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SHOUT LOVE×鶴蝶


なまえさんはいつだって余裕があって、でもどことなく包容力を感じさせられる。数個上と言えばそれまでだけど、俺にとってそれは大きなものである。例えば、学年も年齢差もそうだし、経験値だって。生きている世界も違っていれば、見てきた景色も違うもの。

家族を失い、生活を失ったオレは施設で育ち、イザナと出会い、いろんな奴らと出会った。喧嘩をした回数はもう数えていたらキリがない。オレはこうやって生きていくと思っていたからこそ、なまえさんとの出会いは新鮮で、そして不安にさせられた。いろんなものを失くしたオレはこうやって生きていくと決めていたくせに、苗字や誕生日と共に捨てたであろう弱い心がオレの中を侵食する。


「見て見て!この間ね、友達と行ったんだけど」


なまえさんは屈託ない笑顔で見せてくれるのは、小さな冊子。その中身は様々ななまえさんや友達であろう人たちと写っている写真の数々。最近のなまえさんと言えば、インスタントカメラをよく持ち歩いており、出先やふとした時に写真を撮っては印刷してアルバムにする、ということをよく行っている。なまえさんは楽しそうにその写真をオレに見せながら、この時はこういうことがあった、これはどんなことがあった、と楽しそうに話してくれる。その話はどれもキラキラとしていて、オレの知らない世界のことばかり。オレはいつだって聞くことしかできないけれど、なまえさんが楽しそうに話すその時間がオレの中の気持ちを満たしてくれる。オレの知らないなまえさんの楽しかったこと、嬉しかったことを共有できる小さなオレの幸せだ。決して知らないなまえさんの時間を妬むなどしてはいない。


「今度、鶴蝶くんも一緒に行こう」
「オレでよければ」


なまえさんは優しい人だから、いつだって最後にはオレのことを気にかける一言をくれる。誘ってくれる優しさが身に沁みる。素直に、「ぜひ」とか「はい」って言えれば良いのに素直になれないオレはどうしてもはっきりしない言葉でしか返せない。それでもなまえさんは嬉しそにふふっと笑うんだ。



ある朝起きて、竜胆と一緒にジムに行った。その後、イザナたちと合流して適当に時間を潰していれば、ふと何かを思い出したように竜胆が立ち止まる。


「あ、これなまえの好きなアーティストじゃん」
「…そうなのか?」


立ち止まった場所はCDショップ。入り口に大々的に貼られているのは、アーティストのポスターでどうやら新曲発売の告知らしい。オレはあまり詳しくないが、こういうところを把握しているのはさすが竜胆だ。そういえば、なまえさんが以前そんなこと言ってた気もするが、オレにはどうも興味がそそられず記憶に残らないでいたから竜胆がいなければきっと何も気付かずオレは通り過ぎていただろう。なまえさんのことだから、きっとこのアーティストのものはまた買っているんだろう。もしかしたら、次会った時オレに話してきてくれるかもしれない。その時に少しでもまともに答えられるように言葉を考えておこう。そんなことを頭の中でモヤモヤしながら考えを巡らせていたら、突然パシャっという音が耳に入ってきた。


「珍しいもの持ってるんだな」
「そうかぁ?」
「あぁ、お前がそういうものを持つイメージがまずないからな」
「たまにはな〜」


音の主は蘭で、手にはよく見るインスタントカメラ。蘭といえばいつものように掴み所のない笑みを浮かべて、手にしたカメラをひらひらと振ったかと思えば、ジッジッジッとダイヤルを回して次はオレの目の前でレンズを覗き込む。そしてもう一回、次はオレがしっかりと見ているにも関わらずシャッターをもう一度パシャリと押したのだ。


「兄貴、次オレに貸して」
「はーいよっ」


結局あの後、そのインスタントカメラは蘭から竜胆の手に渡り、いろんな奴らが写真を撮っていた。何を思って何の写真を撮っているのかはわからないが、大体何もない瞬間を写真に収めていたと思う。あのイザナでさえ、カメラを手にしたときは意外だったが、イザナも写真を撮るよな…と勝手に言い聞かせた。
時間は過ぎ、何故かみんなでやり始めたカードゲーム。イザナが抜け、蘭が抜け、残りは竜胆、獅音とモッチーの3人だ。ちなみにオレは途中席を外していたため、このゲームは傍観を決め込んでいた。ふと、視線に入ってきたのは昼間散々撮りまくっていたインスタントカメラ。ポツンとテーブルの端に置かれていて、オレは何となく手を伸ばす。インスタントカメラを持つ機会があまりないから、手にした時あまりにもの軽さにちょっとだけ驚いた。見ていたからわかるけれど、サイズ感だって普通のカメラと比較すれば小さく感じる。右上のところをみれば撮影できる残り枚数が表示されていて、残り枚数は一桁。元々何枚撮れるものか知らないが、昼間のことを思い出せば、結構な枚数撮れたものだと認識している。なんとなく、オレはダイヤルを回して、レンズを覗き込む。小さなレンズの中から見えるイザナたち。毎日見ている顔ぶれに、何も変わらない光景。ただ強いて言うなら、喧嘩をせず仲間内で呑気にカードゲームをしているということだろう。喧嘩をしていないだけで、平和にも見えるかもしれないそんな光景がオレにとって惹かれるものがあり、気づけばシャッターをパシャリと押していた。


