真一郎と幼馴染 | ナノ

20代の本気サバイバルゲーム

暑い夏。どんなに水を飲んでも体は潤わない。と言うよりは、汗と共に塩分が出ていくせいで、水だけでは補えないため、必然的に清涼飲料水を飲みがちになる。今日は平日真っ只中の休みだと言うのに、すごい偶然で休みが被った。と、言うのも、あたしは有休消化。ワカのところは定休日。真一郎のお店は周りが休みだときいて、俺も休みたい!!!って理由でお休み。最後だけ何とも言えない私情を理由に職権使っての休みだけど、自分でやっているお店だから良いだろう。


ベンケイも明司にも声をかけて今でも集まれるのはさすが共に過ごした仲間だなって感じた。全員バイクでお出かけ。あたしはバイクに乗る人ではないから、必然的に真の後ろに乗せてもらっての移動。暑い夏だって言うのに、人とひっつくのも煩わしい季節なのに、真の背中にくっついて乗るバイクはすごく心地よかった。風を全身で受ける気持ち良さもあるけれど、やっぱり真が運転するバイクに一緒に乗るって言うことが一番の理由だろう。あたしたちがやって来たのは東京お台場にある夢の大橋。すぐに行けて、日陰らしい日陰はほとんどないけれど芝生もあって、一応水辺も視界に入る。少し行けばお店もあるから、お腹が減ったら買いに行けばいい。何より、平日の昼間で何もない日だからこそ、人の少なさが確証されている理由だけでであたしたちはやってきた。


「あっちぃな〜」
「どこら辺でやるんだよ」
「荷物置くなら、橋の下のところとか日陰だし、あっち行こーぜ」


各自大きな袋を携えていて、この中身を考えたらあたしはため息しか出ない。呆れと言うべきか。幾つになっても男は子供だなぁと思ってしまう、そんなものが入っているのをあたしは知っている。ベンケイが持ってる時点で、大きいはずのそれも小さく見えるし、ワカの袋はそんなに大きく見えないけど、どんなのが入ってるんだろうなんて思ったりもして。あたしはとにかく暑さ対策として、日傘を差して、片手にタオルと扇風機を持ってついて行く。
たどり着いた大きな橋の下にある日陰に、荷物を置いて各自準備開始。袋から徐に取り出したのは、拳銃。ではなく、夏によく見かける水鉄砲だ。と、言ってもただの水鉄砲ではない。飛距離5m以上は鉄板、大容量タンクも必須、一個数千円する結構ガチめの水鉄砲だ。大の大人たちが各自水鉄砲を準備してバイク走らせて、わざわざ大きな広場のある人気の少ない公園へ来た理由はただ一つ。


「よっしゃぁ!サバゲーすんぞ!!!」


真の言葉により、みんなが楽しそうに声を上げる。二十代のしかもガタイのいい男たちが水鉄砲を持って集まって、テンション高らかにしているけれど、見た目も声のトーンは明らかに厳つい。しかも全員楽しそうにしているせいで、側から見ていれば結構オラオラしてる様にも見れるから、他人だったら正直寄りたくないぐらいだ。本当に遊びに本気。いつまでも童心を忘れないのは良いと思う。今日という夏日をより楽しむために、真たちが考えたのは水鉄砲でガチのサバゲーだった。


「ベンケイが持つと普通に見えるけど、ちゃんと大きいね」
「当たり前だろ。しかもオレのはダブルで出るヤツだからな」
「明司のは?」
「オレのは機動力」
「へえ」


みんなちゃんと決め手があるらしい。ベンケイのはすごく大きくて、いっぱい噴射しても困らなそう。明司のやつは二丁拳銃。そんなに大きくないけれど、二丁あれば動きやすいしどっちでも狙える良さがある。ワカは大きさそこそこ、スタイリッシュ。なるほどねって感じ。真の方に視線を移すと、俺のも見て見てって子供顔負けの純粋キラキラ笑顔でこちらを見て来たから言葉に詰まってしまった。

