真一郎と幼馴染 | ナノ

プロポーズ大作戦

箱からカードを取り出して、赤、青、紫、オレンジのカードをそれぞれ分ける。白字に文字の書かれた大量のカードはまとめて切るんだけど、サイズ感的にちょっとやりにく過ぎて、一旦テーブルに広げてかき混ぜることにした。


「美憂、この指輪は配っていい?」
「うん、このカードと一緒に配ってもらって良いかな」
「ウチ、赤がいい!」
「じゃあ、俺は紫にしよっかな」
「真ニイは青ね!美憂はオレンジ〜!」


テーブルの各隅を囲むように座っているエマちゃんとワカ、そしてあたしの正面には真。あたしの手元に置いてあった箱の中から、エマはそれぞれの色の作り物の石がついたおもちゃの指輪をジップの袋から取り出して、自分達の色を選びながら配ってくれた。色は正直どれでもいいし、エマに任せよう。


「このカードが、何だっけ」
「このカードは使っても使わなくても良いらしいよ。んで、今美憂が切ってるカードを使って、プロポーズの言葉を作るわけ」
「うん?」
「まあ、やってみたらわかるから」



今から始めるのは自分達が引いたカードで作るプロポーズの言葉を親の人に言って、誰が良かったかを選んでもらうものだ。シンプルだけど、このゲームは実は結構盛り上がる。色のついたカードだけでも言葉は作れるけれど、如何に他の人よりいい言葉を作れるかがキーであるゲームなわけで、そのためにはカードの引きがよくなければいけない。まさに運に委ねられたゲームだ。


「はい、じゃあ親決めよ〜」


切り終えたカードを山にして真ん中に置いた。指輪も色のついた所謂初期カードも各自に配り終えているため、後は親を決めてゲーム開始。ジャンケンで勝った人から時計回りにして、あたしたちは最初はグーの合図でじゃんけんを切り出した。




「あたしが親〜!」


最初に勝ったのはエマ。嬉しそうにするエマ横目に、ついついあたしも釣られて笑ってしまう。ちなみに真は未だに混乱した様子だったりするし、ワカは余裕そうだからやったことあるのかな…って思ったり。このカードゲームを持ってきたのはあたしだ。なので、あたしはもちろんやったことあるので、大丈夫なのだけれど、実際やってみた方が理解できるからなぁ。そう思って、真に合わせてやれば良いかと思って始めてみたけれど、


「え、これ本当に文章できんのか?」


あたしもワカもとっくに言葉はできていた。だけど、真だけは「えっえ?!」「うーん」「ワカァ〜」と最終的には泣きついていて、あぁ、これはダメだ…と全員が心の中で思っただろう。なので、予定変更。親を真に切り替えて、改めてカード引き直し、あたしたちが真にプロポーズの言葉を作り、伝えることにした。



「できた」
「でーきた」
「おっけ」


それぞれ、だいたい同じぐらいのタイミングで完成。お互いどんな言葉を作ったかはわからない。だけど、エマもワカもニヤニヤしているから、それぞれ面白いものができたとみた。



「じゃあ、俺からな」


最初にできたのはワカだった、紫色の指輪をひとつ、手にして真に向かって差し出し真っ直ぐ真を見つめる。真は思わず狼狽えていて、ちょっとそれがおかしかった。


「世界一の君なしでは考えられない 誰も知らない愛しているの呪文をかけてあげるよ」


おぉ、オチがワカっぽい。手持ちに広げられたカードを見て、なるほどね、と思った。エマもうんうんって頷いているし、初手でこれは無難だろう。良い出だしじゃないかなって思ったけれど、真はフリーズしてワカを見ている、心なしか照れてるように見えるのは気のせい…じゃない?


