真一郎と幼馴染 | ナノ

キーリングホルダーに込めた本音

天気は晴れ。暑い日差しにヘルメットをするのも酷だけど、これは必須なので仕方ない。バイクの利点といえば、風を切って走るからまだ体感は良いとも言える。

今日もまた、あたしは真一郎に誘われて真一郎の運転するバイクに一緒に乗っていた。コンクリートと太陽から降り注ぐ日差し、反射されてジリジリと浴びる紫外線予防として羽織りを着てみたけれど、やっぱり暑いものは暑い。やっと着いた場所は、周りに車や二輪がたくさん並んでいる大きな駐車場。


「真、ありがとう」
「良いって。暑いし、早速行くか」
「うん」


そう言ってあたしたちは駐車場を後にした。

やってきたのは、神奈川にあるアウトレットモール。横は海が広がっていて、暑い日に水辺が見えるとそれだけでも気持ち的に楽になる。辺りは人も多く、外装は白地やピンク、黄色い壁と色鮮やかでポップな感じ。大きな風車みたいなものもあって見た目からして涼やかだ。横須賀に一緒に行った時も、江ノ島の方に行った時もそうだったけど真は長時間の運転をあまり感じさせずに、楽しそうに笑って隣を歩く真。こんな風に楽しそうな表情が見れるなら一緒に来られてよかったと、ひっそりと噛み締める。適当に見て回って、まず見つけたカフェでドリンクのテイクアウト。

期間限定のフラッペが美味しそうで、それを頼んで飲んでみたら正解だった。ひんやりと冷たさとフラッペの味が体に染み渡って、少しだけバテ気味だった体が潤っていくのがわかる。


「美味い?」
「うん、一口飲んでみる?」
「飲む」



真も自分用にコーヒーを買っていた。けれど、あたしの飲み物に興味津々って感じで見てくるから、飲んでみる?って聞いたら、飲むというからそのままカップを手渡した。言っておいてなんだが、飲むんだ…って思ったけれど、自分で言ったことだから何も言わない、言わないけれど。


「うまっ!これ、結構美味いわ」


真はオーバーなぐらい、フラッペを飲んで驚きを示してくれた。「さんきゅーな」って言いながら戻ってくるフラッペ。こんなんで動揺するのもバカバカしい、と言い聞かせてあたしは何も言わずに口付けた。



◆◆◆



「なぁ、美憂どう?」
「良いんじゃないかな」


やってきたのはとある有名メーカーのお店。真は靴が欲しかったみたいで、数多く並ぶスニーカーの中から、良いなって思った靴を何足か手に取って試し履きを始める。アウトレットの良さと言えば、定価よりも安く手に入るというところ。逆を返せば、良いなと思った物が例えあっても自分のサイズがあるとは限らないということだ。正直言って、メンズのスニーカーの良し悪しはわからない。だけど、真が手に取ったってことは真にとって良いと思ったものだ。特段、変な感じではないと思うし、素直に肯定の意を示せば嬉しそうに靴を見ながらその場で足踏みをする。


「あーでもなぁ…」
「買わないの?」


ちょっとだけ残念そうに笑う真。結構気に入ってそうなのに、ここまで来て買わないのも何故と思っていれば、真は棚に戻しながら、ぼんやりと呟く。



「かっこいいけど、安いスニーカーでも履ければ良いかって思えてさ」



真はこういうところがある。自分のことに関しては我慢するところ。弟のことも妹のことも気になるのはわかる。自分でお店をやってるから大変なこともわかってる。だけど、だけど、



「じゃあ、あたしが真にその靴買う」
「は、?」



アウトレットとは言え、すごい安いわけではない。無名のスニーカーの方が断然安いのは一目瞭然。だけど、真が欲しいって思ったなら、こういう消耗品は別に買っても良いと思うのに。


「だって、安い靴買ってもダメになるの早いし、そう考えたら絶対こういうメーカーの方が長持ちするって。欲しいなら、真にあちこち連れてもらってたし、お礼に買わせて」


それっぽい理由は自然と出てきた。思い返せば、いろいろと真にしてもらっていたし、だからと言っても金額的に安い物ではないけれど、普段から頑張っている真にたまにはこういうことをしたってい良いだろう。毎日使える物だし、真ならきっと大事に使ってくれるから。真だから、してあげたいって気持ちを込めて伝えたら、真は困ったように笑って棚に戻したはずの靴を再び手にする。


「いや、そこまでしなくて良いって。美憂の言った通り、確かに靴とかこういうやつの方が保つもんな。やっぱ買うわ」



◆◆◆



真が欲しいものを手に入れられたのは良かったけど、ちょっとだけ残念。あたしにも何かできればいいのにと思いつつ、ブラブラとアウトレットの中を練り歩く。ふと視線はガラスに反射したあたしたち、距離も近くて一緒に並んで歩いているけれど、他の人たちからはどう見えているんだろうか。

