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51%×今牛若狭


季節は変わり、突然寒くなった気がする。秋の訪れから、冬を感じこうやって季節は巡るんだなと思った。何度目の冬だろうか。若かったあの頃からいろんなことが変わり、それは見た目もあたしたちの立ち位置も変わっていく。

あたしの少し前を歩く若狭はジャケットに手を突っ込んでいて、いつもと変わらない歩幅で歩いている。目指すのは愛車が止まっている駐車場。これから一緒に出かけるために、今回はバイクではなく車で移動することにした。バイクで若狭後ろに乗ってくっついて出かけるのも良いけれど、今日は買い物を兼ねてなので必然的に却下となった。あえてあたしに気を使わず少し前を歩くのが若狭らしくて、ふふっと笑いながら驚かせ半分で後ろから腕に少しだけ勢いよく抱きつくようにしがみつく。


「びっくりしたじゃん」
「驚かせたかったからね」


言葉の割には驚いてないと思うけど、若狭は驚いたと言うならそういうことにしてあげよう。


「あたしに運転させて」


そ、っとあたしは手に持っていたキーケースを指で弾く。どっちかって言うと、今の方が驚いてるように見えるから、してやったり!と思った。だって、珍しく目を見開いてるもんね。それもそのはず、あたしはちゃっかり若狭に近づいた時、ジャケットのポケットに手を忍ばせて、見慣れた若狭のキーケースを手に取ることに成功したのだから。


基本的移動は若狭の運転。バイク移動の方が多いし、バイクはあたしには無理なので必然的に若狭に頼ることになる。だから車移動は珍しくて、若狭の運転を横で見ているのも好きだけれど、たまにはあたしだってと思って閃いた行動だった。普段なら、助手席に座る若狭の車だけれど、今日は全部が逆だ。助手席に座るのは若狭であたしは運転席。若狭に合わせて運転席のシートが位置しているから、足が届かないので少し前に移動して、背もたれも微調整。バックミラーだって見えっこないから、これも再度確認した後に鍵を回した。


「なまえ、安全運転で頼むワ」
「わかってるよ〜」


駐車場から出て、左右を確認し車道に出る直前。若狭はドアに肘をつきながら言ったのがわかる。これは純粋に気をつけてねの意味合いでの言葉なので、あたしは再度ミラーとガソリン、シートの位置諸々確認してアクセルを踏み込んだ。
若狭を乗っていくのは久々だ。普段からめちゃくちゃ車に乗るわけではないけれど、一人でも必要があれば運転することはある。だけど、やっぱり若狭といればバイクの方が多いし、車で移動する時も決まった道ばかりだからそれなりに緊張感を持ってハンドルを握る。あたしたちが一緒に車に乗るときは、あたしが話しかけて、若狭が聞き流しつつ、返事をくれてって言うのが普段だけれど、今回は逆であり、あたしが緊張感を持っていることを察してくれた若狭があえてラジオをつけてくれた。話の内容は右から左で聞き流せばいいし、無音じゃないから程よく肩の力を抜かせてくれる。


信号が赤に変わり、前の車につられてブレーキをゆっくりと踏み込めばゆっくりと車も停車する。大きな通りなだけあって、車の数も多いけれど、無茶な運転をする人がいないのは助かる。軽く右や左の風景を見ながら、ラジオを聴けば恋愛についての話だった。リスナーからの手紙があったのか、どんな流れでこんな風な話題になったのかわからないけれど、別れについての話をパーソナリティーであろう人たちが語り合ってて、ふーんって聞き流す。若狭、こういうの興味あったっけ、と思ったけど多分何も言わず聞いてるなら、これでいいのかなと深く気にしなかった。

