真一郎と幼馴染 | ナノ

269話√※死ネタ

万次郎を救うために何度リープを繰り返しただろうか。
幾度となく見てきた現実はやり直しを例えしたとしても脳に焼き付いているし、そのときどきで感じた苦しみも悔しさもやるせなさも全部が忘れられずにずっと胸の中の奥底に溜まっている。全ては夢ではなく、一度は現実に起きたこと。誰が嬉しくてこんな現実を何度も見る?悔しくて辛くて吐きそうで、受け入れ難い現実を変えたくて何度自分を振るい立たせてきたかわからない。
親を早くに亡くした責任感からなのか、長男だからなのか、人は抱え込みすぎだと言うだろうけど、俺にとってかわいい弟である万次郎だからこそ、そうしたいと思うのが、思ってしまうのが俺の気持ちなのだから仕方ないだろう。

そう思うしかなかった。

幾度となくやり直した世界で、変わらない仲間に出会い、支えられてきた。こいつらが、そばにいるからこそ、乗り切れたことだってたくさんある。その中で、必ず支えになったのがもう一人、


「真」
「おう、美憂」


店でCB250Tの最終メンテをしていた俺のところにやってきたのは、幼馴染の美憂だ。袋をぶら下げてやってきた美憂は、店のカウンターにそれを置いて、困ったように笑みを浮かべている。


「万次郎のプレゼント、できそう?」
「あぁ、さっき呼んだからこれから来るってよ」
「そっか。じゃあ、その前に軽食あるから食べてよね」
「おっ、サンキューな」


美憂には言っていた。万次郎の誕生日にCB250Tをあげること。最初こそ驚かれたが、昔の俺も知っている美憂はすぐに折れて俺の考えたサプライズを共有者となる。美憂は幼馴染だからこそ、小さい頃から万次郎をよく知っていた。まぁ、同性のエマの方が距離は近いんだけど、美憂のおかげで助かったことはたくさんある。美憂のその優しさもただ単に幼馴染だからってだけじゃないのも知ってる俺は、その優しさを中途半端に受け取って都合の良いように利用してきた。本来ならばキレられても仕方のないことだけれど、俺には美憂以上に家族を優先する強い意志を胸に秘めていたから、絶対それには応える訳にはいかなかった。


はずなのに、


俺が今いるこの場所は何なんだろうか。と問いたい。

黒い服を纏い、俺の目の前で眠る姿は何て安らかなのだろうか。

ずっと近くで過ごしてきたのに、こんな風に眠る姿を俺は見たことがあっただろうか?





今でも鮮明に思い出せるあの日のこと。鈍い音と共に振り向き様、視界に入るのはスローモーションで倒れていく美憂の体。

部屋が薄暗くて見えない。わかるのは、圭介ともう一人、誰かが俺の前後にいると言うこと。

ドサリと大きな音でハッと我に返り、慌てて近づいて抱き起こした手に感じたのは、生暖か水っぽい何か。ぬちゃっとしたそれは薄暗い部屋でも血だと理解したのは、美憂の額から流れているのが見えたからだろう。


「美憂っ!おい、しっかりしろ、っ、救急車っ…!」
「し、ん」


弱々しく声を発する美憂。よかった、意識はある。じゃあ、救急車を呼べば、早く、呼ぶには、そう思って経ち上ろうとした俺の手をそっと美憂が掴んだ。今思えばこの瞬間も止まらずに連絡していれば変わったのかと思ってしまうが、全ては後の祭りだ。美憂に名前を呼ばれ、手を掴んだこの行動が慌てた俺の動作を全て無効にするかのように動きをぴたりと静止させる。


「ぶ、じで、よかった」
「何言ってんだよ、美憂も早く病院に行かねぇとッ」
「ゆめ、みたの…し、んがいな、くなるの…、」
「ッ何言ってんだよっ」
「し…ん、まで、いな、くな、ちゃ、みんな…、な、いちゃうから、」