「うーん、うん」


正直水鉄砲へのコメントは難しい。大きいとか威力ありそうとかありきたりなことしか言えないし、かっこいいとかそういう概念は持ち合わせてないから、とりあえず肯定をしてあげようと思って頷いていたら、真はちょっとだけしょげて「…俺だけ塩対応」と呟くからちょっとだけ申し訳なくなった。
水をタンク部分に満杯になるまで入れて来たみんなは内容確認。


「一番濡れたやつが、この後の飯奢りな」
「んじゃ、真ちゃんが負け確だな」
「おい!わかんねぇだろ!」


みんな楽しそうだ。全員で負けた人の罰ゲームを決めて、ワイワイしてる姿はまるで男子高生のような、いや、中学生男子かもしれない。完全に真が狙われる空気感。明司もベンケイもワカも楽しそうに乗っかってるし、こりゃ真には勝ち目がないなって内心思ったりもして。



「俺、今日は濡れてもいいようにビーサン持ってきてんだよな」
「やっぱり負ける前提かよ、真」
「ちげぇって!!!」


あたしの横に置いてあるポリショルダーの中から、真が取り出したのはビーチサンダル。完全に濡れる前提なのがもう負け確過ぎるし、ビーチサンダルだと機動力が逆に落ちない?って思ったけど言わないでおこう。元々履いていた靴も靴下も脱いで、ビーチサンダルに履き替えて、あたしに「ここ置いといていい?」なんて聞かれるから、良いよしか言いようがない。ちなみに、タオルもちゃんと持ってきている。夏だし暑いし日差しもあるから、早乾きしそうだけど念のため。日陰から、日向を見ればジリジリと日差しが降り注いで、嫌になる。だけど、こんな中の水浴びは気持ちいいだろうな。サバゲーは嫌だけど。


「んじゃ、スタート合図頼むわ」
「…スタートとかでいいの?」
「おう」


各自準備は終えたらしい。真に言われて、内心渋ったけど、みんなの顔見たらワクワク楽しそうだし、仕方ない。みんな日向に出てお互いに距離を取り始める。あたしもこの場から言うわけにはいかないので、開始直後の被弾を避けるためにもみんなとの距離を置きながら日陰と日向の境目ギリギリまで移動して、一回だけ息を吐いては吸い込んだ。



「スタートっ!」



開始の合図と共に静寂していたこの場はバトルフィールドへと変貌。その場からみんな一目散に駆け出した。


「っぇええええ!!!」


はずだった。シュコシュコと音を立てて水鉄砲に加圧を送ったり、と思ってしばらくは盛り上がるなと思っていたのだけれど、盛り上がったのは一人だけだった。突然、真が大声を開けて勢いよく前に倒れかけたのだ。転びこそせず、踏みとどまれていたけれど、下手したら顔面行きかねないし、その瞬間不憫にもみんなから一斉に水鉄砲を喰らって「つめってぇ!!!」と更に叫ぶから状況整理が追いつかない。


「真ちゃん、どうしたんだよ」
「石に躓いたのかぁ?」


大の大人が盛大に転んでもシャレにならないし、まず無事で良かった。だけど、真に何があったのか。見る限り周りには何もないところなのに本当に躓いたのなら、ドジ過ぎるんだけど、どうやら違うらしい。


「真どったの」
「っめてっ!おいおい、武臣!今のはナシだろ?!」
「チャンスの間違えじゃなくて?」


ちゃっかり明司は真のお尻目がけて噴射してて直撃被弾。すっとぼける明司に真のツッコミが入る。ここで、ハハって笑って流されるのがここの関係らしい。


「…ビーサン壊れた」


真の一言に一瞬の沈黙。みんなは真の顔から視線を下にずらして爆笑。さっき履いたばかりのビーサンは陽の目を見てすぐに散ってしまった。と、言うのも所謂、鼻緒?の部分がとれてしまっていて、勢いよく走ろうとしたのが逆に仇になったらしい。それで足元を取られた真は転びそうになったと言うわけか。機動力が上がらなそうとは思っていたけれど、こんな早く壊れるなんて誰も予想してなかったから、真はやっぱり何か持ってると思う。


「つーわけで、美憂。サンダル買ってきてくんね?」
「え、履いて来た靴でいいじゃん」


真は当たり前のように言ってきた。あたしはパシリじゃないんだけど、と思いつつ、壊れたなら素直に靴を履いてくれの気持ちをオブラートに包んで返した。だけど、真はそんな本心に気づく様子もなく笑ってるじゃないか。


