パタパタと足音がしたと思えば、足元の方で赤い塊が突然ドンッと突っ込んできやがった。事務所では見慣れない小ささの何かが突然衝突してきたから思わず驚いてしまった俺様は、足元にいるこのまん丸い赤いフォルムの奴を見つめる。
「わんわん!蓮ちゃんだよっ!」
その赤い塊は突然顔を上げてぴょこぴょこし始めたし。なんなら、なんでコイツがここに…?って思っただろうが。
「わんわん!んぅ?蓮ちゃんよ!」
この俺様の足元でめちゃくちゃ笑顔でぴょこぴょこ飛び跳ねてやがる蓮。俺様が反応しないことを不思議そうに見上げては更にぴょんぴょんし始めるもんだから、とりあえず蓮に合わせてしゃがんでやれば、「んぅ?」と大人しくなった。
「んだよ、蓮。お前一人か?」
「んーとね、きーくんといっしょ!」
「よう、大神」
「鬼龍センパイ」
蓮は元気よく「きーくん」と言い、誰だよと思っていればすぐ後ろには鬼龍センパイがいた。なるほど、鬼龍だからきーくん。
「珍しい組み合わせじゃねぇか」
「蓮の嬢ちゃんに作った服を着て、見せに来てくれたんだ」
「わんわん!蓮、あかずきんちゃんよ!」
「ハロウィンにちなんでな」
あぁ、だから赤いずきんなんか被ってたんだな。そんな事を内心呟きつつ、嬉しそうに見せつけてくる赤いずきんを被ったまん丸フォルムの蓮の頭を撫でてやる。
「似合ってるじゃねぇか、良かったな」
褒められたのが嬉しかったようで、えへへとはにかむ蓮。鬼龍センパイはこの後仕事らしく、一言二言だけ交わして行ってしまった。
つまり残された俺様と蓮。
「んぅ!わんわん、れおんは?」
そう聞きながら辺りをキョロキョロし始めた。蓮と普段会うのはレオンの散歩の時。つまり、蓮にとって俺様とレオンはいつも一緒なんだけど、今いるのは事務所な訳でレオンもいないことになる。
「ここにはレオンはいねぇよ」
「わんわん、れおんいないの…?」
レオンがいない事を伝えた途端、さっきまでの嬉しそうな表情から一変してしゅん…とあからさまに凹んでしまう蓮。泣きまではしないが、普段見た事ないぐらいの悲しそうな表情に俺様がなぜか悪い事をした気分にさせられる。
「蓮ちゃん、れおんにあいたかったな…」
「うっ…、レオンは今度また遊んでやってくれよな…。代わりに俺様がいい事教えてやる」
「んぅ?」
「あどちゃ!」
「蓮か、」
「あどちゃん!蓮、あかずきんちゃんよ!」
「可愛らしいな」
パタパタとやってきたのは、赤いずきんをかぶった蓮。どうやら、赤ずきんちゃんの格好らしい。真っ赤なずきんを両手で掴みながら、わざわざ見せに来てくれたのだろう。嬉しそうに笑う蓮は、「えーっと、んぅと」と呟きながらぴょこぴょこ飛び跳ねる。
「あどちゃん!とりにく!とりっと!」
「肉が食いたいのか?」
「んぅ?」
蓮の口から出てきたのは肉という単語。珍しいな、と思いながら尋ねてみれば、首を傾げる蓮。どうやら、違ったらしい。
「ちげぇだろ、蓮」
「わんわん!」
「大神」
後ろからやってきた大神。蓮の前にしゃがんで、「いいか?もう一回な」と言いつつ、蓮に何かを教え出す。
「言えるか?」
「うん!!!」
よし、がんばれ、なんて言いながら蓮の頭を撫でる大神はまるで兄のようだ。大神から何かを教わった蓮はくるりと俺の方を再び向いてこう言った。
「とりっくっ、おあー、とりーと!あどちゃん!」
わんわんがね、まほうのことばおしえてくれたの。
とりっくおあとりーとって言うといいことあるんだって!
わんわんとおはなししてたら、あどちゃんがきてね、わんわんがあどちゃんにいってみようってね!
あどちゃんにいったら、あどちゃんおかしくれたの〜!
「あどちゃん、おかし!!!」
「あぁ、ハロウィンの格好なんだな」
「きーくんがちくちくしたの!」
「そうか、それはよかったな」
あどちゃん、蓮のあかずきんちゃんみてわらってくれた!にこにこうれしいねっ。蓮はね、あどちゃんからもらったおかしは、けーくんからもらったかごにいれておくの。
わぁっ、おかしふえた…!!!
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