真一郎と幼馴染 | ナノ

続・ご飯に誘われただけですが、


「生しらす食いに行こ」


それは唐突だった。まあ、何を言うにしても、突拍子もない発言は全て唐突だと思われるものだけど。たまたま真の家に来てた日だった。頂き物でたくさんの食材を貰ってしまい、一人では腐らせてしまいかねないから、と真の家に行ってご飯作って一緒に食べるっていう付き合ってもないのにこんなことできるのは腐れ縁の特権なんだろうけれど。そんなあたしたちの関係だからこそ、真も気兼ねなくこんなことを言うんだろう。今もご飯食べていると言うのに、この男はなんて言った???って発言をよくしてくる。


「え、しらす?」
「生しらすな!」
「唐突」
「いーじゃん」


ニッと笑う真はスマホを片手にいつ行くかな〜とスケジュールを確認し始める。…あたしのご飯、イマイチかな。食べてる時に他の食べ物の話をされて、ちょっとだけ複雑。


「美味いメシ作ってくれたから、次は美味しいもん俺が食わしてやる」
「…ホントかなぁ」
「そこは素直に喜ぶところだろ?」


真は本当にタイミングが良いのか悪いのか。人の心を読めるのか読めないのか。そういう意図ね、と納得させられたし、おいしいと素直に言われたら言われたで恥ずかしさもあるあたしは真の言う通り、可愛くない天邪鬼。お酒の力を借りてちょっとだけ素直になれるぐらいの女だ。そんなあたしに優しくする真も物好き過ぎるんだよ。



そんなこんなでやってきた真との約束の日。真のバイクでやって来たのは横須賀とおんなじくらいの距離にある江ノ島。生しらすと言えば江ノ島らしい。真はまたお客さんからでも聞いたんだろう、お店に連れて来てくれて一緒にランチをする。平日の店内はお昼時だけど、そんなに混んでなくてスムーズに入れたし、オーダーもすぐに持って来てくれた。メニューには海鮮もたくさんあったけど、真が食べに行こってせっかく言ってくれたので生しらすを選択。釜揚げしらすと違って、半透明の生しらすは新鮮でぷりぷり、美味しかった。



本当に食べるためだけに来たあたしたちは、このあとどうするか。話した結果やって来たのは江ノ島から近い鎌倉だった。
たくさんのお寺や神社がある鎌倉に来たのはいつぶりだろうか。ありきたりな鶴岡八幡宮とか大仏ぐらいしかピンと来ないから、とりあえず行く先は鶴岡八幡宮へ。ながーい階段を登って、食べた後のものを消費させる。階段を上がりきったあと、お参りをして辺りをぶらぶら。境内を彷徨っていたあたしたちが行き着いたのは、小さな石のあるところだった。人がちらほらといて、ここは何だろう?石に何のご利益があるのかな、と見ても分からず。


「政子石って書いてあんな」
「なんだろうね」


目星となる説明書きを探しても結局分からず、興味本位でスマホを取り出して検索してみた。「鶴岡八幡宮 政子石」と入力して出てきた単語にあたしは息を呑む。


「美憂?」
「うん?ほら、他のところ行こ…!」



真に名前を呼ばれて、あたしはそそくさスマホを締まって腕を引っ張った。政子石は結局真にとっては何もわからずでそれで良い。そう思いながら、あたしは振り返ることすらできず、少しだけの未練をそこに置いて一緒に立ち去った。



「そう言えばさ、アクセサリー工房あるんらしいんだけど、行ってもいい?」
「うん、いいよ」


ふらふらと歩きながら、目についたソフトクリームを食べて、ふらふらとしながらお店を眺めていたら、真が思い出したように呟いた。アクセサリー工房ってことは、ハンドメイドでやってるってことなのかな。行く宛があるわけでもなく、意味もなくぶらぶらしているなら、行きたいところに行ったほうが有意義だ。真はスマホを取り出して「なんつー店だったかなぁ」とぼやきながら、タップする。それを横目にあたしは仲睦まじく歩くカップルが目に留まり、ぼーっと見てしまう。手を繋いで笑って話して、あれ見たい、これ行こうって話をしているんだろうな。あたしたちと言えば、周りからどう見えてるんだろうか。隣で歩いているのは同じでも、お互い変に気遣うこともなく色気もなくひたすらブラブラ。こんなの東京にいてもおんなじだよなぁ…なんて思ったりもして。やっぱりさっきの政子石に祈願すれば何かが変わったのかな、って思ってしまう。


「ってなにやってんの!?」
「ん〜?なにって」


完全に気が抜けていた。ぼーっと考え事なんてしてしまって、そしたらあたしの手に持っていた食べかけのソフトクリームを真が突然パクリと一口。ソフトクリームを食べられたことに驚いているんじゃない。このソフトクリームは、ある程度食べ進めてしまっていたもので、見た目的にもめちゃくちゃ食べかけなのにそれを意図も気にせずパクリとした真に驚いたのだ。あたしの質問に対して一瞬は説明しようと思うも、口の中のソフトクリームを喉から流し、改めて口を開く。


「溶けて垂れそうだったから」
「言えばいいじゃん…」


さも当たり前のように言わないでほしい。真のこういう昔から変わらないところ、というべきか。こんな風になれたら良いのに。こんな風になるってやっぱり気にしないことが一番なのか。絶対見つからないはずなのに、いつだってあたしは一人悶々とこんな自問自答を繰り返す。恥じらいのない行動に一喜一憂するあたしも馬鹿馬鹿しいと思いながら。

一人では絶対思いつかないし、歩こうとも思わない住宅街を抜けて出たのは車が一台ずつ走れるぐらい、歩道はない小道。小さな雑貨屋さんの横だった。扉は開いていて覗き込めば、いろんな動物のモチーフが売られている。


「あったあった」


お店を覗いていたあたしは、その声を聞いて振り返る。真はあたしが見ていたお店とは正反対の方にいて、どうやら目的のお店を見つけたらしい。見た目はシンプル。入っていいのかもわからない。そういえば、こういうアクセサリー工房的なのって予約とかいらないの?その場で作るなら、尚のこと。必要そうだけど、ノープランでここにきて平気だったのか?と今更になってポンポンいろんなことに気付かされる。あたしなら躊躇ってしまうのに、真はそんなこと気にしてもいないのか、何食わぬ顔でその建物の扉を開けてしまう。中から挨拶してくれたのは、白いシャツに工房の名前がプリントされた黒いエプロンをしたお姉さん。清潔感があって優しそうな人だった。中を見れば他にも同じような格好をした人たちが何人かいて、それぞれがお客さんの接客をしている。


「ご予約されてますか?」
「いや、してないんすけど」
「ワークショップご希望でしたら、ご予約となりまして」
「指輪作るのはできますか?」
「そちらでしたら大丈夫ですよ」


トントンで進む話。ワークショップもやってるんだ、って思ったけど、確かに店の隅に椅子と台テーブル、あとはその上に削るやつとかなんか色々あって、多分使うものなんだろうなって思った。お店の中心にお姉さん達スタッフがいて、四角くテーブルが囲うように配置されていて、近づいてみればいろんなデザインとゴールドやシルバーの指輪が並べられていた。


「こちらでは、さまざまなデザインの指輪を作ることができます。幅もいろいろ、丸いものにデザインを入れることから、六角形にしたりもできますよ。種類はゴールド、シルバー、真鍮でサイズによって金額が変わりますのでどうぞご覧ください」

説明を受けてなるほどってなった。アクセサリー、指輪の入ったケースは確かにゴールドとシルバーと真鍮の三種類に大きく分かれていて、手前から細いもの、奥にいくに連れて段々と幅が太くなっていた。


「いっぱいある」
「スゲェよな。その場でオーダーすれば作れるんだってよ」


シンプルなリングもあれば、波打ったようなデザインもあって、逆に同じデザインでも太さが違うだけで可愛く見えたり、ゴツく見えたりと比較が楽しい。こんなにたくさんあって、金額も1000円ぐらいからと手頃なものも多い。そんなつもりなかったけれど、これならあたしも作りたいなって思ってしまう。


「かわいい」
「美憂も作る?」
「そうしようかな、サイズどれだろ」


お姉さんが言っていた。金属の種類と指輪の大きさ、デザインまで決めたら声をかけてくださいって。ゴールドやシルバーは流石に突発的な出費としてはちょっと高額かなぁ。とりあえず真鍮で良いかも。細いのも可愛いけど、ちょっと太めも良いかも。なんて思いつつ、異なるサイズの指輪をはめてははずしてを繰り返す。