「いや〜、靴だと濡れたら乾きにくいだろ?適当に動きやすそうなの買ってきてくれよ」
「真ちゃん、それって思いっきり濡れる大前提の負け宣言?」
「んなわけあるか」
「よろしくな、これ俺の財布」
「ついでにパンツも買ってきてもらえよ」
「すげぇ濡れる前提じゃん…!」


ポイッと投げられた真の財布。有無を言わさず、強制的にあたしの手の中にあって、真はみんなと当たり前のように話を進めてしまう。とりあえず今のところは靴でいいか〜って言いながら履き替えてて、ほら靴履いてるんだから良いじゃんと思ったし、すごい言いたかったけど、喉まで出かけた言葉を無理やり飲み込んであたしはくるりと回ってみんなに背を向ける。ここで何かを言うのは、楽しい時間に水を差すだけ。男は本当に勝手な生き物だと、何度も実感したのに自分も学ばないな…。みんなのワイワイする声を聞きながら、一人炎天下の中歩き出す。ここから行くなら、ビーナスフォートの方。ここから何分ぐらいかかるんだろう、10分とか?そこまで行くのに日陰は皆無。つまり暑い中、一人でジリジリと日差しを浴びながら歩いて、お店を探し買って帰らなきゃ行けない。考えただけで嫌になるけど、結局あの場で自分一人不貞腐れることすらできないあたしは大人しく行ってくるしかないんだ。もう、適当に涼んで冷たい物飲んでから戻ってやる。



ビーナスフォートに着いてから、サンダルを探したし冷たい物も買って飲んだ。お金は全て真の財布から出した。これぐらい許されたい。まず、真もあたしに財布を渡すなんて気を許し過ぎだと思う。クレカだって入ってるし、免許証だってある。悪用されたらどうするんだ。誰にでもこうするとは思えないけれど、逆にあたしに対して油断しすぎ。まぁ、やらかしようもなければ、何かするつもりもないのだけれど。
意を決して再び来た道を戻るあたしは、本当に馬鹿だ、馬鹿馬鹿しいと自問自答を繰り返して歩く。もう、みんなの決着はついたのかな、でもみんなのことだからまだワイワイやってるかもしれない。この間に真の靴はもうびしょ濡れで意味がないのでは?本当に下着までやられてたりして。あたしという異性がいなければ、攻撃なんて見境なく人目関係なくやりたい放題だろう。遠慮と加減をしないだろうし、盛り上がり切ったテンションに入ることほど精神的に疲れることはないんだよなぁ…。なんだかんだで戻ってきた頃には、やっぱりみんな何かワイワイやっていた。水鉄砲も手にしているし、勝敗はついていなさそう。そう思って、近づいている時だった。


「やっべ!」


誰がそう言ったんだろうか。その声を聞いたとき、あたしの体に衝撃が走った。それは何かが当たった衝撃、それが何かもわからず、あたしは立ち止まることしかできず。何、何事?え、え?って混乱していれば、体がなんだかおかしい。おかしいと言うより、気持ち悪いと言うべきだろ。服が不自然に体に張り付いていて、重さを感じる。固まっていた体と意識が少しだけ、溶けてきた頃、視線を下にずらせば、本当にどうしてこうなったのかわからないけれど、あたしの服がビシャビシャに濡れていたのだ。


「美憂大丈夫か!?」


みんな一斉に集まってきて、あたしの心配をしてくれる。それは純粋にありがたいことだけど、衝撃的には水鉄砲が当たった感じではなかったので、本当に何が起きたのか、そう思ってみんなのことを流して見た時にそれは明らかになる。


「水風船…」


真たちの手にはパンパンに水の入った水風船があって、辺りには不自然に水が跳ねたような跡がある。つまりは水風船が割れた後だろう。ってことは、あたしはこの水風船を食らって濡れたと言うこと?こんなの誰も予想できなかったし、あたしはまず参加する予定じゃなかったから着替えももちろんない。


