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THE OVER×佐野真一郎


俺は自分が死ぬ時、俺の人生を振り返って何を思うんだろうかと思ったことがある。

親を早くに亡くし、家族を守るため弟たちを守るために全てを背負ってきた。
その道は決して楽ではなかったけれど、楽しいことも嬉しいことも生きていく中で確実にあったと胸張って言える。大変ながら笑って過ごせる日常が好きだった。


「なまえ聞いてくれよ」
「なに、どうしたの」
「実はさ」


そばにいるなまえは俺の幼馴染。ただそれだけの関係でこの年齢までずっとそばにいるなんて普通じゃあり得ないと思う。あり得ないと言ったら言い過ぎかもしれないが、普通の幼馴染という関係でずっと腐らず拗れず繋がれる関係って全体の割合で考えたらどれぐらいなのか。確率にしたらとても低いと思っている。思春期を迎え、学校だって環境だって変わっていく。たとえ家が近かろうとも、きっかけと理由がなければ自然と関係は遠退いていくものだ。俺だって学校を卒業し、黒龍を結成して盛大に遊んだ時期だってあった。仲間たちと過ごす時間は楽しく、辛かった日常を笑って過ごす糧になったのは言うまでもない。そんな俺が、困ったフリしてなまえに会って笑顔を貼り付けて話すそんなある日。なまえは少しだけ困ったような何とも言えない表情をしながらいつだって付き合ってくれる。都合のいい時だけなまえに会って、都合の良い時だけ頼る俺は知らず知らずのうちに自分を押し殺していたらしい。


「あ〜またフラれたわ」
「真ちゃん記録更新じゃん」


と、言っても全部が全部隠して殺してたわけじゃない。


まだ黒龍で俺らがヤンチャしていた頃の話だ。
ケラケラと笑うワカが言っているのは、さっき俺が塗り替えた失恋回数の記録更新のこと。笑われているけれど、正直俺自信、言葉の割にはショックとか悲しいとか悔しいという感情は持ち合わせてはいない。ただフラれたというマイナスな結果にただ言葉で嘆いているだけだ。そうすれば、周りも「またか〜」「報われねぇな」って笑ってくれるから。万次郎たちには「シンイチロー弱っ」って言いたい放題言われてイジられてネタにされて終わり。それでみんなが円満ならそれでいい。


「で、真ちゃんはホントにどうすんの」
「んー?なんのことだよ」
「はぐらかすなって。なまえのこと」


と、気持ちを切り替えるフリを自然といつもしてきた俺は、今回ワカからの一言に思わずあからさまな動揺をガラにもなく出してしまった。言葉が詰まり、なんのこと?と言ってもそんなのは見え透いた嘘にしかならない。


「真ちゃんがなまえのこと、なーんも思ってないわけないじゃん」
「そうかぁ…?」
「下の弟妹が小さいからって理由で言い張ってるけど、いつだって気にかけるなまえの気持ち。知ってるんでしょ」


ワカは知っている。なまえが俺の幼馴染であること。今は俺よりもエマと会ってることの方が多いのも知ってるし、逆に俺なんて本当にたまにしか会わない程度になった。それでもたま会えるのはそういう風にいろんなことを都合のいいように利用しているからだ。


「どうだろうな」
「あーあ、なまえかわいそ」


ワカの言う通りだ。なまえの気持ちにも気づいてるくせに気づかないフリをして、

俺の家には親がいない。小さな弟と妹がいる。まだ自立もできないソイツらを見て見ぬふりができると思うか?
十歳の時、抱いた小さな命の感動。ずっと一人っ子として育ってきた俺が初めて抱えた小さな命。あぁ、俺はこの子の兄になったんだ、と腕に掛かる重さと温もりを感じてジワジワと広がる感情を噛み締めたことを今でも覚えている。
俺が十年間、親からもらった愛はそれからは弟たちにも与えられるようになったけれど、誰よりも親からの愛を長くもらっていたからこそ、親がいなくなった時、俺の中でコイツらのためにって気持ちはより強くなった。全ては長男としての責任感。これからは兄だけでなく親としてもいなければ、と。

だから俺は何よりも家族を選ぶ。


家族を選ばなければならない。だから、


「ほんっと、かわいそうだよなあ」


俺は他人事のように薄っすらと笑って呟くのだ。今日も自分の感情に蓋をして、なまえには俺は勿体無いと、決めつけていた。


黒龍は次の世代に引き継ぎ、俺はバイク屋を始めた。黒龍で繋がった仲間たちは辞めても、俺のことを慕ってくれて店に来ることは日常茶飯事。自分で店をするのは正直楽ではない、辛いこと、大変なこと、悔しいこと、たくさんある中で、解散した後の仲間たちに会えるのは俺の中での活力だった。
弟たちの成長は早く感じた。万次郎たちは中学に上がり、自分達のチームを作る。エマも気付けば色気付いていて、俺だけではわからないことも増えた。だから、なまえって幼馴染がいてよかったのかもしれない。エマは俺よりもなまえを頼るようになり、なまえから何があった、どうだったって言う話を受けて話すことが少しだけ増えていく。

俺はあぐらを掻いていたんだろう。

俺の家族を気にかけてくれるなまえを勝手になまえはそばにいてくれると、心の中でどこか思い込んで変わらないなまえの態度に安心してた。だけど、なまえにはなまえの人生があって、俺の知らないところでの生活ももちろんあるわけで。たまたまなまえが知らない男と肩を並べているのを見た時、俺は心臓が抉られるかと思った。一度はそれでいいと思ったはずなのに、そうあるべきだと思っていたはずなのに、