なぁ、何で美憂は笑ってるんだ…?呼吸が浅いだろ、そんな無理に作ったような笑顔貼り付けて、何でそんなに無理に笑ってるんだよ。


「だ、めだよ、し、ん…、わら、って、ね」
「美憂…」


最後に見た美憂の笑顔と笑ってと呟いた言葉。それが最後に俺が見て聞いた美憂の姿だった。


俺の店に圭介たちが忍び込み、あろうことかCB250Tを万次郎のために盗もうとした。それが互いに運悪く、鉢合わせとなり美憂は頭を強打。店に警察と救急車を呼び、病院に一緒に行ったものの美憂の死亡がすぐに確認される結果となる。


美憂にはタイムリープについて言ったことがなかった。知っているワカにだって口止めをしていたし、アイツがそんな軽々しく言うはずもない。となれば、なぜこんなことが起きたのか。あの時、物音がした俺は店の中に確認に行って、目の前に圭介がいて後ろから殴られかけた。だけど、それを庇ったのは美憂だ。だからぶん殴られて死んだ。おかしいだろう?美憂だって奥の部屋にいたはずなのに。あいつは、あいつは何で。
夢を見たと言っていた、俺がいなくなる夢。俺がいなくなったら、みんないなくなる、と。



「真一郎くん、これあなたに」



美憂の葬儀が行われて数日が経った。悲しみと苦しみと寂しさから解放されてないはずなのに、俺の元にやってきたのは美憂の母親だった。普段は人当たりのいいおばさんも、今ではすごく酷くやつれた顔をしている。そんなおばさんが俺に手渡してくれたのは一通の手紙だった。手紙には真へ。裏を見れば美憂の名前が書かれており、おばさんは「部屋を片付けてたらあなた宛に出てきたから…是非受け取って欲しいの」と言った。





真へ

この手紙を読んでいると言うことは、あたしのやりたかったことはきっと無事に行われたのでしょう。
つまり、この世にはあたしはもういないと言うことになるので、この手紙を書きます。
真には言ってなかった秘密があります。あたしね、未来が見えるの。近いものがほとんどなんだけど、パッと一瞬だけね。何でこんな力があるか結局わかんないんだけど、夢を見ました。真が誰かに襲われて殴られて死んじゃう夢。場所は真のお店だった。すっごくリアルで怖い夢。本当なら夢で止まってほしいと思ったけれど、念には念をのことであたしはきっと真に会いに行ってると思う。
真の家はさ、お父さんもお母さんもいなくて、おじいさんと真と万次郎、エマで生活しているでしょ。それなのに、真までいなくなったら、誰が万次郎とエマを支えてあげるの?お兄ちゃんでありお父さんであるんでしょ。これ以上、辛い思いをさせたらダメだよ。
あたしは佐野家のみんなが大好き。いつも仲良くニコニコ過ごすみんなが羨ましいぐらい大好き。
だから、真はこれからも二人のために頑張って生きてもらわなきゃ困るんだから。いっぱい辛いこと悲しいこと抱えている真に言うのは重いってのわかるけど、今日ぐらいはそうだなって受け止めてほしいな。
本当なら、ずっと真のそばで支えていてあげたかった。二人が大きくなるところも一緒に見守りたかった。
真には万次郎もエマもいるし、明司、ワカ、ベンケイもいるから大丈夫だよね。
真が本当に自分のやりたいことができるようになった時、絶対それを叶えてね。
それまでみんなで笑っていろんなことに乗り越えていってください。
それがあたしの願いです。いっぱいの思い出をありがとう。


美憂より



手紙を受け取り、自室に戻った俺はおばさんから受け取った手紙を読んだ。視界がボヤける、ポタポタと溢れるのは涙。思わずぐしゃりと握ったせいで手紙の端がぐしゃっとしてしまう。心臓が痛い、喉がカラカラに枯れて苦しい。何だよこれ、なあ。
手紙の最後に書かれたありがとう。その後には何も書かれていないけれど、実際には修正テープで消された後があった。


