我儘お嬢のお気に入りは近所の長子女 | ナノ
三歳のお嬢はまだまだぴゅあな男の子

幼い頃といえば、年齢も性別も考えることはない時期だ。自分が物心わかり、しっかりした年齢だとしても相手が幼ければ性別を気にすることはまずない。

それは例外なく、あたしも同じだった。

鹿児島県の穏やかな町、畑や家畜がいるのは珍しくないし、有名なのは桜島で活火山だから噴火で噴煙が出るのも割と当たり前。だから気にせず外でも遊ぶ何処にでもいるような小学生。あたしは学校から帰ってきたら近所のみんなで遊ぶことも多々あったけど、最近のブームは別にある。


「あ、おばさん、こんにちは!」
「こんにちは、澪ちゃん」
「ひょーま〜!今日もかわいいね」
「澪ちゃ!」


家に帰り着く頃、いつもの道で見慣れた赤髪が二人分。元気よく挨拶すれば、あたしに気づいて優しく微笑みかけてくれる。すぐにあたしは自分よりも低い位置に視線をずらしてしゃがんで両手を広げれば、それに応える様に両手を広げて抱き着いてくれるかわいいかわいい男の子。千切豹馬、今年三歳になる予定の二歳児だ。近所に住む千切家の長男であり、男の子なのに目がクリックリでかわいらしい。年齢的なものもあるのかもしれないけれど、このかわいさはきっとおばさん譲りのものだ。だっておばさんもすっごくかわいいんだもの。


「澪ちゃんおかえりなさいだね」
「ただいまひょーま」
「ただーま」
「ふふっ、おかえりって言うのよ」
「澪ちゃ!」
「えーかわいい!」


元々小さい子が好きなあたしにとって、こんなにもかわいくて懐いてくれる豹馬は癒しだ。あたしには妹がいるけれど、同性だから男の子のかわいさとはまた違う。し、やっぱり兄弟じゃないちびっ子はそれはそれでの良さがある。ムニムニの頬っぺただって、こうやってなんでも受け入れてくれるのだって豹馬がこの歳だからできること。他人の子供で年がもう少し近かったらこんなことしないし、六歳差って大きいんだよね。あ、そうそう、ちなみにあたしは九歳である。



「ひょーま、おねーちゃんはどうしたのかな?」
「んー?」
「お姉ちゃんはもう少ししたら帰ってくるかなー?」
「そっかあ、じゃあ今はなにしてたのかなー?おさんぽ?」
「しゃんぽ!」



あたしの問いかけにおばさんがフォローしながら繋いでくれる会話。まだ辿々しい話し方もかわいくって、つい頬が緩んでしまう。



「ひょーまかわいい」
「ひょーまかわい?」
「うん、かわいい〜」


豹馬は最近真似することを覚えた気がする。さっきもそうだけど、ただいまに対して言うのはおかえりなのに、あたしの言葉を真似してただいまと言ったし、今だってかわいいという言葉を真似っこして言っている。うちの妹もそうだが、下の子は上の子を真似しがちだ。それはどこの家も同じらしい。そして、豹馬は物分かりがいいのだろう、かわいいという言葉を褒め言葉だと理解して、かわいいと同意すればムニムニの頬が緩み、口元はえへへと弧を描くのだ。


「ほんとかわいい…」
「ただいまー、って澪ちゃんもいるじゃん」
「お姉ちゃん、おかえりなさい」
「やっほー、おかえり」


豹馬のかわいさを噛み締めていれば、もう一人声の主が増える。おばさんが言っていたけど、帰ってきたのは豹馬のお姉ちゃん。ちなみにあたしが豹馬にデレデレなのは今に始まった事ではないので、今こうやって豹馬とスキンシップをとっていても驚かないし、むしろ普通に受け流してくれる。


「ねーね、帰ってきたね、ひょーま」
「ねーね」
「ただいま、豹馬!お母さん、おやつ何〜?」
「もう帰ってきてすぐそれなんだから」


おばさんはそう言うけど、まあ身内ならそんなものなのかもしれない。あたしだって妹のことは嫌いじゃないし、好きだけどこの年齢になってからそんなベタベタしないしね。



「いーなー、ひょーまかわいいから連れて帰りたい」
「連れて帰れば〜?」
「ひょーま、あたしのところくるー?」
「うんっ」
「ホントに?!」
「絶対意味わかってないって」


わかってる、意味を理解してないこともわかってるし、本気で連れて帰れないこともわかってるけど、口では言いたいのだ。それを理解した上で豹馬の姉であるちーちゃん(千切だからちーちゃん)もケラケラと笑ってる。


「そうだ、このあと遊ぼうよ」
「いーよ、何する?」
「うちにおいでよ、お母さん良いよね?」
「もちろん、良いわよ」
「じゃあ、ランドセル置いてくる!」



こうやって突発的に遊ぶ約束だってよくあること。ちーちゃん家は、あたしの家にないオモチャとかいろいろあるから楽しいし、何より豹馬がいるから無限に遊べる。そうと決まればあたしはまずちょっ早で家に帰ってランドセルを置いて遊びに行くとお母さんに言わなきゃ。ちーちゃん家だから即オッケーだろう。あ、妹も来るかな。とにかく善は急げって言うし、すくっとその場で立ち上がり、ちゃちゃっと戻って来ようと思っていたら、足元を掴まれた。



「めっ」
「ひょーま?」
「澪ちゃ、めっ」



豹馬に、がっしりと。
突然、どうしたのかと思っておばさんの顔を見れば、クスクス笑っている。



「豹馬、澪ちゃんと離れたくないみたい」
「ひょーま…、えーかわいい!うれしい!あたしも離れたくない!」
「澪ちゃん、家帰ってすぐ戻ってくるから豹馬離れなよ」
「やぁだ!」



あたしの足にしがみついて離れない豹馬はどうやらあたしがいなくなると思ったらしい。確かに家に帰ろうとしていたけれど、すぐに戻ってくる予定だが豹馬はそれをまだ理解できない。ちーちゃんは自分の弟だからサバサバと言うけれど豹馬は駄々こねる。故に必死にしがみつく豹馬がかわいくてかわいくて、あたしはすぐにしゃがみ込んで抱きしめてしまう。



「あたしもやだ〜!」
「いや、澪ちゃんはさっさとカバン置いてきなって」


「遊ぶ時間なくなるし、さっさと置いて来れば豹馬とも遊べるでしょ」と的確なことを言われてしまった。ど正論すぎて、ほんとそれ。だからあたしは再び渋々立ち上がる。


「豹馬、すぐ戻ってくるから!そうだ、十数えて!すぐ戻ってくる!」
「さすがに十で戻ってくるのはムリでしょ」
「澪ちゃ…」
「はいはい、豹馬。澪ちゃん困っちゃうから待ってましょうね」


すっごく悲しそうな顔をする豹馬に心痛みながら、あたしはダッシュで家に帰った。早く戻りたくって玄関にランドセルを放り投げて出て行こうとしたら、やっぱりお母さんに見つかって注意されたのでドタバタと部屋に戻ってランドセルは置いてきた。ついでにお母さんから千切家に持っていってと採れたてであろう野菜を持たされたのでそれを持って行く。


「ひょーま!戻ってきたよ!」


って急いで千切家にお邪魔したけど、豹馬はもうケロッとしてて小さい子ってそういうもんだよね!ってなったけど別にへこんでない!うそ、ちょっとだけさびしかった。
でもおばさんが美味しいおやつを出してくれて、ちーちゃんと豹馬と一緒に食べられたし、いっぱい豹馬を愛でられたから良しとしよう。本当にかわいいな、豹馬。このまま健やかに育ってほしい。

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