不撓不屈 | ナノ



鉄板めいいっぱいに広がる茶色いそれ。ドロドロとしていて、熱を加えられたことによりぷつぷつと沸騰のような動きが表面に見られる。細かく刻まれてドロドロのせいでわかりにくなったキャベツや粒々状態になって馴染んでいる明太子、所々に見受けられる白い塊は小さく一口サイズに切られた餅だ。

端っこの方から、小さなヘラですくってみれば、鉄板に接していた面に綺麗な焦げ目がついていて、それを数回息を吹きかけて冷ますとそのまま口の中へ入れ込む。まだ冷めない熱を感じながら咀嚼するごとに広がるダシと明太子の風味にいい感じに焦げた部分の味が合わさって、旨味を脳に伝達してくれる。



「っ美味ぇなっ」
「燐音、いい呑みっぷり〜」
「マジでこれは酒と合う」


向かいの席に座り、同じようにそれを口にしてから手元にあるビールの入ったジョッキを流し込んで、味を堪能する天城。その様子を横に座る捺生は、ケラケラと笑いながら、小鉢のチャンジャに箸を伸ばす。



「しっかしよ、このもんじゃっていつ見ても見た目と味が合ってねェよな」
「美味けりゃ良いだろ」
「初めて見た時これゲ」
「天城、そんなこと言うなら食うな」
「ったく、冗談が通じねェなァ〜、愛生チャンはよォ」


3人で囲んでいるのは、鉄板に広がるもんじゃ焼き。天城だけはアルコールを呑んでいて、隣の捺生に関してはサイドの食べ物もちょこちょこ楽しんでるようだ。まあ、周りが楽しんでいるならそれで良い。自分と言えば、食べていくうちに見えてくる鉄板の上に疎らに散乱する焦げカスを大きなヘラで端っこの隙間に落としてきれいにする。もちろん、食べることもしながらだ。


「最近、一彩の奴が愛生チャンにお熱らしいなァ」
「え、なになに、その面白そうな話!」


唐突に天城の口から、天城弟の名前が出て柄にもなく露骨に反応してしまった。と、言っても動きをぴたりと止めてしまっただけなのだが。ジョッキを片手にニヤニヤと笑う天城のこういうところが苦手だ。捺生にも言ってなかったことなので、初耳!と天城に似た嫌な笑みを浮かべて自分と天城の顔を交互に見てくるのがまた鬱陶しい。


「知らない」
「そういえば、この前も愛生と一緒にスタジオ来たけど、それってそういうことなワケ?」
「知らない」
「知らねェ訳ねぇっしょ!いちいち、報告してくンだからよ」


報告とはなんのだ、と思ったが突っ込んだところで余計ややこしくなりそうなのでやめた。そばに置いてあった炭酸の入ったジョッキをグイッと喉に流し込む。


「お前らのライブに行ったじゃん?そっから、なーんか愛生チャンにお熱なんだわ」
「へえ…。まあ、ライブで愛生のファンになる奴は珍しくないけど、喋らしたらこうだよ?それなのに?」
「うるさい」


捺生をギラリとごめん〜と悪びれもない謝罪が飛んでくる。こういうところは、本当に天城と似ているなと思う。だから、2人ともウマが合うのだろうと思うんだが、正直2人も揃うとこんな時、心から勘弁してほしいと思うことだってしばしば。




「歌って踊って笑って、少しでも見てくれた人たちが笑顔になれるアイドルになりたい」


脳裏に浮かぶのは、天城弟がアイドルをやってると知った時、自分で語り出したこと、その言葉を聞いて、あぁ、なんて純粋なんだろう…、なんて真っ直ぐなんだろうかと思った自分は、つくづく冷めてるなと実感させられる。

世間でいうこの世界というものは、キラキラした笑顔の裏に、血反吐を吐くことだってあるほどの嫌なこと、汚いことがついて回るものであり、その地位に立てるものたちだって全てではない、限られた人間だけ。権力者に目をかけられた人、コネのある人、才能のある人、そんな人たちばかりだ。きっと天城弟も元々の実力があったり、いろんな環境がたまたま恵まれていたのだろう。

そんな彼は自分のことを「かっこいい」と言った。笑いもせず、歌いもせず、熱のこもった音を奏でるだけ、そんな自分を貫く姿にこの言葉をかける輩はたくさんいる。けれど、ここまで日々、熱視線を送り絡んでくるのは珍しい。故に、自分でも思う。


「わかんないよ、自分が一番わかんない」


天城弟が何を思って、こんなに自分に構うのか。

知ってる人がいるのなら、教えて欲しい。



冷めている




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