「どの指の作んの?」
「うーん、中指か薬指か…。太さも悩んじゃうね」


指にサンプルをはめてみて、真に見せてみる。真は自分で聞いてきたくせに何とも言えない反応のみ。まぁ、好みの問題だし、口出ししにくいか。なんて思ってあたしも深く気にしてはいないのだけれど。
それからお互いに種類も太さもデザインも決めた頃、お店のスタッフであるお姉さんと言えば他の人の対応中であたし達二人で待ちぼうけ。だから、指輪の他に並べられたアクセサリーを見て待つことにした。


「バングルとか、ブレスレットとかも売ってるね」
「こういうの、今日は作ってねぇのかな」
「どうだろ、お店の名前なんだっけ」


ずらりとぶら下がるブレスレットやネックレスたち。真はどうやらこっちの方を作りたかったのかも。お姉さん達に聞きたくても、相変わらず他の人たちを対応しているから聞けるわけもなく、モヤモヤするのもめんどくさいからスマホでお店の名前を検索。もう何か気になることがあったらすぐに検索するようになってしまったし、逆を言えばスマホがなければ何もできないと思う。気づけばスマホに依存した生活となっているあたしはすぐにこのお店のホームページを見つけてタップした。


「あ、今やってるの指輪だけだって」
「あーまじかぁ…」


少しだけ残念そうに落胆する真。あぁ、やっぱりそうだった。それもそうだ、真は仕事柄、作業するわけで指輪は邪魔だろう。となれば、首につけたり、まぁ邪魔だと思うけれどまだブレスレットの方が無難かも。こんなにシンプルでキラキラとしたものだし、真だったらシルバーアクセが似合うと思うからちょとだけ良いなと思ったり。
お姉さんの手がやっと空いてからはあっという間だった。二人でこういう指輪を作ってほしいってそれぞれオーダーして、そうしたら目の前でいろんな器具を持ち替えてカンカンカンカン。真は六角形の指輪をオーダーしていたから、六角形の金属の棒にまーるい指輪を通して、奏地でトントン。割と原始的。お姉さんが叩くたびに指輪の形は綺麗に六角形へと変化していく。途中、お姉さん自身が自分の指を叩かないかハラハラしつつ、あたし達に解説しながら作ってくれた。出来上がった指輪はお店の名前があしらわれたカードと一緒に小さな袋に包んでくれた。あたしが先にお会計をして、その後で真がお会計を済ます。「また是非いらしてください」ってお決まりのセリフを聞きなら、軽く会釈してお店を後にした。


「鎌倉ってこーゆー店、結構あるんだって」
「それもお客さん情報?」
「そう」
「お客さん物知りだね」
「いろんな人来るからな」


時間も時間、そろそろ帰らなきゃ。そんなことはあえて口にしないけれど、あたしも真も自然とバイクを止めていた場所へと足を向ける。タラタラと歩きながら、あたしはさっきの作ったばかりの指輪に夢中。こういうハンドメイドのって作ったことないから、新鮮で自分のためのものってのがちょっとだけテンションが上がるもの。あんまりこういう場所詳しくなかったから、行くのも躊躇ってたけど、今日は良い出会いだったなって思えた。


「美憂、手ェ貸して」
「うん?」


ふとした時だった。真に言われて適当に差し出した右手。そうしたら、真があたしの手を掴んで何かをしでかす。その何かもやられてる最中にすぐにわかったのだけれど、突然何?って気持ちが膨らむ。答えの出ないまま混乱したあたしが真と目があったのは真があたしの手を離してくれた時だった。


「美憂にやるよ」


あたしの腕には少し太めのチェーンブレスレット。シルバーのそれは真新しいもので、すごくキラキラしてた。


「…ありがとう」


今日は何でもない日のはず。


「え、これどうしたの?」


だから、突然のことに何故これを貰ったのかが理解できないあたしは、一旦は素直にお礼をするもやっぱり納得できずに真に尋ねてしまった。そしたら、真は嬉しそうに笑みを浮かべて「美憂につけて欲しかったから」と呟く。その表情が、してやったり。って何かが成功したような表情で、ちょっとヤンチャさが含まれていて、不覚にもあたしの好きな表情だったから、こっちが更に不意を突かれてしまった気分。ブレスレットと言い、この表情と言い、訳わかんないことばっかりだ。


こんな風に突然プレゼントがあるなんて思っても見なかったから、ちょっと意味合いは違うけどこれは都合良くも政子石のおかげって思うようにしておこう。そして改めて鎌倉に来たら政子石に祈願しよう、縁結びのご利益がありますようにって。


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