真一郎と幼馴染 | ナノ

ご飯に誘われただけですが、


スマホにメッセージ着信があった。スリープ状態だったスマホをたまたま手に取り、時間を確認しようとした時にそれに気づく。
メッセージは真から。「この日、空いてるか?」簡潔的なメッセージ。空いてるか、と聞いてくるということは何かあるんだろう。日にちを見て特に何もなく問題ない日だったから、すぐにアプリを起動して「空いてるけど、どうしたの」と入力送信。ものの数秒で既読となり、ピコンと行が追加されて「飯食いに行こう」の文字が送られてくる。
多分、真のことだから、何か気になる店でも聞いたのだろう。

当日、真のことだからバイクでの移動になるだろうと思って、服装はいつも通りパンツスタイル。今更スカートとか履かないけれど、上半身とメイクとアクセサリーはしっかり吟味して選んだ。待ち合わせ時間、集合場所はあたしの家の前。外でバイクの音がして、真が来たことを確認する。玄関の鍵を閉めて外に出れば、いつものように愛機に跨っている真と目が合う。


「おはよ、美憂」
「おはよう、真。なに調べてたの?」
「ん?あぁ、行き方を地図見てたんだわ」


ハンドルのところに自分のメットをぶら下げて、真が選んでくれたあたし専用のメットは真がクッションを抱き抱えるようにして持っていた。手にはスマホを持っていて、何かを見ていたのがわかるの。覗き込みながら聞いてみたら、確かにそれは地図で、これからの目的地までの道のりを調べているという。地図を見ただけでは、何処だかわからず、ふーんって思いながら「何処まで行くの?」と聞いて驚いた。


「横須賀」
「…え?」
「え?」


いや、えって聞いてるんだけど、えって聞き返さないでほしい。真は今なんて言った?横浜の聞き間違えかな?


「ごめん、もう一回」
「横須賀」
「ん?」
「ん?」


この茶番的なやりとり何回繰り返すんだ。どうやら聞こえ間違えじゃなかったらしい、真はこれから横須賀に行こうとしている。ご飯行こうって誘われた気がするんだけど、この距離もちょっと行こうぜ!みたいな範囲なの?それともあたしの感覚がおかしいのかもしれないとさえ思えてきた…。


「ほら、時間がもったいねぇし行こうぜ」
「う、ん」


結局この屈託ない笑顔に絆されてすぐにどうでも良くなってしまうんだけど。





1時間ちょっと。都内から神奈川の端の横須賀まで考えたら、まぁ当たり前の時間だったけど、あたしにはすごく長く感じる時間だった。ずっと真の後ろに捕まって、バイクに一緒に乗っていたわけで、何度も一緒に乗せてもらったけれど、こんなに長時間くっついていることの方があまりないこと、そして相手が真であるからこれだけで変に疲れてしまった。


「美憂、大丈夫か?」
「へーき…」


バイクに乗ってること自体も、しっかり振り落とされないようにと意識を張っていることもあり、そういう意味からの解放感がある。真が先にバイクから降りて、あたしに手を貸してくれる。メットを手渡して、真の手を借りながら足を地に着けた。安定した地はやっぱり安心する。ずっと同じ姿勢でいたこともあり、あたしはまず思いっきり背伸びをしてしっかりと息を吸う。ここでやっと周りの風景が認識できるようになり、辺りをキョロキョロと見渡してみる。一見普通の街並みで、あまり違いがわからない。


「ほら、こっちだから行こう」
「あ、うん」


完全に真におまかせ。横須賀に行くってことも今日わかったあたしは、今日なにを目的に食べにきたのかもわからない。真に呼ばれてあたしは置いていかれないように素直に着いていくだけ。こっち、っていう真が当たり前のようにあたしの手を握ってくれて、あたしの体温が一気に上昇する。びっくりしすぎて真を見るけど、真はスマホと周りの風景を見比べてばっかり。これ、無意識でやってるなら結構困る。


「うっわ、すっげぇ並んでんじゃん。別のところ行くか」
「ん、うん?」


目的地も何もわからないあたしは、真に誘導されるまま歩き続けてたから、肯定も否定もしようがない。ただわかるのは、真が来たかった場所にたくさんの行列ができていたこと。商店街?みたいな、なんかちょっと古びたような、パッとしないお店が並んでそうな通りに、突然できてる行列。ちょっと場所と似つかな過ぎて浮いてるようにも思えた。結局、真はまた別のところを検索し始めて、グルリと方向転換。再び腕を引かれるまま、あたしは一緒に後をついて行った。



