ハリポタ | ナノ

手放した一等星  






昔から嫌だった。
むしろ好きな人はいないと思う。


「何か言ったらどうなの」


目の前にいる女子生徒が捲し立てるような口調で言い放つ。他にも目の前の女子生徒と同じようにあたしを睨みつけてくる目が四つ、全くどこに行ったってこういうのはあるんだなって実感した。


と、言うよりは何歳になったって変わらないんだなと思ったほうが正しいかもしれない。



最初に感じたのは幼少期。

他の家庭と違う日本人らしくない生活環境に周りの同世代の子たちから何かを言われた記憶がある。具体的な言葉は覚えてないけど、泣きながら帰ってきた日もあるとお母さんが教えてくれた。



ホグワーツ入学前、ホグワーツ入学後に備えてこっちの生活に慣れるために短期ではあるものの日本を出て生活をしていた頃だ。今まで覚えてきた言葉と実際に日常会話で使うのに言葉が慣れずいた時に何が言いたいのか分からない、遅い、ノロマ、などという心無い言葉を言われたことが度々あった。



ホグワーツ入学してから、東洋人、島国である日本人というだけで、暗い、不気味、と言われた。この時のあたしは入学前の出来事をきっかけに自分から話すのが億劫になっていたせいもあるから、仕方のないことなんだろうけど。



それから数年、学年を重ねていくことにより、慣れと度胸がついてきて、もう気にしなくもなったし環境も変わったと思ってたから心のどこかで安心していた。




だけど、完全に安心は出来なかったんだ。




「ブラック家のシリウスがなんでアンタなんかと」



目の前の女子生徒の寮はスリザリン。大方、ブラック家に取り入りたいタイプかシリウス・ブラックってブランドが好きなタイプだろう。だって、シリウスがこんな人たちと一緒にいるところを少なくともあたしは見たことがない。シリウス自身、お家柄を言われるのは嫌うし、ジェームズたちとイタズラをしている方が好きな人間だ。一緒にいる時間を考えて優先するのはあの三人といることのはず。そんなの、シリウスを見ていればわかるはずなのに。



「あたしはたまたま同学年で寮が一緒なだけ」
「だからって授業でもいつも一緒にいるくせに!」
「ジェームズが友達のリリーを取るからよ、授業のペアだってはぐれもの同士なだけ」



そう、ジェームズがリリーにお熱なせいで最近でのペア組はシリウスとの方が多い。リリーは嫌そうな顔をしているけれど、ジェームズもなかなか強情なのだ。あたしたちが折れるかジェームズが折れるか、どっちかが折れなければならない展開にいつもなってしまうし、最近ではそれさえもめんどくさくなってこっちが先に折れてしまっている。


「時間の無駄だから、ナマエは俺と組もう」


ジェームズがリリーとペアを組むとなると、同じようにパートナーがいなくなってしまうシリウスもこう言っている。リリーには悪いけど、この方が円満解決。実際、リリーだってジェームズとのペアを組んで、足を引っ張られることもなければスムーズにこなせているようだし、何よりシリウスとジェームズがペアを組んで授業トラブル回避にもなっているから、万々歳ではある、はず。


だけどこんなこと、伝えたって理解はされないだろう。感情的になった彼女たちにこんな言葉でさえ通じない。むしろ言い訳にすら聞こえるかもしれない。人気のない廊下まで連れてこられて、他の人には見られないように配慮までして本当にくだらない上に勘弁してほしい。



「アクア・エルクト!」


耳に入った言葉を理解したのは自分の頭からバシャンと水を浴びさせられた後だった。身に纏っていたシャツもスカートも水気を含んで重くなって肌に纏わりつくし、髪の毛はピッタリとくっついた上に水が滴っていて気持ち悪い。

一瞬、息をすることも忘れてしまったようで、「っは、」と酸素を一気に肺に送り込む。



「自分のこと、色々見直すためにも頭を冷やしなさい」



あたしに向けられた杖をしまいながら、そう呟いて彼女たちはいなくなった。


…頭を冷やすのはどっちだろうか。



やり場のない感情を押し殺して、ギュッと手に力を込める。このままでいるわけにもいかない、このままでは風邪をひく…、そう思ってあたしはグリフィンドールの談話室へと戻ることを決めた。



時間は消灯時間ギリギリ。こんな時間にさすがに人もいないだろうと踏んで、談話室に戻ってきて、あたしは再び喉の辺りがヒュッとしてしまい、息を飲む。


「ナマエ、ッ」


談話室のソファー、暖炉のそばで古びた羊皮紙を持っていたシリウス。まるであたしが来るのを解ってたかのように驚きもせずこちらを見ていた。だけど、びしょ濡れ姿でいたことは予想外だったみたいで言葉に詰まった表情であたしを頭のてっぺんから下まで見下ろすと、再び灰色の目があたしの顔を覗き見る。



「ナマエ、お前」
「なんでもない。あたしもう寝るから」
「待てって」


これ以上、一緒にいたくなくて女子寮階段に向かって足を進めようと脚を動かす。けど、シリウスによってあたしの腕はバシッと掴まれて動きを止めるしかない。


「どうしてこうなったんだよ」


どうして、とはどういう意味だろう。何があった、じゃないのか。質問自体がおかしい気がするけど、これもあたし自身の英語に対する認識不足なのか。こういう言葉への疑問も普段なら、覚え直すために聞き返して真意を擦り合わせたいところだけれど、そんな余裕さえ今はない。ギュッと握られた手首、振り払うことさえ叶わず、力が込められて痛いと感じる。



「あたしがいけないんじゃない」



日本人だから、東洋出身だから、マグルの中で生活していた魔法使いだから。何一つ、嫌だと思ったことはなかった。けれど、度重なる嫌な経験は時にあたし自身の自信さえ失くすもの。シリウスは悪くない、だって生きてきた過程が違うもの。これがリリーだったら、こんな風にならなかったかもしれない。


「シリウスも、こんな日本人のあたしなんてほっといて」



力が緩んだ隙に手を振り解いて、一気に女子寮階段を駆け登った。男子生徒はこっちの階段は登れない、だからシリウスは追ってはこなかった。部屋に戻って着ていた服を一気に脱ぎ散らかしていれば、寝ようとしていたらしいリリーが驚いて飛び起きる。吃驚しながらも、まずは拭くものよ!なんて言いながらタオルを出してくれるリリーがリリーらしくて少しだけ気持ちが救われた気がした。ふかふかのタオルに包まれながら、さっきシリウスに投げかけた言葉を思い出してあたしは改めて自己嫌悪に陥る。


自分でもびっくりするほど、嫌な言い方をしていたな。


さすがのシリウスも、あたしには愛想を尽かしただろう。


これで良いんだ、あたしにはシリウスは眩しすぎるから。


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