真一郎と幼馴染 | ナノ

家を飛び出したところを見つけてくれた男


時間はもう21時をとっくに過ぎていた。些細な態度の問題。つい、言い方がキツくなってそれを注意されて。その言葉にたまたまじゃんって思ったことをまた言葉に出してしまって、そこからぶつかって。今のことや前のことまで関係ないのに話に出てきて、それがまた癪に触って気付いたら部屋に引きこもる気にもなれずに深夜の街に飛び出していた。



都内と言っても結局は住宅街。


街灯がポツポツとある程度、夜も更け人なんて基本いない。たまに車が一台通り過ぎるかな。とにかく静かな夜の街。街灯のおかげで暗さは感じなかった。でも、普段の明るさとは違う暗闇に照らされたオレンジがかった光は今の時間をしっかりと主張していて、あたしの心に冷静さを取り戻してくれる。


行く宛なんてない。


飛び出した時、感情的になり過ぎてて後先なんて考えていなかったから、いざ冷静になってきたら、どうしようという感情が沸々と生まれてくる。出てきた矢先、このまま家に戻るのもなんか嫌で、だけど行ける距離なんてたかが知れてる。…どこかの公園に行くか。


歩くだけ歩こう、でもちゃんと自分の足で帰れる距離で…財布も持ってないしと思って、なるべく街灯の多い道を選んで歩く。後ろからエンジン音がして、また一台抜かしていくんだろうなって思ったら、あろうことか、その音の主はあたしの横に止まって心臓がキュッとする。








こんな時間に飛び出しといて、怖いと思った。後悔先に立たず、の言葉の通り、あたしは今何かされてしまうのか、と心の中で身構えて実際には体なんて動かなくて本気でやばいと思った。だけど、気持ちとは裏腹に横に止まった主はあたしを見るなり、少しだけ安堵の表情を浮かべて言葉を漏らす。


「見つけた、」 


あたしの横に止まったのはバイクだった。そのバイクに乗っていたのは真。いろいろびっくりした、まずこの時間に意図せず会うこと。そして真は見つけたと言っていた。まるであたしを探してたみたいじゃないか。家で親と喧嘩して出てきただけなのに、何故真が探す必要があるのだろうか。あたしと真は幼馴染みたいなものでも連絡先を親と交換してるほどでもないし、こんな時間にあたしが男友達の家に行くと思ってはいないはずだから、そう考えた上でわざわざ行くような親でもない。だから余計に驚いた。



「乗れよ」



ヘルメットをあたしにほぼ強制的に押し付けて、言い方も強制的なのに声も表情も優しくて言葉に詰まる。行く宛も元々なかったあたしは、大人しく真の言う通りにメットを被った。



てっきり大人しく家に帰されると思ってた。真の腰に捕まって、密着する体。ずっとそれにドキドキしながらも、こうさせてくれることに少しだけ優越感に浸って、こういう時ばっかり腐れ縁のような幼馴染みたいな関係でよかったと都合よく思ったりもして、長く続いたら良いのにな…って思って浸ってたせいで、バイクが止まった時周りを見渡して驚きしかない。潮風が吹いていて、静かに波打つ、そう、海に来ていた。


バイクを降りて、適当に海が見渡せるコンクリートの段差のところに真が腰掛けるから、あたしもちょこんとそこの横に座り込む。




「一人でこんな時間に外は危ないだろ」
「…ん」
「出るなら俺呼んで」



そういうことをサラリという真が本当にズルい。別に彼氏でも彼女でもない、ただの付き合いが長いだけの関係。それなのに当たり前のように言える彼の優しさが嬉しくてズルくてモヤモヤしてしまう。



「一人になりたかった」



気丈に振る舞った声で呟く。それはあたしの精一杯の強がり。でも一人になりたかったのも本当だ。いつもなら、言い合いになっても夜遅いしって思って部屋にこもって気持ちをなんとか整理させるんだけど、今日は何故か無理だった。上手くコントロールできない感情、無理だったから飛び出してしまった。



「親御さん、心配してたよ」



そんなのわかってる。



「親と喧嘩したから家出た」
「知ってる、聞いた」



うちの親は他と比べれば過保護なぐらい子供を心配してくれる。だから、こんな時間に家を飛び出したら親が探しにくるのもわかってた。そんなことをわかっててしたことを、バカだなぁと何処か他人事のように俯瞰的に見つめて思い直しながら真に言った言葉は予想外の言葉で返されて、あたしの方が面食らってしまった。なんで知ってるの、って思っても口に出せない。何言っても真に言いくるめられそうで、あたしは膝を抱えて疼くまるだけ。目だけは海を見つめて、海の水面をじっと見つめる。



「たまたま俺が外にいたから、美憂の親父さんと会って声かけられてよ」



あぁ、だから真が知ってたのか。真が外にいた理由はあれかな、多分いつもの仲間たちと集まってたってやつだろう。それであたしが出てったのをお父さんが探して、たまたま鉢合わせてって感じかな。

真に見つかってよかったけど、こんな理由で付き合わせて申し訳なくもなってきた。あぁ、本当に何やってるんだろう。こんなんだから、眼中にないんだろうな。




「喧嘩したり、言い合ったりさ、めんどくさいよな」



漣の音に乗って聞こえてくる真の声は何処か切なく聞こえた。




「だけど、いいじゃん。生きてるからできることだろ」



あたしの胸の中がキュッとした。




「親御さんとのきっかけはわかんないけど、心配だから口うるさくなるし、もしものことも考えるだろうし」



そんなこと、言われたら何も言えなくなる。



「…ごめん、真」



自然と出た言葉だった。真の家のことは重々知ってる、だからこそあたしの身勝手な今回の行動も親とのやりとりってことも真からすれば面白くないはず。真の顔が見れないあたしは下を向いたままだから、ちゃんと真に聞こえただろうか。真はどんな表情をしてるんだろうか。




「わかればいいんだよ。親御さんも俺も美憂が大切だからな」
「…真」



言ってもらえた言葉によって気持ちが少しだけ軽くなった。自然と顔を上げることができて、怖くて見れなかった真の方を向けば、真は優しくふんわりと笑っている。胸の中がドキッとした。



「俺でよければいつだって付き合うからよ、大事な幼馴染だもんな」




大好きな真の笑った表情。だけど、その口から出た言葉はあたしの中の何かがズキズキとさせるには十分の言葉だった。


×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -