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a LOVERY TONE×灰谷蘭


※竜胆視点


身内だから何でも知ってるわけではない。血を分けた兄弟だから、何でも通じ合ってるわけではない。俺は俺であって、他の誰でもないから正直全部が手に取るように分かるわけでもなければ、むしろ腹の中が読めないことだってあったし、理解よりも先に自分自身が感情的になってしまって見えなくなってしまっていることも多かった。

それでも、最近よく思うのだ。

きっと今こう考えてるんだろうな、って。

理解できなくて、振り回されていた頃もあったけど、今では俺の方が俯瞰的に全体を見据えてしまっているんだから笑っちまうわ。



六本木のカリスマ兄弟と呼ばれていたあの頃。

声をかければ100人以上もの不良が集まるぐらいの実力があった。

特に兄貴は、いいとこ取りばっかだし、仕切り屋だし、横暴って言葉がぴったり。そんなところが嫌いだったのに、人ってこんなにも変わるんだなって思えてしまう。


灰谷蘭。そういえば誰もが一目置く存在だ。誰にも媚びずに、誰にも囚われない。そんな兄貴が、今たった1人の女のためにずっと試行錯誤を繰り返している。


「どうすっかなァ」
「…なにが?」


こう言う時の兄貴は構ってほしい時の独り言だ。大き過ぎる独り言。シカトできればどれだけ楽だろうか。構ってほしい兄貴にシカトする度胸も器もない俺は重たい口を開くしか選択肢はないのだ。


「なまえへのプレゼント」


なまえはどこにでもいる普通の女だ。平々凡々、カリスマと呼ばれている俺らとは違い、特別何かがあるわけではない。強いて言うなら、俺らみたいなのと生きる世界が違ったはずなのに、些細なきっかけにより接点が生まれ、兄貴に絡まれることになってしまったなまえ。兄貴と接点ができてしまったばっかりに、とかわいそうなやつって思った頃もあった。最初は靡かないなまえが面白くて良いと思った兄貴が何度も構い倒す形になっていった。後々分かった話では、なまえは兄貴みたいなタイプが一番苦手だったらしくって、兄貴に靡くどころか早々に飽きられることを願っていたと言う。だけど、なまえとの気持ちとは裏腹に誰もが予想してなかったほどに兄貴がなまえに気付けば落ちていて、なまえもそれに絆されてしまったってやつだ。
そんな兄貴が悩むことは大抵なまえのことで、今の独り言だってなんとなく予想はついていた。返ってきた言葉を聞いても驚きはなかったし、そうだよな…と納得して終了。にしたい、俺的には。だけど、兄貴はきっと終わらせるつもりはないだろう。なんだって、構ってほしいのだから。


「なまえ、誕生日だっけ…?」
「ちげーよ」
「は?じゃあ、なんで」


思い返してみたけれど、今年のなまえの誕生日は過ぎただろう。この記憶に間違いはないはず、だからなんで兄貴がそれに悩んでるのかわからず聞いてみたけれど、兄貴はニコニコと気味悪いぐらい上機嫌な笑みを浮かべるだけで何も教えてはくれなかった。ホント、上の子って自由だよな。いつだって合わせるのは下の役目。だけど、兄貴への対応はこれが正解だったらしく、俺は兄貴にバレないようにそっと胸を撫で下ろした。

それからの兄貴となまえの関係は相変わらずだと思う。二人が一緒にいる時もいつも通り、だけどなまえと一緒にいない時の兄貴はいつも通りじゃない。何かが違う。ポツリと呟いたあの日から、兄貴は物思いに耽ることが増えた。あからさまに、仕事のことではないのは明確。だからこそ、その時の兄貴は近寄り難い。と、いうよりは立ち入りにくい雰囲気を醸し出していた。何かを考えているはずなのにピリピリしていなくて、あの兄貴がふんわりとした雰囲気を纏っていたから。最初こそ、夢か兄貴が熱を出したのか?と驚いてしまった俺だったけど数日もこんな感じのを目の当たりにすれば人間の適応能力ってものが発動する訳で、気にも止めなくなるのが身内故の感覚だろう。


「ねえ、竜胆」
「んあ?」
「竜胆とか蘭って、小さい頃ヒーローに手紙書いたりとかしたことあるの?」


俺らの家のリビングでソファーに座ってテレビを見ていたなまえが突拍子もないことを言い出して、思わずは?って言いたくなったのを何とか飲み込んだ。なまえは風呂上がりでサイズの合わない兄貴のぶかぶかなスウェットを着ていて、本当になじんだなぁとしみじみと実感しながら、問いかけられた言葉を脳内で復唱。


「ヒーロー?」
「そう、今テレビで男の子がやってたじゃん。流行りのヒーローに手紙書いてって」
「いや、見てねぇし」
「んもう、見てなくても良いから。男の子ってそういうのやっぱりしたの?」


なまえが見ていたのはバラエティ番組で正直興味がない俺はソファーに座ってスマホをいじってた。だから内容はマジで知らねぇし、と言葉を返したけれどなまえはここで引き下がるような奴でもない。懲りずに再度聞いてくる。こういうところが兄貴と似てるんだよなって言わねぇけどさ。


「あーどうだったかな」
「あったじゃん。マージでちっさい頃だけど」
「はぁ?そうだっけ」
「そーそー、俺らもあの頃はピュアピュアなガキだったもんなぁ」
「なんか蘭が言うと説得力欠けるんだけど」


いつから話を聞いてたんだか。今まで席を外していた兄貴も戻ってきて、なまえの横に腰掛けながら昔のことを口にする。どう頑張っても俺には思い出せない記憶。なまえも言っているが、兄貴が言うとちょっと疑いたくなる気持ちもわかるが、俺らだって生まれた時から不良ってわけではないのだから、そんなことがあってもおかしくないんだろうけれど、やっぱり記憶にないことはそんなことあったっけ、と適当に返すしかなかった。


「つーか、イチャつくなら部屋にしてくんない!?」


◆◆◆


クラブ経営は俺と兄貴でやってることになってるけれど、基本的なメインは俺の仕事。兄貴は資金源となる周りとの繋がり、交流を主軸に動いている。灰谷蘭という肩書きは不良をやめてからも名前の威力が健在だからだ。兄貴はいつだって飄々とお偉いさん同士の会合に顔を出してニコニコと胡散臭い笑顔を貼り付けて、のらりくらりとやってのける。だけど、そんな兄貴が珍しくクラブの中にある俺らの部屋のふかふかのチェアーに身を投じてで天を仰いでいた。腕で顔を隠していて表情までは見えないけれど、まるで何かをしくったような、やらかしたような、あまり良い雰囲気ではないのだけはわかる。


「兄貴、何かあったのかよ」


返事はない。もしかしたら寝ているのか、と一瞬思ってみたけれど、兄貴は起きていると思うから違うだろう。


「なぁ、竜胆」


ポツリと呟いた兄貴の声に覇気はない。


「大人になっても、言葉って難しいな」
「…何それ」


兄貴の漠然とした呟き。何に対してのことなのか、何を意味しているのか、主語もなければ目的もわからない俺は、さすがに兄弟でもずっとそばにいたて察することはできない。


「いや、思っただけ」


兄貴は背もたれから身を乗り出して、いつもの掴み所のない余裕の笑み。それはまるで俺の気のせいだったかのよう。結局兄貴が何を意味して何を思って発した言葉か、俺にはわからず終いだった。



けど、それも案外別のタイミングで俺は知る。



「蘭、どうしたの」
「なまえにさ、言ってねぇことあったなぁって思って」
「言ってないこと?」


いつもと変わらない口調だけど、誰が聞いてもちょっとかしこまったように感じる雰囲気。なまえもそれを悟ったんだろう、兄貴の言葉を復唱する。


「そ〜。俺がこんなこと言うなんてなって思うんだけどさ、」
「うん」
「Will you marry me?」


聞いてるくせに断定的な確信しかない言葉に笑ってしまった。兄貴はずっと悩んでいたのはこの日のことだったんだろう。ずっと悪さをしてきたばっかりの俺らがまともな生活をしてこなかった俺らが、周りとの出会いで生活はガラリと変わった。大人になってまさかクラブ経営するなんて思ってもみなかったし、兄貴が一人の女に執着することも誰が予想できただろうか。つまりはそういうことだ、人生何があるかわからねぇし兄貴にとっての一番の変化はなまえとの出会いだったんだろうなって思う。


そういえば思い出した。いつだったかヒーローに手紙を書いた話。
あれはまだ俺が本当に小さかった頃、子供ながらに何を思ったのか兄貴と一緒に手紙を書くことになったっけ。だけど俺はまだ字が書けなくて、絵を描くことになって兄貴が言葉で書くことにしたけれど、兄貴の方が先にそれをほっぽったのだ。


「やっぱやめる」


それだけ言い放って鉛筆を投げ出した兄貴に当時なんで、と驚いたけれど兄貴は不貞腐れて何にも答えてくれなかった。しばらくしてポツリと呟いた、「何書けば良いか分かんねぇ」と。今思えば、子供ながらに伝えたいことが沢山あり過ぎて、言葉をうまく紡げなかったんだろう。昔だったら上手くいかないことは投げ出して、気付けば力尽くで乗り越えてきた兄貴。ガラにもなく悩んで迷ってそんな兄貴が導き出した答え。ほーんと、なまえってすげぇ女だわ。あの灰谷蘭を変えた女なんだからな。

ちなみに俺がなんで二人のやりとりを知ってるかって?

それは気にしちゃいけねぇよ、弟はいつだって何歳になっても兄貴の言いなりなんだから勘弁してほしいよな。



「Will you marry me?」の意味は「結婚してくれるよね」
(断られない確信があるときに言う言葉)



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