「真の下手くそ」
「エッ、今の俺だった!?」
「美憂、大丈夫かよ」
「…うん」


大丈夫か大丈夫じゃないと言えば、大丈夫って言うしかないだろう。めちゃくちゃ濡れたけど怪我ないし。不意に落ちないことだらけで、モヤモヤする。もう発想が小学生なんだけど。誰の発案?水鉄砲だけじゃなくて、水風船思いついた人。あたしに当たったからまだ良いものの、他の人に当てるリスクだってあるのに!って思ったけど、所詮そんなのたらればの話。今もまた沸々と湧き上がる気持ちをぜーんぶ飲み込んで、真に買ってきたサンダルの入った袋を差し出す。


「ほら、買って来たから」


渡しておしまい。日差しには浴びたくないけど、乾かすしかない。そしてみんなに狙われない位置まで離れよう。だから真の手が伸びてきたとき、てっきり袋を受け取ってもらえると思っていたから突然体が引っ張られて、あたしは狼狽する。しかも真はズンズンと足を進めるから、途中あたしの足がもつれそうになったけど何とか着いていく。


「ほら、羽織っとけ」
「これ、真の着替え」


立ち止まったのは、あたしたちが最初にいた橋の下の日陰のところ。真はパッと掴んでいたあたしの手を離したかと思えば、自分が持ってきたポリショルダーの中を漁って、着替えとして持ってきたであろうシャツを羽織ってくれた。あたしにかけたら、真の着替えもなくなるのに、真は更に持ってきたロングタオルをあたしに押し付けてくる。


「良いから、俺のはすぐ乾くって」
「それなら、あたしもすぐ乾くんだけど」


あたしが引かなければ、真も引かない。いつもなら、笑って流されて折れるのに折れない真は珍しかった。絶対着とけ、って念押しされたら何も言えなくなるじゃんか。


「別に羽織らせなくても服透けねぇじゃん」
「むしろ、無い方がすぐ乾くって」


あたしたちのやりとりをどこからみてたかわかんないけど、結局ワカたちもついてきてたみたい。あたしと真がやり取りしたようなことも言ってきたし、透ける透けないとか今更言われても、そこで叫ぶような純情も持ち合わせていないのが、人生経験の差であり二十代というものだろう。まだ中学生とか高校生なら、すっごい恥ずかしくなってだと思うけど。


「良いの、美憂はこれ着とくこと。お前らも一旦先に再開してろよ、俺サンダル履き替えてから行くからさ」


結局、真が絶対に曲げなかったことにより、あたしは真のシャツを羽織ることになったし、みんなも「んじゃ、水風船追加な〜」って水道のほうに行ってしまった。なんとも言えない空気で二人きりになって、気まずいほどでもないが、正直落ち着かないのはあたしだけだろうか。段差のところに腰掛けて、買ってきたサンダルを取り出して、黙々と靴から履き替える真。サイズ的には問題なさそう。靴を試し履きもせず履ける精神もすごいけど、この時だけのつもりならまぁありなのかな。真のことを勝手に盗み見しながら、あたしだけが一人いつものように真のことを意識する。


「服は透けないけど、嫌じゃん」


まるで独り言のよう。


「濡れた服張り付いて、体のライン出ちゃってさ。俺だってまだ見てねぇのに、アイツらに見せられっか」
「え、」
「なっ」


思わず出た声。真は今なんて言った?真は爽やかすぎる笑顔で、「なっ」て同意を求めてきたけど、あたしの脳内は完全停止。


「んじゃ、もう一回戦行ってくるわ」


サンダルに履き替えた真の背中を見送って、脳内の機能が再起動した頃には真が再びみんなとサバゲーを開始した頃だった。羽織ったシャツをぎゅっと握って、日陰にいるはずなのに顔が熱い。誰もいないことを良いことに、膝の上に乗せてた真のタオルに埋めるように顔を隠して声にならない叫びをぶつける。


「なんなの…」


別にあたしと真は付き合ってない。あんなの真だってあたしのこと好きなのかって思っちゃう体目当ての可能性をかき消して、都合のいいように解釈。あぁもう帰りはどんな顔してバイクに乗ればいいの、体が密着するのも意識しちゃうじゃんかバカ。


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