「水着とか浴衣見ると夏って感じするよな」
「え、あ、うん」


完全にボーッとしていた、真の言葉でハッとする。あたしは慌てて肯定したけれど、何事かと思ったらあたしが見つめていたガラスの中に飾られていたのが夏らしく水着の展示で、ふと先を見れば浴衣もあって完全に今の時期にちなんだものばかり。セール中の張り紙までされていて、確かに今のタイミングで売らなければ着るタイミングは来年まで持ち越しになるもんなぁ、と思ったりもして。


「エマの奴も、浴衣欲しいつって買ってたわ」
「そうなの?きっと可愛いの選んでるんだろうな」


真の言葉に視線は浴衣へと移動。白地やピンク、黄色、青地に水色、赤といろんな種類が並んでいて、浴衣ってこんなにもバリエーションがあったのかと感心してしまう。もう何年も着ていなかったし、着る機会もなかったこともあって意識してみてなかったから、全然ダメだなぁ…。まあ、今年も着ないで終わるだろうし、こんなんで良いのかな、と思いつつも仕方ないと理由をつけて勝手に納得させる。


「そういえば、誕生日近くなかったっけ」
「おう、よく覚えてるな」


浴衣はこれ以上見ていても買う予定もないし、次のお店に移動しながら、尋ねたのは真の弟の万次郎のこと。確か、真と誕生日が近かったはず。もう過ぎたかもしれないし、まだかもしれないけど、ただの興味本位で振った話題だったのに、真が笑顔で返す言葉にあたしが驚かされる。


「万次郎もイザナも誕生日、八月だからな」
「え、イザナも八月なの?」
「おう、八月三十日な」


ちょっとそれは予想外。佐野家の男性陣みんな八月生まれって、そんなことあるんだ…。そっか、イザナにはこの前お世話になったし、何か買ってあげようかな、でも突然一回しか会ったことない人からもらっても困るか、と考えたりしつつ、あたしは再び通り過ぎていくお店に視線を移した。


「ねえ、ちょっと適当にお店入ってみてもいい?」


それから真には二人に何かあげるのか、とかを聞きながらお店の中を本当に適当にブラブラして過ごした。なにをあげたら喜ぶかとか、考えても悩むっていう真に、あたしたちも真にあげるものを考えたとき悩んだなぁって思い出す。あたしは異性へのプレゼントだから尚更だけど、やっぱり同性同士でも悩むときは悩むものか。


「特にイザナは何で喜ぶか難しいんだよな」
「あ、ちょっとわかるかもしれない」
「もっと、甘えて欲しいんだけどな」
「まぁ、急には無理なんじゃないかな、色々本人にも気持ちの整理とかあるだろうし」


そんなこと言ったら、真だって一緒だよ。あたしはいつだって真に頼られたいし、甘えて欲しいのに真はやっぱり何処か遠慮して頑張っちゃうんだから。だから、あたしはこんなにも悩まされてるんだから。そう考えたらイザナのおかげで真も少しはわかってくれるかも、って思えるから気持ち的に少しだけ余裕が生まれるのだ。



◆◆◆



「今日もありがとう」
「いや、こっちこそありがとな」


アウトレットでの買い物を終えて、再び真にバイクで送ってもらい帰ってきたあたしたち。家の前で、降ろしてもらいあたしは真にお礼を述べれば、ふんわりと笑ってくれてその笑顔を見るだけでホッとする。


「んじゃ、また呑み行く時、声かけるわ」
「あ、真!」
「どうした?」


いつだって別れる時はあっさりとしていて、だから突然あたしが呼び止めるのは珍しい。真はハンドルを回して一度ふかした瞬間だったから、本当ギリギリでちょっとだけ申し訳ないけど許してほしい。


「これ、真にお礼」


片手を離してあたしが差し出したものを受け取る真はまじまじとそれを見つめる。ラッピングの袋に包まれたそれをぐるりと眺めて、「開けてい?」と聞かれたからあたしは素直に頷く。真はリボンを解いてそっと出てきたのは黒いレザーに金の金属があしらわれた4連のキーリングホルダー。


「真、仕事でも普段からもバイク乗るし、いろいろ鍵もあるでしょ。それ、レザーのところがベルト差し込めば腰からもぶら下げられるから使いやすいかなって思って」


色は黒龍にちなんで。最初はキーケースがいいなって思ったけど、真は仕事柄いろいろといっぱい持ってそうだから、ケースだと収まりが悪いかなと思って却下。そしたら、たまたま入ったアウトレットで見つけたキーリングホルダーがピッタリだと思って、真の目を盗んでこっそり買っておいたのだ。


「めちゃくちゃ嬉しいわ、大切にする」
「良かった、ありがとう」
「おう」
「気をつけてね」


真は知らないだろう。キーケースを男の人に送る意味。いつも持ち歩くものにちなんで、いつも一緒にいたいという意味が込められてるんだよ。って帰っていく真の背中を見ながら呟いた。


何も変わらないあたしたちの関係の中で、あたしができる精一杯の表現。今はこれでいいと思いながら、真にもらったブレスレットをそっと撫でた。


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