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a LOVERY TONE×佐野真一郎


仕事の移動で乗る軽トラ。基本的に作業着で乗るし、後ろには部品や工具など、場合によってはエンジンみたいな大きいものだって乗せたりすることだってあるから、決して綺麗ではない車内。あたしは助手席のシートを軽く手で払ってから、車内に乗り込んだ。運転席には座らない、だってマニュアルだし、この車の持ち主だってあたしではない。車内に乗り込んで、吸い殻入れに溜まったタバコの吸い殻にため息をつきながら、車内に置いてあったゴミ捨て用のコンビニのビニール袋にひっくり返した。


「っしょっと」


あたしが吸い殻入れを元の位置に戻すタイミングで開いた運転席の扉。軽トラと言えど車高が高いため、ステップだって高さがあるのに、そんなことを感じさせず軽々しく慣れた様子で乗り込むところは男女の差だろう。難なく乗り込んで、シートベルトをつけてからバックミラーの位置確認。準備が整ったのを確認したあと、エンジンをかけた。


「まーこんなにタバコ吸って」
「んー?」
「もう、すぐそうやって誤魔化す」


車はすでに発進し始めていることもあり、返ってきたのは空返事。あたかも何て言った?みたいな雰囲気を醸し出している真一郎は、一瞬だけ目配せしてきたけれどすぐに前を見てしまったので目は合わない。むしろこの瞬間に目が合う方が危ないので、それで良いはずだけれど、あたしはちょっとだけモヤっとする。このままこの気持ちをズルズルしても仕方ない、あたしはカーオディオをいじり流れ出す曲は大好きなバンドの楽曲。


「一昨日のライブ、楽しかったな」
「でしょ〜?ほーんとかっこよかった!」
「俺とどっちがかっこいい?」
「かっこいいのベクトルが違うからノーコメント」


流れているのは昔の楽曲で結構ハードな曲。ライブでは間違いなく盛り上がるタイプのそれはつい先日、真一郎と言ったばかりのライブで演奏されていた曲の一つだった。そう、今流しているのは先日の曲のセットリスト。あたしがずっと追っかけているバンドで、日常的に聴いていたこともあり、気付けば真一郎もハマっていたっていう。こっちとしては、してやったり。好きを共有できるのは嬉しい話だ。世代はあたしたちとそんなに変わらない。すごくストイックで真っ直ぐで、音楽への信念が鋭くて本当にカッコイイバンドなのだ。真一郎もそういった意味合いだと言うことを理解した上で、どっちがカッコいいかなんて聞いてくるのも珍しくない質問なので、あたしはいつものようにかわして終了。
きっとここでバンドの方がカッコいいって言っても、真一郎は不貞腐れたり、ヤキモチを妬いたりはしないと思う。ちゃんと憧れの対象だってわかっているから。


「ボーカルも言ってたけど、この曲とかなまえがよく聴いてたから知ってたけど、知らなかったら新曲に感じてたわ」
「あたしもまさか昔の曲やるなんて思わなかったら、驚いちゃった」
「あの時のなまえ、めちゃくちゃ喜んで飛び跳ねてたもんな」


曲に沿って思い出すのはまだ興奮冷め止まぬライブの時の空気感。散々聴いてきた楽曲たちに聞き飽きたことはないし、それがまたライブとなれば格別。音源とは違う生音でその時その時の演出、アドリブ、ハプニングが起きる楽しさを知ってしまっているからだ。バンドのメンバーが醸し出す雰囲気と会場内のファンたちの熱量、それに充てられたら、もうたかが外れたように盛り上がるしかない。真一郎だって、人のこと言えないはずでしょ。なんだかんだ、あたしに付き合って一緒にライブに行くようになって、最初こそ戸惑いありつつ、今ではしっかり楽しんでいるし人のことばかり言わないでほしい。


「あ、ガソリン少ないよ」
「やべ、入れ忘れてたわ」
「めずらし…、ほらガソスタ向かってくださーい」


たまたま視界に入ったから気づいた、ボウ…と光るガソリンランプ。普段、助手席に座っていて、わざわざ見ないけれど、今日は本当に何気なく視線がそっちに行ってしまって気付いた。真一郎は気付いていないらしいので、伝えてみたら案の定、面食らった表情と声色で冷静に驚いている。そのままでいてもガソリンが増えるわけではないし、なんなら既に走行中な訳なので、あたしはガソリンへと行き先変更を促した。

やってきたガソリンスタンド。真一郎はすぐにエンジンを切り、扉を開けてやってきたバイトであろうスタッフに会員カードを手渡した。「ガソリン満タンで」と伝えると、そのまま車から降りてしまった。きっとまたタバコを吸いに行ったんだろう。あたしがいくら言ったってやめないことはわかっているので、もうあえては言わない。あたしはあたしで暇となった時間、適当にスマホをいじることにした。今日の予定はこれからいっつも仕事を依頼してくれるお得意様のところに挨拶諸々。年の瀬だから仕方ない。真一郎のお店の手伝いをきっかけに、気づけば従業員として働くようになり、最初はお店の裏方でコソコソとしていた仕事もいつの間にか一緒に外回りをするようになっていた。
窓の外でガソリンスタントのお兄さんが拭き掃除をしてくれる。その間も真一郎は変わらず戻ってこない、この調子だとお会計ぐらいまで戻ってこなさそう、まぁ良いんだけど。

今夜はなにを食べようか。寒いし、あったかいものがいいな。おでんは、具材に味を染み込ませたいから作ったとしても今日は食べられない。となると、やっぱりお鍋?ポトフとかポタージュ系のスープを作っても良いかもしれない。ネットで「冬 手抜き ご飯」と検索をかければ、寒い日に作りたい料理が出てきてとっても便利だ。手抜きもあえて入れているのはこの年末のドタバタで少しでも楽にご飯を作りたいから、という真っ当な理由だ。ちなみに真一郎はどんなご飯でも美味しいと言って食べてくれるので、本当にありがたい。


「おかえり」
「ただいま」


それから更にしばらくしてから戻ってきた真一郎。手には缶コーヒーが一つ握られていて、あたしにそれを手渡していつの間にかお会計も済ませていたらしい。再度車のエンジンをかけて発車した。
止まっていた曲の続きが流れ出し、車内はまた大好きなバンドの歌が響いて手渡された缶コーヒーはじんわりとあたしに温かさを与えてくれる。あたしにとってとても心地いい空間だ。次に流れ出したのは最近アンケートで行った際に一位だったという曲。ノリと良いリズム感とレスポンスの良さが印象的なバンドだけれど、一位を取ったのはまさかのしっとりとした恋愛ソングだった。


「この曲あるじゃん」
「うん」
「俺、スッゲー共感できるんだわ」


意外だった。いつもリズム感で聴いてしまっていて、特にこの曲は真新しいわけではないから、一位と聞いて驚いたし、正直どんな歌詞の曲だったっけってライブで聴いた時思ったぐらいだ。曲が始まる前に、ボーカルが意味ありげに「結婚おめでとう」と言って歌い出したのがとても印象的だった。男の人の視点で描かれた恋愛ソング。大切な人にずっと一緒にいようとプロポーズするまでの歌。


「ヒーローに手紙書いたとか、俺もやったなって」
「あぁ、そっちね」


だけれど、真一郎が言ったのはどうやらそこの部分じゃなかったらしい。あたしと真一郎は一応恋人同士。だけど、年齢的にも別にイチャイチャとか仕事まで恋愛どうこう持ってくる関係でもないので、長時間一緒にいても別に落ち着いていた。仲は良い、真一郎の方は思ったことをちゃんと言葉で言ってくれるので、今更予想と違っていても、ある意味納得して終了。そう言えば2番の歌詞にそんなことを言ってたなぁ…と思い出す。男の子らしいと言えば男の子らしい。小さい頃は誰もが憧れの何かがあって、それにのめり込んでいたものだ。見ず知らずの小さい頃の真一郎を勝手に思い浮かべて、それが可愛らしくて思わず緩む頬。


「言葉って難しいよな」
「うん」
「伝えたくて言うのにさ、うまく伝えられないことばっかで、言い過ぎても言葉の効力は無くなるし」
「うーん」
「だから、スッゲー悩んだんだわ」
「そう」


返事は適当。と言うよりは、なんて返すのが正解かわからず、適度な感じでそれっぽい相槌を打つだけ。


「これから行くところ、お得意様じゃん」
「そうだね、だから菓子折りも持ってきたんでしょ」
「まあ、そうなんだけどさ」
「どうしたの、なに忘れ物?」
「いや、挨拶するんだし、って思って」


なんとなく、心の内が落ち着きなくざわめくのは本能だろう。ガラにもなく、今更ながら何故か緊張したのは、多分隣にいる真一郎の声色がどことなくいつもと違っていたからだと思う。車は止まらず、見慣れた道を走り続けていると言うのに、車内だけがいつもと違う。チラリと視線をずらしてみれば、ハンドルを握る手が一度、パッと手を開いたかと思うとギュッと握りしめる。まるで何かを決意したように。


「なまえ、そろそろ一緒になろう」


あの歌の歌詞と同じ言葉だった。大好きなバンドをBGMに、一位と取ったという恋愛ソングが流れてからまるで曲の雰囲気に流されたかのようにも思える。


「言おう言おうって思ってたんだけどさ、ガラにもなくスゲェ悩んでさ。あーどうすっかなって思ったんだけど、この曲聴いたら、やっぱ言いてぇなって思ったんだよ」


真一郎も曲に感化された、なーんて言ったけど、ごめん。あたしは気付いてしまった。思い返せばこの車に乗った時から、真一郎はおかしかったよね。吸い殻入れにたくさん溜まったままのタバコの量はいつもより全然多かったし、ガソリンランプに気づかず運転したことだってそうだし、ガソリンスタンドでタバコを吸いに行ってたと思ってたけど、これも実は一人で悩んでたんじゃないかなって。いろんなことがそう思えてきて仕方ない。そんな車内で止まることなく流れる次の曲もまた恋愛ソングだった。これから先、何があってもずっと支えていくから二人で手を取り合っていこうって歌。


「真一郎はこれからどれだけあたしに愛の言葉をくれるつもり?」
「そんなの、二人と残された時間に円周率だろ」
「せいかーい」


さすが真一郎。あたしが歌の歌詞になぞらえた問いかけを汲み取って返してくれた言葉にふふっと笑ってしまう。


「こんなに理解してくれてる真一郎がこれからもずっと一緒ならよそ見はできないね」
「あったりまえだろ」


場の雰囲気も何もないけれど、この曲になぞらえたように真一郎がいっぱい悩んで悩んで言ってくれたと思えるから、あたしは純粋にこの言葉を受け入れよう。この歌のようにあたしだって、昔は真一郎が隣にいたという人生を生きていくことは考えられないから。真一郎という存在を知ってしまった、愛を知ってしまったあたしはあなたのそばにいる覚悟を決めるから。だから、誰よりも幸せにしてね。



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