結局次やってきたお店も行列。真は「仕方ねぇ、並ぶか」とボヤいて最後尾に回る。レトロと言えば聞こえがいいが、やっぱり古びた外観。さっきの店の印象もあまり残ってないけれど、パッとしない店を選択する時点で正気か?と思ってしまった。真には何か理由がある、と思うからそんなこと思っちゃダメだと言い聞かせる。


「真」
「んー?」
「ここ、なんのお店?」


列に並んでこんな質問もバカみたいだけど、仕方ないじゃん。本当に何も知らずに連れて来られたんだからと、待機列であたしたちの会話を聞いてるかもしれない人たちに声を大にして言いたい。


「ここ、バーガーの店」
「え?」


いやもうびっくり。バイク乗せられてここまで来てバーガー?思わず、えって言っちゃったじゃん。真は慌てて「んな反応すんなって!」って言うけど、じゃあ説明してほしい。


「ネイビーバーガーってバーガーがあって、めちゃくちゃ美味いって聞いたんだよっ!いくつかオススメ教えてもらって食いてぇなって思ったから来たわけ!」
「ふーん…、ちなみに誰に」
「店の客」
「…男の人?」
「おう」


じゃあ、いいや。男の人に勧められてなら、魅力に感じるのもわかる。だけど、こういうのってあたしよりワカとかの方が楽しいんじゃないかな。バイクでみんなで来られるし。誘ってくれたのは嬉しいけど、なんか不意に落ちなくて。いつものメンツと同じ括りにされてるのかなって何故か気持ちはマイナスへと傾く。


「美味いって聞いたし、せっかくなら美憂と遠出したかったからさ」
 

まるであたしの心を見透かしたようにこのタイミングで呟く。


「いつも近場だと、アイツらいたり、他の奴らにあったりすんだろ?二人っきりになるなら、ここまでしねぇと難しいしよ」


周りの人たちに聞かれないように、少しだけ耳に顔を寄せて言われた言葉にあたしの顔は一気に熱を帯びる。目線だけ動かせば、すぐそこにある真と目が合って、その瞳がまっすぐこっちを見てくるから吸い込まれそうになる。真の黒い瞳にはポカンと顔を赤らめたあたしが写っていて、この顔を真も見てるのかと思ったら余計に恥ずかしくなった。それを隠すようにバシッと思わず真のことを叩いてしまって、「いってぇ!」って声が少しだけ響いた。
ドキドキしてたのも束の間。待機列もハンバーガーだからか、ゆっくりながら流れていく。もうすぐ店内ってタイミングで、メニューを渡されたから、先にオーダー方式らしい。助かった、メニューを手に何を頼もうか話題がそれたから。
それから更に数分後、やっと入れた店内。席に着いてすぐ、店員さんが持ってきてくれたハンバーガーを目の前にあたしは釘付けだ。


「すごいデカイな」
「うん」


メニューを見てもしかしてって思ったけど、その通りだった。よくあるチェーン店で見るハンバーガーの大きさを想像していたら、そんなの間違い。片手では明らかに収まりきらない、両手でも大きすぎるハンバーガーがやってくる。こっちはハンバーガーの大きさに圧倒されてるのに、真はもう目をキラキラさせて嬉しそう。


「美憂!写真撮って!」


アイツらに送ろうぜ!なんて言ってワイワイ。年甲斐もなくはっちゃけてるところが不覚にも可愛いと思ってしまった。真に言われるがままスマホのカメラを起動して写真を撮ってあげて、それを見せれば「さんきゅ!」って嬉しそう。もう、本当にズルいんだよ、この笑顔が…!!!
これだけでもう胸一杯でお腹いっぱいになった気がするけど、あたしも頼んだからには頂くとしよう。


「え、おっきい…」


一口、食べてみたけど全然上手に食べれない。大き過ぎて大きく口を開けてもバンズ、レタス、ピクルス、トマト、パテ、全てを口に収めきれず。真と言えば、割とすんなりがぶりついて食べてるから、さすが…って思ったり。うーん、もう少し大きく開けてみても良いけど、真の目の前でそんなに大きく口を開けて食べるところを見られるのもちょっとなぁ。


「なんか今の言い方エロいな」


真が何かバカなこと言った気がするけど気のせいだと思おう。バーガーも持ったまま右から、左からの角度で眺めて結局何度かトライし、ずっと掴んでたらちょっとだけ厚みがなくなって食べやすくなってきた。頑張って頬張ってたら、突然カシャって音がしてふと目の前を見たら真がスマホをあたしに向けて構えていて、フリーズ。