「大好きだよ」


その一言が消されていた。

美憂はもっと幸せな未来を掴めたはずなのに。何で俺のために、そう思ったけれど、万次郎を失いたくなくてタイムリープを繰り返しても、一緒になれないと分かっていても美憂の優しさにつけ込んで離そうとしなかったのは俺の方だ。俺のせいだ、ごめん、ごめん、本当にごめん、ごめんな。謝っても謝っても謝りきれないぐちゃぐちゃの感情がずっと渦を巻いている。止まることなく涙は溢れるのに喉はカラカラに枯れて痛くて身体中で矛盾が起きているかのようでどうにかなりそうだった。

俺ならやり直せる、そう思ったけど手紙に書かれた二人のためにと言われた文が、まるで自分のためにタイムリープをするなと言われているよう。確かに戻ってやり直した未来に、次で万次郎が無事だと言う確証もない。

美憂を助けられなくてごめん、こんな終わりにしてごめん。

ごめんな、美憂。



ドクンと心臓が鼓動を打ち、脳内に「しんいちろう…」って万次郎が入ってくる光景が流れた。かと思った矢先、自室の扉を軽くノックする音がして、返事をする余裕もない俺がジッと扉を見つめていれば、今脳内に流れた光景と同じように万次郎が「しんいちろう…」って控えめな表情で入ってきたではないか。



「…あ、エマがめしって…」
「あぁ。今行くわ」


ボロボロに泣いた俺を深く追求するでもなく万次郎は一言だけ述べて出ていった。こんなボロ泣きの兄貴見たらそりゃ言葉も出ないよな。笑って、か…。

なぁ、美憂。

もし、この先やっぱりタイムリープをまたしなければならないことがあったとして、その次の未来で美憂もいて万次郎も無事に大きくなって、エマも自立できたなら、その時は次こそは美憂との未来を掴ませてほしい。
たくさん迷惑かけて、答えられずにいた俺の気持ちを全部受け止めてくれよな。


これ以上、万次郎が平和ではない未来が起きてほしくないと願いながら、俺は矛盾だとわかっていながらも、美憂を思ってあり得ない未来を乞う。都合のいい男だと思いながら。








あとがき的なもの。
(Twitterにあげた内容です)

このお話を読んでくださりありがとうございます。
普段は付かず離れずいる真一郎と幼馴染のシリーズを書いておりますが、同設定でのお話となってたりします。
(気になる方はモーメントよりどうぞ)

現在、真一郎くんがタイムリーパーという情報までの捏造含むお話でした。
武道が未来視できるように真一郎くんができたのかわかりません。できていたなら、死んでないよな、と思いつつ、自分が死んでマイキーが生きる未来があるなら、という考え方もあるのかなと。それだけタイムリープを繰り返した真一郎くんのメンタルはズタボロだったのかなとも思います。さて、原作がどう進むかわからないなかで、1回目の世界線までしか知り得ない情報で書きました。
真一郎のそばにずっといる付かず離れずの幼馴染。
付き合うわけでもなく、でも友達でもないそんな関係をズルズルと自分の気持ちを押し殺して過ごしてきたという仲なのですが。そんな幼馴染の方が未来視できる能力ありきのお話です。最初に浮かんだのは庇って死ぬこと。相手のために身を投げる幼馴染とそれを守ってあげられなかった真一郎なのですが。



幼馴染は手紙と未来視の能力をこれからのマイキーを守るためにと託しました。全ては大切な真一郎のために。でもそれはそれで一つの呪いのようにも思えるかも知れません。死んだ救えなかった愛も伝えられずに失った人の能力を自分が持って過ごすなんて、いやでも忘れられないですもんね。
永遠に悔いて生きていくだろうし、その能力を使って自ら死ぬこともできないんだろうなと。
だけど、救えなかった真一郎はそれを胸に秘めて生きていきそうだなと思いました。自分で枷を背負って、幼馴染に言われた笑うことを忘れずに、過ごしていくんだろうなと思います。
これは愛故の呪い。純愛ほど重いものはないと思うし、でもこれが二人なりとお互いを思う愛の形なのかな。と思ってプラスタグをつけました。

請うとは自分がすることを許してほしい。

呪いに願いを請うて前を見る、お話でした。
勢い任せに次の本誌情報を得る前にババっと書いた内容ですので、矛盾などありましたら目を瞑って頂けたら幸いです。
お付き合い、ありがとうございました。  緋瀬。


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