◆◆◆


今日はなまえさんと一緒に過ごす何気ない日。

不定期にあるただ一緒に会って適当に喋るそんな時間、だとなまえさんは思っているとオレは認識している。何かをするわけでもなく、一緒にファストフードやファミレスに行ってのんびり過ごすだけ。のんびりしながら、なまえさんの近状を聞いたり、たまに聞かれたことに対してのオレのことを伝えたり。なまえさんが楽しんでくれているか分からないけれど、何度もこうやって会ってくれることから考えてきっと楽しんでくれているんだと思いたい。


「鶴蝶くん、鶴蝶くん」
「どうしたんですか、なまえさん」


ズルズルとストロー越しに飲みかけのそれを啜っていたら、なまえさんが少しだけテーブルに身を乗り出してオレの名前を呼んだ。ちょっとだけソワソワしたような、いつもより落ち着きがないようにも見えるなまえさんはオレと視線を合わせると、あのね、と言いながら鞄の中から取り出したのは一冊のアルバムだった。


「今回は何処行ったんですか?」
「うん、まあ見ればわかるかな」


グレーの表紙。触れれば固いそれは、いつも見せてくれるアルバムと違うのは一目瞭然だった。いつものはもうちょっと薄い、というか安っぽいわけではないけれど、シンプルで安価で手に入るアルバムを使っていて、でも今目の前にあるのは多分ちょっと値が張るものだろうなと思いつつ、オレはいつものようにアルバムのページを開いた。


「…これは」


いつものようになまえさんが映るアルバムを想像していたから、驚いた。中を開いた一ページ目に入ってきたのは、鶴蝶くんへと可愛らしく描かれた文字と星やハートなどのシールを用いてデコレーションしてある。何も理解できないまま、更にもう一ページめくってオレは息を飲む。


「これね、イザナくんたちに協力してもらったんだよ」
「イザナたち、」
「そう、鶴蝶くんのために作りたいって言ったら快く了承してくれたんだよ」


一ページ、また一ページと開くたびオレは驚いてばっかり。どのページにもオレが何処かしらで写っているし、その周りにはいつも一緒にいるイザナたちもいるが、どれも見事にカメラを見ていない。もしかしてこれって、あの時蘭たちが持っていたインスタントカメラの写真ではないかとある程度ページをめくった時に気付かされる。


「お家のこととかイザナくんから聞いちゃって。鶴蝶くんお誕生日とかわかんないし、でも何かしたくて何ができるかなって思ったの」


過去を捨てたのであれば、何もないオレのため、これからのことを思い出として残してほしいと思ったという。そのために、なまえさんはイザナたちに頼んで普段の日常をいっぱい写真撮って来てもらったという。この話を聞いてここ最近のアイツらの行動に合点が一致した。蘭も竜胆も意味もなくシャッターを切っていたわけではなかった。てっきりアイツらの気まぐれでやっていたと思っていたそれらの行動はオレのためだったというのか。


「みんな素敵だね、鶴蝶くんのためって言ったら喜んで!ってすごい意気込んでくれたんだよ」
「そうか」
「アルバム作るために撮ってもらった写真見てて、すごい楽しそうでほっこりしちゃった」


羨ましいぐらいだよ、って呟くなまえさんはちょっとだけ寂しさを含んだ声色なのに表情は優しく微笑んでいて、胸の中がじんわりと温かいものが広がっていく。

この幸せを手に入れていいのか、この人との関わりを持っていていいのか。家族を失い、喧嘩ばかりしていたオレは決して綺麗な人生を歩んでいたわけではないからこそ、この人がそれを知った時、どう思うのだろうか。怖がられる?嫌がられる?軽蔑させられるのでは?
ガラにもなくオレはなまえさんのことになると常に不安と隣り合わせで、自信が持てない返事ばかり。あたり障りない言葉を陳列させていたけれど、そんなの全部オレが勝手に積み上げた不安なだけだった。
なまえさんはオレが思っている以上にオレのことを気にかけてくれていて、こんなにも思っていてくれていたらしい。本当になまえさんは何処までも素敵な人なのだろうか。たくさんの人が行き交うこの世界で、オレはあなたに出逢い、必然のように惹かれていった。そして今ではオレはあなたのいろんな表情を見られる一緒にいる時間が大好きだ。


「鶴蝶くん…?」
「すまない、嬉しくてつい」


目頭が熱くなったせいで、指でぎゅっと抑えていたオレを不思議に思っただろう。今でも十分過ぎるのにこんなに良いのだろうか、と自問自答を繰り返す。


「喜んでもらえてよかった」
「ありがとう、なまえさん」


本当に感謝してばかりだ。家族を失い、当たり前の日常を失ったオレはイザナと共に手に入れた日常。それが全てだと思っていたはずなのに、喧嘩ばかりのオレに光をくれた。仲間たちとだけでは満たされない気持ちを与え続けてくれるあなたに今日も感謝をしながらオレはガラにもなく幸せを噛み締めるんだ。



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