「え、いま」
「撮った」
「っ変な顔してた…!」
「頑張って食ってるだけだから」
「ちょっと見せて…!」
「口にソースついてんぞ」
「っ〜〜〜!もうっ」


なんて時に写真を撮るんだ。撮るなら言ってほしい、ちゃんとカメラ意識するのに!真のスマホを今すぐ取り上げてでも確認したかったけど、バーガーを持ってるからそんなこともできなくて口で言ったら、次は口元にソースがついてるって言いながら指で拭うし…!もう何に反論して反応すれば良いかもわからず、真は呑気にハハって笑うし、途中からバーガーの味がわからなくなったのは言うまでもない。


ネイビーバーガーはとてつもなく大きかった。結局最後の方はなんとか食べ切ったって感じ。真と言えば、「美味かった〜!」ってご満悦。食べ終えてから、辺りを見てればタトゥーの入った外人さんがいっぱい歩いていて、ちょっと驚いた。そっか、横須賀って米軍基地あるもんね、と東京とは違った人の様子にソワソワしてしまう。真はあんまり気にした様子もなく、再びあたしの手を引いて歩き出した。
そのあと、ズルズル連れて行かれるまま次に来たのは大きなショッピングモールの後ろに海辺。そしてデカデカと書かれた軍港巡りの文字。軍港?米軍とかのことかな、申し訳ないけど真が何も教えてくれなかったから前知識がなさすぎる。調べようにもあたしの片手は真の手の中で、もう片方は空いているけどスマホが残念なことにカバンの中。片手では出せず、頭の中の思考という思考回路を回すだけ。


「次ここな」


やっぱりズルズルと連れてこられたチケット販売所。目の前の電光掲示板には各回の時間が書かれていて、これスケジュール制なんだと此処で知る。それもそうか、海で見る限り船に乗りそうな感じだし、船の出発の時間もあるわけで。よくよく見たら、幾つもの完売の文字。え、チケット買えないからなしなんじゃ?って真に言おうとしたら、受付のお姉さんに「こちらへどうぞ」って声をかけられて二人揃ってカウンターに。


「予約してる佐野なんですけど」


びっくりした。真は事前に予約していたらしい。お姉さんに「はい、佐野様ですね。確認します」って返されて、真を凝視するしかない。ここまでのスケジュールを考えていたの?これじゃまるでデートじゃん。ただ単に、ちょっと遠出で飯食いに行こうだったのに、さっきのバーガー屋さん入る前の言葉といい、真の行動に真意が見えない。というか、確証が何も持てない。ずっと翻弄されっぱなしだ。


チケットを買って、待機列に並んでいればすぐに乗車開始。適当に窓際を選んで、他の乗客たちが乗るのを待ちながら、外をぼんやりと眺める。


「美憂、写真撮って」
「うん?」


こんなところで写真なんて、何用だろうと思いつつ、スマホのカメラを起動して、真にレンズを向けたら「あー、違う違う」と言われたしまった。写真撮ってって真のことじゃないの?と思っていれば、真があたしのスマホの画面をタップする。



「一緒に写真撮っとこーぜ」


真がタップしたことにより、画面はインカメを表示。突然画面に現れる自分の顔と真の言葉にもちろん声を押し殺して驚いた。結局折れたのはあたしで、まさかこんな形で真と一緒に自撮りするなんて…。あたしの顔の横に近づいて並んでる真の顔が良すぎて絶対消せない写真の出来上がり。
それからすぐに船も出港。潜水艦や軍艦を観ながら「すっげぇ!」「かっこいい」と真は大はしゃぎ。あたしの方が窓際にいるから、必然的にあたしに寄って一緒に外見てる距離感にずっと落ち着けない45分を過ごした。


「あ〜楽しかったな」
「うん」

あれからちょっとだけブラブラして、真のバイクで地元に戻ってきた。なんだかんだ一日使った横須賀は、真と一緒だったし普段行けないところを回れて、充実してたと思う。


「今日はありがとう」
「おう、またどっか行こうな」


じゃあな〜って真は帰路に着く。真の姿が見えなくなるまで見送ったあと、あたしはスマホを取り出して、今日写真を開いた。自分からは行こうって思わないところだからこそ、新鮮さもあったし、何より楽しそうな真と一緒に過ごせたのが嬉しかったのが大きいかもしれない。あたしはそっと写真のお気に入りボタンを押しといた。


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