真一郎と幼馴染 | ナノ

人間は誰もが下心を持っている(真一郎視点)

ワカから、美憂が他の男といたって聞いた時は、とうとう潮時かぁと思った。
美憂に待っててほしいと思っても、結局はそんなの俺の我儘。押し付けられるものでもないし、と思っていたら、それは結局俺の早とちりだったらしい。美憂が泣き出した時はマジで驚いた。コイツ、めちゃくちゃ俺のこと大好きじゃんって何故か冷静になっちまったし、それを改めて理解しても何もしない俺は性格が歪んでんなって思う。ちなみにワカには「俺、美憂がいたってことしか言ってないでしょ」「真ちゃんも大概だよね」って呆れながら言われた。結構冷ややかな目をしてた気もする、ひどくね?





そんな出来事から数日後の飲み会で、美憂はいつものように俺の横に座ってくれてホッとする。良かったいつも通りだ。飲むペースも美憂が聞き手に回るのも、全部いつも通り。だから、ふと離席した時だって何も変わらない。それなのにトイレに行った美憂が戻って来ないと気づいた時、どうしたんだろうぐらいの感覚。さすがに長いよな、って思ってトイレに様子を見に行ったら、他の人がずっと開かない個室の話をしているのが聞こえた。個室は二つ。一つは空いていて、もう一つは鍵がかかってる状態。と、なればこっちに美憂がいるはず。とりあえずノックをしてみたけれど、反応はない。え、これやばくね?アイツそんなに呑んでたっけと思うけど、見ていた感じ無茶はしていなかったはず。じゃあ、なんで、そう思って店の人に無理でも開けてもらうかと思っていた矢先、中から施錠を解除する音がした。なんだ、大丈夫だったのか、と一安心したのも束の間。扉を開けて俺の視界に入ってきたのは、顔面蒼白。何かに怯える美憂だった。訳がわからず、何で、って思ったけどよくよく見れば服は若干乱れていて、美憂ともう一人見知らぬ男がいるんだけど。は、なんで。


脳内が現状を理解できず、中の光景をぐるりと見渡してしまった。その間に、美憂が飛び出すから、俺は遅れて後を追っかけた。今思えば男の方をとっ捕まえて、何しでかしたのか吐かせればよかったかもしれない。一旦は席に戻ったかもと思ったけど、読みは外れ。慌てて戻ってきた俺ををワカたちが不思議そうな表情で見てくるから、思わずチッて舌打ちしちまった。だって、座席には美憂の鞄が置かれたまま。アイツが全部放ってこの店から出て行った事を悟る。
そっから、俺も店を飛び出して美憂の後を探し回った。宛なんてない、けど美憂を絶対に見つけなきゃいけなくて、ひたすら探し回った。美憂のことだから、そんなに遠くには行ってないはず。その読みは当たり、俺が見つけた時、美憂は公園にいて勢いよく出した水道の蛇口から出る水で必死に腕や自分の唇を擦っていた。足元も服も濡れる事を気にせず、ただひたすら、乱暴に狂ったように痛めつけるように擦るその動きを見て、イヤでもわかる。まさか、と思っていた予想は多分当たってるんだろう。名前を何度か呼んだけど気付いてもらえず、名前を呼びながら水道から引き離そうと触れれば美憂の体が大きく震えたのがわかる。振り向き側に目があった瞬間の美憂の目の色は完全に怯えていて正直俺を認識してくれてるのかも不安になったぐらいだ。なりふり構わず抵抗するもんだから、何とか落ち着かせたくて思わず感情のこもった声を出してしまった。美憂をビビらせたい訳じゃないのに、完全にビビらせちまって小さい体が更に萎縮する。


何をされたか、聞いてみたけれど美憂は何も言わなかった。何も言えないんだろう。小さな体がカタカタと震えていて、何で俺は一瞬でも目を離してしまったのかと自分が嫌になる。こういう時、何が正解かわからなくて、ずっと怯えてる美憂が見ていられなくてそっと手を伸ばした。これで拒絶されたら、そのまま送り届けて帰ろうと思ったけど、美憂が拒絶しなかったことに何処かホッとしてしまう自分がいて。俺はまだここにいていいんだと自分勝手なことを思う。


男の顔をちゃんと見ておけばよかったし、なんならとっ捕まえておくべきだったと思うことは全て事が起きてからの。その場その場がドタバタで、悔いが残ることばかりだけど、俺の胸で啜り泣く美憂を見ていたら、あの時たとえそう思っても俺はやっぱりコイツを放っておくことはできないから、同じ行動をしていたんだろうなと思う。
擦り過ぎて赤くなった肌、ビショビショに濡れた服、乱れた髪の毛、美憂が受けたであろうものは所詮憶測に過ぎないし、男の俺からすれば全てを理解し得ないだろう。だけど、もし俺が後一歩踏み出せてたら?

「何されたの」「アイツをぶん殴ってくる」「俺が忘れさせてやる」とか言えたのかもしれない。

何一つ、俺ができる資格を持たないくせに、美憂が俺に擦り付いてくれることに甘んじて俺は今もこの立場を利用する卑怯者だなと改めて思ってしまった。


×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -