真一郎と幼馴染 | ナノ

いつも通りの平和ボケ的日常

※若狭視点

真ちゃんと美憂の拗れた関係はオレが知り合った時には既に当たり前。もう何年目?って思って考えることをやめた。真ちゃんは当たり前のように美憂のことを手放さないし、なのに確信的な言葉も言わず付かず離れずの距離感で、真ちゃんの妹がよくヤキモキしてるの見かけるけど、その気持ちわかるワ〜って思ったけどね。だけど、そんなのよく見かけてたら、もうどうでも良くなるんだよネ。別に興味がないわけではなく、結局は二人が決めること。オレらが口出して良いワケじゃない。だからオレは傍観者を決め込んでいたんだけど。

みんなで呑み行った日はドタバタだった。

まず美憂が他の奴らと飯食いに行ってるのを見かけた後で、正直言ってあの時見かけた野郎が胡散臭いなって思ってはいた。だけど、美憂も一対一でいたワケじゃないみたいだし、まあそれでも一応って思って真ちゃんに話したら、真ちゃん段々表情が固くなってたし、どう解釈したんだろうネってカンジ。一時期、真ちゃんの様子があからさまにおかしくなって、かと思えば、まーたいつも通りに戻ったし。ホント、あの二人は忙しいしな。と思って、ちょっと茶化すために呑みの時、ちょーっとイジってやったけどさ。本当になんかあったんだろうな。美憂も動じないし、大丈夫そうだなって思ってた。だから普通に酒呑んで話して、いつも通り時間が過ぎて行った頃だった。美憂がトイレに行ったら、なかなか戻って来なくて、それを真ちゃんが見に行ったと思ったら、戻って来た真ちゃんは血相変えて戻ってくるし、珍しく舌打ちしていなくなるし。またトイレで二人が拗れたのかと思って、とりあえず呑んでたけど、結局事情を知ったのは俺らもお開きにした頃だった。真ちゃんから事情を聞いた時、あの野郎…やっぱりかって思った。真ちゃんからかかってきた電話で知らされたワケだけど、真ちゃんのあの時の声…結構ブチギレてたのが電話越しでも伝わってきたナ。


だから俺らの中で、とりあえずこの話題は二人から言われるまで触れないでおこうって決めたワケ。


「じゃあ、みんなに頼みたいのはこの塗装と」
「あれ、美憂この資料は」
「それはこっち、はい」


そしたら、また気付いたら普通に戻ってたんだワ。真ちゃんから集合をかけられたグループメッセージ。美憂のいる方で言われて、良いのか?って思ってたけど、美憂も普通に入ってきたし、現に今日ここへ来てみたら、真ちゃんと美憂はすでに二人で一緒にいて、普通に話をして打ち合わせしたりしてて。オレらも全員驚いたけど、二人がそんな感じならと暗黙の了解で納得しておいた。この流れもオレらの中では暗黙のお決まりルール。考えるより感じろだ。


美憂に渡されたのは作業着と称されたツナギで、言われた内容も本当に力仕事じゃん。やってきたのは真ちゃんの店がある町内会の割と公園。遊具もあれば広場もあって、今度行う催しの準備のために使うもののメンテを兼ねての下準備らしい。とまあ、それまでは良いとして。



「美憂は何すんの?」
「あたしは、あっちでおばさんたちの手伝い」
「なんだよ、俺らと一緒じゃねぇのか」
「そっちは男手の仕事だから、あたしには無理です」
「ん〜一緒の方がやる気出るんだけどなぁ」
「はいはい、頑張ってね」


オレが気になるのは二人の距離感なんだよネ。真ちゃんが美憂のことを好きなくせに全然前に進む気がないのはいつものこと。それなのに、真ちゃんの性格上、ストレートに言っちゃうところあるから隠すことしないっていうか、隠せない本音をダダ漏れにして美憂にふっかけるから、美憂がいつも一喜一憂、翻弄されてるのを見てきたワケだけど、今の美憂は以前と違う。真ちゃんとの関係に何かあったのは言わずもわかっていることだけど、これがどうしてこうなった?真ちゃんのドストレートな言葉を聞き流してるじゃん。だからと言って、付き合ってるわけでもないのはわかる。第一、付き合い始めたら真ちゃんが黙ってるワケがない。オレたち呼び出されて報告させられるだろうし。美憂の方が真ちゃんへの思いを吹っ切ったのかと思ったけれど、見てる感じそうじゃないっぽい。なんだろう、この違和感。

ペンキ缶を持ち刷毛を手にして催しで使う資材の剥げた部分をまず塗っていく。その後は乾いたら組み立てだっけ。だから汚れても良い服装ってことでツナギか。こんな風にみんなでお揃いで着るなんて、特服以降ないと思ってたワ。だからちょっとだけ懐かしくもあり、これはこれで良いかと思ってしまう。ベンケイたちは初っ端から力仕事任されてパイプやらなんやらを移動したり、武臣もそばにいねェ。だけど真ちゃんはいる。オレは少し悩んだ末、傍観者として決めていたはずなのに、たまには良いよなと思って切り出した。


「真ちゃん」
「どうした?」


真ちゃんは作業したまま、目の前のことをやりつつオレの言葉に耳を傾けてくれる。


「美憂と何かあったの?」


まどろっこしい聞き方はしない。もう単刀直入に聞くしかないでしょ。真ちゃんは多少でも動揺を見せるかと思ったけどそんなことなかった。作業を進めながら、「んー?」なんて声漏らして。まるで仕事中に昔の奴らと集まった時に、チームの話をしてはぐらかす時と同じ反応だ。あったことを誤魔化す言い方。


