「くれいじーるぅれーっと、まわせるぅれーっと」
どこからともなく聞こえてくる声。
「くれいじーるぅれぇっと〜」
なんか、すっごい聴き覚えがあるのは気のせいっすかね?
「あ、にーいっ!」
「蓮ちゃん?えっ、蓮ちゃん…?!?!」
突然足元に何かが抱きついてきて、声が蓮ちゃんだったんで視線を向けてびっくりしたっす!蓮ちゃんだと思ってみたら、めちゃくちゃフリフリの洋服着た何処かのお姫様みたいな女の子がいたんすよ…!薄くだけど化粧もされていて、パッと見て普段の蓮ちゃんの雰囲気とまた違ってたから、すぐに確信が持てなかったけど、「蓮ちゃんよ!」って言ってたのでやっぱり蓮ちゃんだったっす!
「蓮ちゃん、めちゃくちゃ可愛い格好してるっすね?!」
「蓮ね、りっちゃんたちにいたずらされておひめさまになったの!」
「えっ、いたずらでお姫様になったんすか?」
「うん!」
蓮ちゃん、めちゃくちゃ笑顔で教えてくれるんすけど、どういうことっすか…?僕の頭じゃ理解できないっすよ〜?!蓮ちゃんは僕の目の前でくるくると回って着ているドレスワンピースのフリルを靡かせる。
「蓮、かわいー?」
「はいっす!かわいーっすよっ!めちゃくちゃ似合ってるっす!」
「んぅ!」
蓮ちゃんは改めて可愛い?と聞いてきたので、可愛いっすよと返せば元々ピンク色に染まった頬を更に染め上げて嬉しそうにぴょんぴょんと飛び跳ねる。こういうところは、出会ったばっかりの頃の燐音くんみたいだなって思うのは僕の中だけに仕舞って置くっすけどね。
「でも、なんでこんないたずらされちゃったんすか?」
「んぅ?蓮がね、おかしもってなかったからよ?」
「お菓子持ってなくってされちゃったんすか?」
蓮ちゃんはさらりと答えたけど、どんな理由っすか?お菓子持ってないからいたずらでお姫様になるって遊びでもあるんすかね?蓮ちゃんの事情は僕にはわからないことも結構あるんで、それっぽい返事をしながら思考回路を働かせる。
「にーい」
「はいっす」
「とりっくおあーとりーと!」
思考回路を働かせてるというのに、そんなことを知らない蓮ちゃんは自分のペースで次なる言葉を言い放った。
トリック・オア・トリートって言ったんすか…?
「にい!おかしちょーだいっ!」
うん、気のせいじゃなかったっすね。蓮ちゃんはニッコリと笑顔を浮かべて小さくて可愛らしい手を差し出してきた。なるほど、さっきのいたずらってのも、もしかしてハロウィンのいたずらってやつですかね?と、なるとさっき言ってたりっちゃんってKnightsの…?
「にい!蓮におかしちょだい!」
「あ、蓮ちゃんごめんっす!今僕お菓子持ってないんすよ〜」
思考回路の方に気が行ってしまって、蓮ちゃんにまた名前を呼ばれてハッとする。言ったように、実は今の僕はお菓子を持ってないんすよね。携帯食も蓮ちゃんが食べるようなものじゃないしな〜と思い、「なはは…」と誤魔化しながら笑っていれば、突然ピタリと静かになってしまった蓮ちゃんの顔を見てギョッとする。
「蓮ちゃん…?」
「っ、ぐすっ、ふぇ」
「え、えっと、」
だって、まさか蓮ちゃんが涙浮かべるなんて…!!!!
大きな瞳に大粒の涙を浮かべて、ドレスワンピースのフリルをギュッと手で掴んで本人はなんとか堪えているようにも見えるが、この現状はマズいと僕の頭の中が騒いでるっす。
「にい…ぐすっ、おかちないの…っ」
何がマズいって、燐音くんにこの瞬間見られたら一番マズいっすよ〜?!!!
「にいっ、っぐすっ、ふっ、蓮に、っおかち、ッないの…」
「蓮ちゃん、ちょっと待つっすよ…?今ないだけで」
「わあぁあああんっ!にいがっ蓮ちゃんのおかちくれないのっっっっ」
「蓮ちゃん!!!!いろいろ語弊があるっすから!!!」
ああもう!蓮ちゃん、大声で泣き出しちゃったっす!ここは外!つまり知ってる人も知らない人もいる場所で!キョロキョロと辺りを一応確認するが、通行人はいない。つまり、今何とかしなければ、ここで誰かに目撃されたら一番大変なやつっす…!!!けど、泣き出した蓮ちゃんはどう声かけても聞く耳を持ってくれなくて僕の声すら届いてない気がするし、もぉ〜!
「ニキはん、蓮ちゃん?」
「あぁ!こはくちゃんっ!!助けてほしいっす!」
めちゃくちゃ良いタイミングで来てくれたのはこはくちゃんだった。こはくちゃんは段ボール箱を抱えていて、僕と蓮ちゃんを交互に見て只事じゃないと思ってくれたようだ。蓮ちゃんの前で立ち止まって持っていた段ボールをそばに置き、蓮ちゃんを見つめて声をかける。
「蓮ちゃん、どうしたんや?」
「ごばぐぢゃ〜〜〜にーがおかぢないって」
「そかそかぁ、蓮ちゃんかわいそうになぁ」
「ホントだよなぁ…パパがニキこてんぱんにしてやっからよっ」
「ゲッ、燐音くん…?!」
蓮ちゃんをあやすこはくちゃん。蓮ちゃん、泣きすぎて日本語が聞き取りにくいっす…!こはくちゃんがポンポンと蓮ちゃんの背中をあやしながら何とかあやそうとしてくれていて、僕は何もできずにアワアワするだけ。そうしたら、いつのまにかやってきていた燐音くんが僕の肩に腕を回していてすっごい悪い笑顔浮かべてるっす…!
「ばば、にいいぢめぢゃめぇ〜〜〜っ!!!!」
あぁ、次は蓮ちゃんが叫んだっす!!!んあ〜!!!
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