10月某日
あたしは蓮を連れてESビルにやってきていた。
「まま、どこいくの?」
小さな手であたしの手をしっかりと握りながら、あたしの顔を見上げる蓮。ここに連れてくるのは初めてじゃないはずなのに、ビルの中の普段とは違う行き先に気づいたのだろう。
不思議そうな表情で見上げてくる蓮。
1人で立つようになって、
1人で歩くようになって、
言葉を少しずつ覚えて、
気づけば、
ちゃんと会話が成り立つようになっていて、こういう時、親として子供の成長の早さを実感させられる。
「蓮も知ってるお兄ちゃんのところだよ」
んぅ?と不思議そうな表情で、蓮は首をこてんと傾げた。
「失礼します、」
「おう、こっちだ」
「お待たせしました、鬼龍くん」
指定してやってきたのは、ESビル内の応接室。使用中という札になっているのを確認した上で一度軽くノックをした後に扉を開ける。顔を覗いてみていたのは今日、約束を取り付けていた鬼龍くんがいた。
「きーくん!」
「よう、蓮の嬢ちゃん」
レオくんとのおかげもあって、割とお世話になっている鬼龍くん。レオくんたちが在学中だったころからの付き合いだから、今所属事務所は違えど、レオくんがいなかったとしてもこうやって個人的に話す機会はあった。
それは蓮が生まれてからも変わらずで、今では蓮なんて鬼龍くんをきーくんと呼んでいる。
「きーくん、きょうはれおくんいないよ?」
「俺は月永じゃなくって今日は嬢ちゃんに用があるんだ」
いつも鬼龍くんと話す時って、レオくんたちがいることが何かと多かったから、蓮はとっても不思議そう。「よーじ?」なんて言葉を繰り返して、んぅ?とまた首を傾げた。
「蓮の嬢ちゃんは可愛いの好きか」
「すき!」
「じゃあ、ハロウィンって知ってるか?」
「はろいん?」
鬼龍くんは蓮の目線の高さに合わせてしゃがみ話しかける。その姿は妹がいるだけあって、お兄ちゃんだなって実感させられる。話し方もゆっくりで聞き取りやすくて、だから蓮は慕ってるのかもしれない。
「蓮、最近よく見るでしょ?かぼちゃのお化けとか」
「ハロウィンって変身するお祭りなんだ」
「こわいの…?」
お化けという単語を聞いて、不安を浮かべる蓮。だけど、鬼龍くんはハハッと笑ってすぐ否定してくれた。
「怖くないさ。この前ママと話しててな。蓮の嬢ちゃんに、と思って作ったんだ」
よく見れば、鬼龍くんの横に置いてあった大きめの紙袋、その中身をガサゴソと取り出して蓮の前で広げれば、一気に蓮の瞳が輝きだす。
「気に入ってくれるか、わかんねぇけどよ」
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