若狭は昔からチームを組んで、ヤンチャして。白豹って呼ばれてる時もあったっけ。それから黒龍ってチームになったのは知ってる。今も付き合いがあるベンケイくんたち。特に中でも真一郎くんを慕っていたのはすごく印象的だ。あたしは好きなことをすることに干渉し過ぎたくないし、好きなことがあることは一番誇らしいと思っているから、そんな若狭に惹かれたと言っても過言ではない。だって、好きなことがあるってその人の信念みたいなものでしょ?自分の色を持っているって素敵なことだと思う。まあ、喧嘩して傷やアザを作って来られると心配もするけど、これはきっと女であるあたしには理解できない部分であり、ここに踏み込んだ時、あたしの嫌いな干渉になるからこそ、あえてして来なかった。まあ、心配はするよってことぐらいは伝えたけど、それは彼女だから許してほしい。


「あ、どっから入るんだっけ」


目的地に近づいた頃、駐車場はどこからだっけと思って呟いた言葉。ここの入り口ってちょっとわかりにくいんだよなぁ…と思ってぽろりと呟いた言葉。そこからワンテンポ遅れて「…少し先に入り口あるから」と若狭がどこか力なく呟いた気がした。
やってきたのはホームセンター。これから買うのは若狭がこれから始めるジムで使うための備品諸々だったり、家で使うための日用品の買い出し。適当に立体駐車場の中をぐるぐると回って、停めやすいところで車を停める。エンジンを切って、シートベルトを外した時、動こうとしない若狭に違和感を感じて、おでこに手をやったら「急に何」って言われてしまった。


「だって若狹、おかしいよ」


熱があるのかな、とか具合が悪いのかなって思ったけど、どうやら違うみたい。運転席から少しだけ身を乗り出したあたしは車内って至近距離で若狭と見つめ合う形になるけれど、今更これでドキドキするような初々しさはなかった。と、言うよりは若狭がやっぱりおかしくて、伏せ目がちにするから、あたしは何かしてしまったのか、もしくは何か言えないことがあるのか、と思いを巡らせてみる。けど、何一つわからないあたしはこんな空気のまま店内に入るわけにもいかず、はぁ…と一つため息を吐き出した。


「なまえはさ、さっきのラジオどう思った」
「ラジオ?」


ラジオってどのことだろう。もしかして、さっきの恋愛についての話題とか?申し訳ないけれど、ほとんど聞けていなかったし、興味がなかったし運転中ってこともあってあまり記憶にないあたしは、うーんと思い出そうとするけれど無駄な努力だった。その沈黙が若狭にとってどう捉えられたかわかんないけれど、突然おでことおでこをくっつけられて、あたしが驚かされる。目をパチクリとさせて至近距離、ドアップになった若狭を見つめるけど焦点が合わないし、なんなら後頭部をしっかりと固定されて逃げられなかったりする。


「今日もオレの私用に付き合わせてるのに、良いの?」
「あたしも日用品欲しかったから、あんまり…」


本当にどうしたんだろうって思う。どっちかっていうと今日だって、「あ、買い出ししなきゃ」ってことの発端はあたしの言葉であり、それを聞いた若狭が「オレもジムの備品欲しいからホームセンター行こ」ってなったわけであって、お互いウィンウィンのはず。若狭と付き合って、数年。さっきも言ったように初々しい空気感はとっくに無くなっている。


「若狭、何か言いたいことあるなら言って」


これはこれであたしは好きだった。だから、様子がおかしい若狭が妙に引っかかる。もしかして、別れ話?だったら泣いちゃうかもな。確かに最近あまり会えていなかったから。若狭はジムの準備とか、あたしも仕事がバタバタして連絡なんて大してやらず。電話した時に買い出ししなきゃでホームセンター行くこと決めて色気なんて全くないし。そんなことを悶々とあれかなこれかなを繰り広げていたら、ふと真剣な声で名前を呼ばれて息を飲む。


「一緒に住もうか」


びっくりした。頭の中は真っ白だよ。今の今までそういう空気感だったっけ?って思ったほどだ。あたしがもしかして空気を読めていなかった?って思ったぐらい。驚きの反応すらも忘れるほど、あたしは言葉を失って若狭を見つめていれば、プッて噴き出されたし軽くキスをされてやっと解放される。


「今すぐじゃないけどさ、諸々落ちついたらネ」
「…う、ん」


なんか、一本取られた気分。でも、若狭とまだまだこれからも一緒にいられるなら本望だ。




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