「し、ん…?」


時が経ってもなにも変わらなかったなまえとの関係。ずっとこのまま過ごしていこうと思っていた。なまえの幸せのために、そこには俺じゃないと決めつけて。いつかなまえの横になまえを大切にしてくれる人が現れると信じていた。それを笑って見送ってやろうと決めていたのに、付かず離れずいたはずなのに、結局身勝手な俺はとうとうなまえを閉じ込める。困惑したなまえの声。それもそのはずだ、と心の中で笑って、でもそれが逆に虚しかった心を埋めていく分には充分で。ずっとそばにいたくせに知らなかった体格差。いや、知っていたし見ていたはずなのにいざ腕の中に入れて見ればスッポリと収まるサイズだったのか、と実感させられる。こんなのアイツらと変わんねぇじゃんって思い浮かべるのは弟たちのこと。今までずっと蓋をしてきたものは、俺の中で溜まりに溜まってとうとう蓋では塞ぎきれなくなり、燻った感情がドッと溢れてしまった。まるで決壊したダムのように、認めてしまえば流れは早く止めることができない。



「ごめんな、なまえ」



ほんと、俺はいつだって身勝手なやつだ。



「いいなぁ、こういうドレス、ウチも着たい」
「ふーん」
「マイキー興味なさすぎ」
「ほらほら、言い争いすんなよ」


いつだったか飯食って見ていたテレビでやっていたのは結婚式をやらずに子供を産んで育てている夫婦が番組を協力の元、結婚式を挙げる企画。花嫁が綺麗な純白のドレスを着て嬉しそうに笑っている姿。やっぱりエマも女の子だな、と思いつつ俺が思い浮かべるのはなまえのことで。

あいつもこういうの着たいって思うんだろうな。

そう思うと同時にその横に立つ知らない誰かを想像して黒い何かが出そうになるのを必死でかき消したことがあった。


「真ニィこそ、どうなの!」
「なにがだよ」
「なにがじゃない!なまえのこと!」



見て見ぬ振りしていたものが、蓋をしていたものが、意図せずこじ開けられそうになる。


「あぁ、なまえならきっと似合うんだろうな」


だから俺は必死に蓋をして、はぐらかして何か言いたげなエマの言葉でさえ知らんぷりをした。

俺にはその資格がない、俺では無理だと決めつけていたあの頃。

いつか誰かの横で微笑む純白の姿を見て俺は嘘で塗り固められた笑顔で祝福の言葉をかけるんだろうと思っていた。



誰が想像しただろうか。


窓から見える外の景色は晴天に恵まれ、燦々と降り注ぐ太陽の日差しはこれからの日々を明るく照らし続けることを誓ってくれているよう。着なれない服に身を包み、胸元が窮屈に感じられるせいで、つい首元を緩めたくなるが、今そんなことをしてしまっては、と己自身に自制をかける。靴も履きなれないながらに早歩きをして室内を移動していれば、お世話になっているスタッフの人が俺を見るなりにっこりと微笑む。


「固いですよ」
「はは、やっぱりそうっすかね」


自覚はしていた。自分なのにまるで自分じゃないみたいな感覚。ずっと落ち着かなくて、地に足がついていないような。未だ微睡の中、ボンヤリと都合の良い夢を見ているんじゃないかって。


「言ってましたよ、」


スタッフの人が教えてくれた言葉がこだまする。


「ないと思っていた未来にいま立てている、それだけで幸せだ、と」


その言葉を何度も噛み締めながら辿り着いた目的の部屋の前、俺は深く深呼吸をする。

なぁ、なまえ。その言葉、俺もだよ。
これから先、たくさんの苦労があると思う。出来事でもあれば、歳を重ねていった何十年も先の未来で言葉を失うことや記憶をなくす事だってあるだろう。たとえ、今までの出来事が、これから訪れる幸せの出来事が、たとえ忘れられようとも、俺はずっと心を通わせてそばにいたい。見た目が変わろうとも、中身が変わろうとも、ずっと俺を選んでくれたなまえのために、俺はずっとなまえのことを想い抜いていきたい。

だって俺には無理だと決めつけていたのに、なまえはずっと俺を選んでくれてたんだもんな。


「真」


部屋の中、純白の衣装を身に纏うなまえが眩しい。


「なまえ、」


ずっと一人じゃないことを感じさせてくれたなまえのために、それが俺がこれからできること。
一人っきりじゃ知り得なかった、


「スッゲー、キレイ過ぎんだろ」
「ふふっ、泣かないで花婿さん」
「だってこんな、むりだろぉ」
「も〜、真が先に泣いちゃうとあたしが泣けない」


困ったように笑うなまえに俺はまた幸せを噛み締める。自然と溢れた涙はなまえの純白姿がキレイだったのもあるけれど、それだけじゃない。これまでの遠回りしてすれ違った時間経過を経て、無理だと思っていた未来が今ここにあるからだろう。

俺らは今日ここで愛を誓う。
夫婦としての門出をみんなの前で誓い、祝福されようか。


俺はこの人生の幕を下ろす時、きっと思うだろう。親を早くに亡くし、弟たちの親代わりをして、大変なことはたくさんあった。たくさんの遠回りもしてきたけれど、俺にはかけがえのない人生だった、と。
ずっとそばにいてくれたのがなまえでよかったと、感謝をするだろう。俺の探していた愛のそのものは、なまえだったから。だから誓うよ、最後眠りにつくその時まで、なまえの隣に。



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