「まぁ、ワカにはバレるよな」
「アイツらも聞かないだけで思うことはあるでしょ」
「だよなぁ…」


何年一緒にいると思ってんの。何年真ちゃんたちの拗れた関係見てきたと思ってんの、オレらが気づかないわけないじゃん。ってことはあえて口にしないけどさ。


「俺さぁ…イザナのこと言ってなかったんだわ」
「は?まじ」
「おう、まじ」



イザナって真ちゃんの弟のことは俺らでも知っていることを美憂が知らないことに驚いた。最近じゃ、真ちゃんの手伝いもし始めたって聞いてたけど、逆によく美憂知らないまま真ちゃんの店行ってたの?って思ったけど、美憂の方が真ちゃんのお店に行くことの方が少ないかと考える。オレらはみんなで入り浸りもするからアレだけどさ。美憂はどっちかっていうと妹とも会える家に行くか、オレらと呑んでるかの方が多いのかもしれない。


「…真ちゃん一個確認なんだけど、言ってないって働かしてること?」
「…イザナの存在自体」
「っ〜〜〜はぁ…」


一瞬スルーしかけた。本気でナチュラルにイザナのこと言ってないってことだけ聞いて、まじかァ…って思ってたけど、その意味についてオレの中で二つの候補が突然浮上してきたから、念のためって思って確認してみたら、言葉にもならなかったワ…。


「真ちゃん、バカなの?」
「いや…だって…なぁ?」
「美憂がそれで真ちゃんと距離置くと思ってたワケ?」
「…ちょっと」
「バカだったワ」
「ひでぇな!」


真ちゃんは刷毛を片手にこっち向いてめっちゃガチ凹みした顔してるけど、それは真ちゃんがバカだって。美憂がどんだけ真ちゃん好きだと思ってんの?どんだけ、真ちゃんのこと待ってると思ってんの。まぁ、わからないでもないけどさ。真ちゃんの家も結構ごたついてるし、そこに弟がもう一人いてってなったら、家庭的な意味で思う人は人それぞれ。でもそれって真ちゃんのせいじゃないし、真ちゃんがそんなに何でもかんでも背負って気にするのもおかしな話。むしろ美憂は…そんな真ちゃんの事知って泣くんじゃねぇかな。



「そんで、美憂にとうとう飽きられた?」
「飽きられてねぇから…っ!」



まあ、そんな風に聞くワケにもいかないから、あえてこの言い回しにしてみたけれど。真ちゃんの真っ向からの否定も凄いワ。めちゃくちゃ自信満々じゃん。なら、大丈夫か。真ちゃんに深く追求しても二人のことだし。心配して損した、なんて思ってたら真ちゃんいきなり黙るし、深刻な表情なんだけど、何。

「…ワカどう思う」
「知らない」
「ワカ〜〜〜!!」


うん、ホント知らん。






だいぶ時間も進んで、いろんな機材の組み立て作業とかも取り掛かってた頃。作業も多分終盤、だいぶ周りの光景が最初と変わってきた。人の位置も物の配置も全部が変わっていて、誰がどこにいるかパッと見ても見晴らしが良いワケではないから難しい。と、言ってもオレらぐらいならすぐ見つけられるんだけど。

たまたまだった。他で作業していたはずの美憂がポツンと中途半端なところでしゃがんでる。ただしゃがんでるワケじゃなくて、美憂は誰か小さな子供の目線に合わせてしゃがんでいた。すぐ見て理解する、美憂が声をかけているのは迷子だということに。何度も目元を擦ってるから、涙を拭っているようだし、美憂も宥めるような感じっぽいし。そういうの気付いたらオレもほっとくワケにも行かず、美憂のそばに歩み寄る。


「何、迷子?」
「うん、作業してる人の中にお母さんいるらしいんだけど、見つからなくて泣いちゃってて」


なるほどネ。確かにこんなふうにごちゃごちゃしてたら、大人のオレらが見ても見晴らし悪いのに子供からしたら余計だよな。周り見ても親っぽい世代の人いねぇしな。親じゃなくて釣れたの真ちゃんだったし。目があって、真ちゃんも気付いたらしく、オレらの方に駆けてくる。


「何その子」
「お母さん探してるから、ちょっと連れて行こうかな。町内会館の方」


美憂はちびっ子においでって両手広げてやれば、素直に近付くから美憂がよいしょっと言いながら抱き抱えて立ち上がる。それを見た真ちゃんがこの場に似つかずちょっとニヤニヤしてるんだけど。


「美憂、名前何にする?」
「真たちは作業戻ってね」
「美憂との子供かぁ…」


ホント真ちゃんてたまによくわかんなくなるんだけど。自分で寄らないくせにこういう時冗談っぽく言っちゃうから、やっぱりバカ。美憂も美憂でそれどころじゃないから、完全に塩対応してるしさ。最終的にはオレの存在もガン無視で行ってしまった。


「真ちゃんバカなの」
「ワカは今日そればっかだな!?」


言うだけタダだろ〜って呑気なこと言ってるけどさ。やっぱり真ちゃんはバカだ。美憂はそれどころじゃないから、ガン無視して行ったけど、絶対気づいてねぇし。美憂の耳が真っ赤になってたこと。なんだ、結局いつも通りじゃん。真ちゃんに翻弄されて美憂が一喜一憂するし、真ちゃんはずるいこと言うくせに確信につかないところ。どっちもホントバカだよな。そんな二人が好きだけどさ。



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