「ワカすごいな…」
「いや、何、真ちゃんにウケてんの、引いたカードで考えただけだから」
「もう!次、美憂!」
「あ、うん」


時計回りなので、次はあたし。ワカみたいに指輪を手にして真に差し出して気づいた。真はまっすぐ私を見つめ返してくれて、それがすごく恥ずかしい。何なら、両端に見えるワカとエマの表情がニヤニヤしているのが気になる。これはゲーム、これはゲームだ。別に今から本気で真にプロポーズするわけではないと何度も言い聞かせて口を開いた。



「ちゃんと今ならはっきり言える 君のことばかり考えてる きっと大丈夫 君を大切にするよ」


もうヤケクソだった、顔が熱い。絶対赤い、わかってるけど逃げられないし作ってしまったカードの言葉以外のことを言うわけにもいかなければ、即興なんて絶対無理。だから、真のことを見つめて伝えれば、両端から「おぉ〜」って声が上がった、本当に勘弁してほしい。


「美憂…マジか」
「っゲーム!!これゲームだからっ!!!次エマ!!!」


真も少しだけ恥ずかしがる動作をつけて乗っからないでほしい。ワカの時もそうだったけど、その真に受けた反応されても流すに流せないというか、流しにくいというか。この場にいることさえ、いた堪れなくなってこの場の空気を変えるためにエマへと発言権を託した。



このターンはエマの勝ち。シンプルに良い文章だった。そしてこの1回で真も流れを理解したらしく、最初のエマちゃんにバトンタッチ。そこからだった、真のプロポーズ節が発揮されたのは。



「僕ははち切れそうさ そう思うだろ?君の愛してる 聴かせてくれ」
「僕は君の顔のことで頭ががいっぱいさ 君のダイナマイトボディが耐えられないんだ 僕を埋めてくれるかい?」


「真ニイ…これはひどい、顔目当て」
「真ちゃんは俺の顔が好きってことか〜」



エマのターンでの言葉もなかなかだったけれど、ワカのターンの言葉はさらに磨きがかかってて笑いを通り越して、逆に感心してしまう。引いたカードでこれが作れる真のセンスが疑わしい。エマはドン引いてるし、ワカくんは楽しそうに笑ってるのを見て、真は必死に弁解をしている。



「カードがこれだったんだから仕方ないだろ…!?」
「はいはい、ある意味引きが強いね、真ニイは」
「実際にこんな言葉言わないからな!?」
「真ちゃんは最弱王だからな〜」



そうだよ、実際にこんなこと言われたら、例え好きな人でも冷静になっちゃうわ。ゲームで何を引くかわからない言葉で作るから面白いし盛り上がる。ついでに言うならば、伝えてくれる人のキャラクター性も上乗せになるから、より面白さは増えるんだろう。


次はあたしが親。ワイワイしながら、使ったカードを片付けて次のカードをみんなが引く。その間あたしは見えないように顔を隠して、みんなができたら顔をあげて、順番にプロポーズをしてもらう。


「君は僕の女神 一生一緒だよ」
「ベイビー君は可愛い宝石箱 君を愛してる」

エマもワカくんもふふっと笑わせられつつ、表現が上手いなと感心させられた。エマの男役意識した喋り方も、多分本人ならこんなふうに言われたいのかなって思っちゃったりもして。ワカは根本的に顔の良さをフル活用して言うから、好きじゃなくてもこれはずるいわ。ベイビーって言葉似合い過ぎでしょ。


「じゃあ、次は俺だな」


青い指輪を手にした真があたしに差し出してきた。さっきとは逆パターンで、あたしが真に言われる番。真は自分で並べたカードを見渡し、真剣な表情でまっすぐあたしを見つめてきた。こんな風に真に見られることがないから、不覚にもドキッとしてしまう。平常心平常心と何度も心の中で呟き、言い聞かせる、あぁ心臓の音がうるさくて真の言葉が聞こえなかったらどうしようか。



「君の好き好きオーラを感じるんだ 僕も一億年経っても愛してる」



毎回真が言うたびに、笑いが起きていたはずなのに今回は静まり返ってしまった。あたし自身、脳がバグったみたい。真の今言った言葉が理解できずに、えっ?ってなる。ワカに関してはヒュゥって吹いて、エマは小さく声を上げた。それでも理解できなかったあたしは真の手元にあるカードを逆さの状態で眺めて、一回、また一回と複読。読み返しながら言葉を噛み砕いて意味合いを咀嚼した頃、あたしは言葉を失った。



