不撓不屈 | ナノ



燐音の奴とファストフードで飯を食っている時だった。突然、燐音の弟である一彩が現れてフリーズする燐音。俺といえば、コーラをズズズと飲みながら、燐音に用事かぁ…?と思って眺めていた。


「兄さん…、愛生を知らないかい?」
「ァアッ?んだよ、愛生チャンとケンカでもしたのか」
「ウム…、ケンカはしてないんだが、怒らせたのかもしれない…」


だから、一彩の口から怒らせたという言葉が出てきて次は俺がフリーズすることになる。


「…愛生が怒ったのか…?」
「わからないんだ、話していたら突然…冷めた言葉でいなくなってしまって…、それから全く会えないんだ…」
「愛生チャンが怒るなんて、珍しいなァ。弟くんよ、何言ったンだよ」


ポテトを数本まとめて掴んでは口に入れて咀嚼しながら話に耳を傾ける。燐音も怒りという感情を露骨に出したであろう愛生が想像できないようで、気になるようだ。


「最初はバンドについて教えてもらっていたんだよ。それまでは良かったんだが、愛生に何故バンドを始めたのかと聞いたら一気に様子が変わってしまってね」



困ったように頭を捻る一彩には悪いが、その流れで全てを察した。これは完全に誰も悪くない、たまたま重なってしまったんだ。あぁ、しかしこればっかりは一彩の素直さが裏目に出たなと頭を抱えるしかない。



「はぁ…悪いな、一彩」
「えっと、」
「ははっ、俺は捺生だ」
「僕は天城一彩だ、よろしく頼むよ!」
「よろしくな、燐音と愛生から聞いてるさ」



燐音と直接は話すことが多かったが、そういえばこうやって話すことはなかったなと思い返す。燐音や愛生と話でよく出していたから、つい呼び捨てにしてしまったが本人もあまり気にしてない様子なので良いだろう。



「ちなみに俺は、捺生と双子で弟だ」


















俺たちが楽器に触れたのは中学の時だった。楽器を教えてくれた人がいた。その人はバンドを組んでいてボーカルギターをやっていて、でもベースやドラムもできる音楽を愛してる人だった。


ライブハウスでライブをしたり、学園祭で披露もしたり。インディーズながら割と人気もあった。





ある日、メジャーデビューの話がそのバンドに入ってきて、すごく喜んで報告してくれたのを覚えてる。ただ、メジャーデビューって言っても、実際問題いろいろと制約もあって、デビューにあたっての条件が自分たちと思っていたものと違っていたり、売り出し方も言われたり。



多分、プレッシャーが一番大きかったんだろうな。


メンバーと意見の相違、段々とそれは溝になってギクシャクして続かなかった、気づけば解散。




 


「その後に病気が見つかって、そのまま亡くなっちゃってさ。愛生も俺もめちゃくちゃ可愛がってもらってたし、尊敬してたし、慕ってたからこそ辛くてさ…。それで自分たちがバンドを組むきっかけになったんだけどさ」



話の内容が内容なだけに、なんとも言えない空気が漂う。


一彩なんて、ガチガチに硬くなってしまって、多分今自分はどんな反応をすべきか悩んでるんじゃないかな。俺は笑うことしかできなくて、けど、ずっと繕うことさえできずに、はぁ…と息を吐き出す。



「アイドルもさ、バンドもさ。見えてるステージ上はすっごいキラキラしててかっこよくて。けど、実際はそこに立てるやつって一握りで…溢れた人たちはただ上を見るだけしかできない。手を伸ばしても届かない。やっと手にできたと思ったら、それもまた現実と違ってたりして、」



視界の端で燐音の奴が、ジョッキをグイッとするのが見えた。コイツにとってもそうだよな、と思ったら、俺だって胸がズキっと痛んだ。



「愛生の場合、好意もあったと思うんだよなぁ」




それは自分でも驚くぐらい小さな声だった。

故に周りの音にかき消されただろう。

その言葉が燐音と一彩に届いたのかわからないけど、俺は誰かに届いて欲しかった。


…なんて、所詮は俺のエゴ。



なぁ、そうだろ。


言葉にお前は出さなかったけどさ。


俺と同じようにあの人から教わるお前の瞳は、憧れだけじゃない気がした。



所詮、自己解釈




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