不撓不屈 | ナノ



「愛生!」
「…」
「どうしたんだい?すごく浮かない表情をしているね!」



今日も相方を持って外を歩いていれば天城弟が当たり前のように現れる。正直、何故こんなにも絡まれるのか不思議で仕方ない。周りをひょこひょことしながら話しかけてくる天城弟と話していてわかったことは、あまりにも無垢だということ。


「愛生は、いつもギターってものを持っているね。今日もライブってあるのかい?」
「今日はメンテナンスでライブはない」
「残念だ、また愛生のライブが見てみたいよ。それでメンテナンスとは何かな?」


会うたびに、これはなんだ、あれはなんだと訊ねてくる天城弟。正直、今の今までどうやって生きてきたらこんなにも無知でいられるのだろうか、と思わずにはいられない。


なんなら、その無知さが羨ましく思えるほど…。


「…お手入れみたいなものするんだよ」
「ふむ、お手入れとは愛生の相棒のかな?いつも、こまめにお手入れはしてると思うんだけど」
「いつもより重点的にやるの。弦の張り替えとか」



よく見れば、天城弟は制服を纏っていて、今が下校中だってことが理解できた。遅くまで寝てたせいで、家を出たのも遅い。もっと早めに起きれていれば、会わなかったかもしれない…と自分の行動の体たらくさを実感せざるを得ない。


そんな心境であることすら、きっと思っても見ないだろう。横にいる天城弟はキラキラとした目でこちらを見てくるから、居た堪れなくなり視線を逸らすも感じる熱視線が痛いほど刺さる。


「…はぁ…、これから楽器屋行くけど…、暇なら来てもいいよ…」
「是非とも行かせてほしいよ!」





「愛生!すごいたくさんギターがぶら下がっているね!」


本気で勘弁してほしいと思った。お店について早々、目に入るもの全てが新鮮で初々しさを全面に引き出して、思ったことを周りのことも気にせず言葉に出していく。それは声の配慮というものもないため、一緒にいる身としては恥ずかしい。少し距離を取っても、大声で声をかけてくるせいで、逃げ場がないのは承知の上だ。


「愛生と一緒のものもあるのかな」
「まあ、あるでしょ。それより、こっち」


諦めが肝心なのだろう。そのままギターを眺めさせていても良かったが、また何を大声で言われるかもわからない。だったら、いっそのこと一緒に行動してそのまま目当てのものを手に入れてお店を出る方が早いだろうと思い、天城弟の腕を掴んで歩く。どこまでも素直な性格なのだろうか、引っ張られるまま、言われるまま一緒に歩いてくれるため、逆に騙されたりしないのだろうかと心配になる。


「たくさんあるね」
「買うのは決まってるから」


ギター弦のコーナーに並ぶいろんな種類の弦。パッケージを見て、いつもの弦を見つけ出す。それを手に取りつつも、一応値段と他の種類も眺めるが、結局使い慣れたものにしてしまうんだ。

レジに行く前に、引き寄せられるように立ち寄ってしまうガラス張りの棚。色とりどりのそれらを眺めて、買わないというのに欲ばかりが出てきてしまう。


「たくさんの四角い機械だね」
「エフェクターっていうの」
「これはどうやって使うのかな?」
「エフェクターはギターに繋ぐんだ、音の効果を変化させるものだよ」


隣にやってきた天城弟も同じようにガラス張りの棚の中のエフェクターを眺める。エフェクターの説明は言葉より聞いた方が早いのだが、説明するならこの程度しか言いようがない。しかし、分かったような分かってないような何とも言えない返事が返ってきたので、まあ良いかと聞き流した。


「これからスタジオ入るけど」


弦の支払いをレジで済ませて、スマホを確認する。捺生からメッセージが来ていたので内容を確認しながら声をかける。気づけば、「来る?」なんて口にしてたし、なのに反応がなくて聞こえてないのかと思って目線を送れば、いつものキラキラした熱視線を送られていて思わず言葉が詰まった。


「ウム!愛生と一緒にいるといろんなことが知れて楽しいよ!」
「…邪魔だけはしないでよ」


あまりにも眩しすぎる表情にくらくらしそうだ。何故こんなも懐かれているのか不思議に思う、自分とは反対にいる人間なのに。一緒にいれば自分のペースも乱されて、普段ならこんな風に誘ったりだってしないはずなのに、といつものように自問自答を繰り返す。

ただ一つわかるのは、それが苦じゃないということだけ。



変化する日常




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