「えっ!?俺マズった…!?結構良かったと思うんだけど」


誰一人、笑いも起きず、むしろ黙ってしまったことが真の中で不安を煽ったらしく、おっかしいなと頭を掻く。無自覚でこれ作ったの、タチが悪すぎるでしょ。


「じゃあ、この中で一人!美憂、誰のが良かった!?」


エマ、めちゃくちゃ楽しそう。テーブルに両手をついて身を乗り出して勢いがある。さて、この中から一人のプロポーズを受けなければならない。普通に言葉としては悩むところだけれど、真に言われたってだけで選びたくなる自分も末期だろう。しかも言われた言葉がすき好きオーラってめちゃくちゃダサいのに、あたしが真のことを好きだから図星つかれたようでやだ。



「…エ、マで」



結局、無難にエマを選択。エマも選んでもらえたと言うのに「ぇえー!」って言わないでほしい。真はさっきから玉砕続きだからあからさまに落胆しててちょっと申し訳なくなった。こら、そこ。ワカはニヤニヤしないでほしい。





ゲームは進み、各自三つずつ持っていた指輪は、エマとあたしが残り一つ、ワカが二つ、真が三つ。一週回って再び回ってきた真の番。再びあたしが真に向かってプロポーズをしないといけない。なるべく無難なカードを引きますように、と心の中で切に願ってみたけれど、それは虚しくも玉砕した。



「できた」
「あたしもできたー!」



どうしよう、どうしよう、エマもワカもできたって言ってるし、あたしが気にしすぎなだけ!?さっきと言い、今回といい何でこんなの引くの…これ引いて他の文面浮かぶ人いたら助けてほしい…、そう思いつつヤケの状態で「できた」と小さく呟いた。


エマとワカが読み上げて、とうとうあたしの番。あぁ、やりにくい。というか、言いにくい。ワカの視線もエマの視線もやっぱり堪え難いし、何より新相手にこれを言わなきゃいけないのが、もう羞恥心でいっぱいだ。でも言わなきゃ終わらないから、あたしは唾を飲み込んで腹を括った。


「隣に君 幸せな僕 君の花嫁するくらいしかできないけど愛してる」


表情を表に出さないことを努力して言い切った。エマは両手で口元を隠してまるで叫ぶのを堪えたような動作をしているのが視界の端で見える。


「美憂…」
「何よっ…」


恥ずかしい、恥ずかしい。穴があったら入りたい。これじゃまるでプロポーズじゃなくって逆プロポーズじゃない。しかも相手は真に対してだから思うこと。真と言えばポカンとした表情であたしの名前を呟くから、出た言葉は完全にヤケクソのそれ。あたしばっかりテンパって、私情をめちゃくちゃ入れ込んでゲームひとつに振り回されて馬鹿みたい。


「今回のは美憂にすんわ…」


そんな気持ちを知ってか知らずか、真が再び言った言葉を時差で咀嚼する。あまりにもぽかんとした表情のまま言うもんだから、本気で言ってる?って思ったけど、本気らしい。真があたしの名前を呟いたのは今回のプロポーズを選んでくれたからだった。


「え、真…」


それって、


「あー!美憂が一番だった〜!」


エマの言葉にハッとする。そうだ、今のもゲームだった。真の目が真剣に見えて思わずゲームということを一瞬でも忘れてしまった。手にしていたあたしの残り一個の指輪を真が手にする。あたしの手から取る時に触れたところが熱い。


「結構楽しかったな」
「真ちゃんのセンスが問われるやつだったな」
「それはカードが悪かったから実際はこんなんじゃねぇって!」


ワカに揶揄われて必死に弁解するけれど、じゃあ真が自分の言葉で言うならどう言うのか、なんて聞ける余裕はあたしにはなかった。


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