欲しいんだよ」



あたしが良くたって、周りに認められなきゃダメだと思ってた。

あたしは異端で人一倍努力しないといけなくて。

友達ができても、安心なんてできなくて。どんなに距離が縮まっても一線引いていなきゃって、思ってたのに。




「…シリウスのそばにいたい」




ブラック家の柵を断ち切って、自分のやりたいように生きるシリウスがかっこいいと思った。セブルスにはちょっとやりすぎだけど、面倒見がいいところとか優しいところとかも知ってしまったから。気づけばどんどん引かれていって、だけどあの時女の子から言われた言葉でハッとさせられた。だからシリウスへの気持ちも押し殺して、蓋をして。



「シリウスのことが好き」



蓋をして、迷惑かけないようにって思ってたのに。あたしはダメだな…、やっぱり弱い。




「…ナマエ、ありがとな。言ってくれて」




シリウスの優しい声が耳に届く。弱いあたしにありがとうだなんて。それはこっちのセリフだよ。上手く出せない言葉の代わりにシリウスの服をぎゅっと掴んだ。


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