真一郎と幼馴染 | ナノ

誘われて目撃されて

友達に声をかけられて行ったご飯。名目はご飯のはずだったけど、なんだろうこれは。って言ってから思った。駅前の居酒屋で友達と友達とあたし、と他に見知らぬ男の人が二人。ご飯って聞いていたはずなのに、居酒屋に入る時点でちょっとおかしいとは思ってたけど。適当に座った友達二人と先に座っていた男の人たち。多分、年齢はそんなに変わんないと思うけど、本当になんなのこれは。と自問自答を繰り返しながら、あたしは友達に促されるまま空いている座席に腰掛けた。

名前はなんていうの?どこに住んでるの?普段は何してる?そんな質問ばっかり繰り広げられるこれは合コンじゃないのか、と思ったけれど多分あくまで一緒にご飯…百歩譲って飲み会ってことなのだろう。それでも初めましての人たちが揃えば、まるで合コンのような質問ばかり。友達に真意を確かめたくても、彼らがそばにいたらできるわけもなく、あたしはとりあえずその場の流れに合わせて笑ってやり過ごす。話をしててわかったのは、友達一人と相手の二人が知り合いらしい。別のところで知り合って、ご飯しようって話で今日を企画したらしいんだけど、だったら何故こうなったんだろうか。何故、あたしが声をかけられたのか本当に理解できなかった。全貌のわからないこの場で変にハメを外したくないあたしは、お酒も無難なものを選んでちびちびと飲むことにした。「お酒強くないの?」って途中聞かれたけど、「あんまり…」って答えて流した。嘘は言っていない。

ある程度時間が過ぎて、あたしは一人トイレに立つ。何やってるんだろ…って思いながら、フラフラとトイレに行って、鏡で自分の顔を見る。こんななんとも言えない表情で参加していて、良いのだろうか。はぁ、まあ相手には悪意もなければ、友達に聞かなければ真意は何もわからない。とりあえず今日この場を乗り切ることだけど考えよう。自分の中でいろんなことを纏めて意を決してトイレを出たら、突然「美憂」って呼ばれて驚いた。


「びっくりした…ワカじゃん」
「よぉ」


たまたまトイレの入り口で鉢合わせになったのはワカだった。ここで誰かと会うなんて思ってもみなかったから、結構心臓が飛び跳ねるような感じがしてヒュッてして気分が悪い。ワカはあたしの反応が予想外だったみたいで、逆に「驚き過ぎ」って軽く笑ってるけど。


「何、呑んでんの?」
「うん、」
「ふーん、友達?」
「…まぁ」


ワカもここにいるってことは多分飲み会なんだと思うけど、真もいたりするのかなって考えてしまったりして。そうしたらワカはなんでもお見通しなんだろう。「真ちゃんはいねェよ」って教えてくれたから、ちょっとだけホッとした。


「なんだ、残念?」
「そんなんじゃないって」
「美憂ちゃん、お友達?」
「あ、え、と」


このまま適当にお暇してしまおうと思っていたら、一緒にご飯を食べていたうちの男の一人がやってきて体が強張る。やばいって思ってしまった、本能的に。だけど男の人はそんなこと知る由もなく、「さっき頼んだの来たから、取ってあるよ」なんて気遣いたっぷりの言葉を言ってくれて、本当にありがとう…って心の中で泣いた。


「俺もちょっとトイレ行ってくるね」
「はい、先に戻ってます…」


軽くペコリと会釈して、彼とは一旦解散。残されたあたしとワカは微妙な空気が流れる。


「何、デート?」
「違う…、他にもいるし」
「じゃあ、合コンじゃん」


違う、って言えれば良かった。だけど、あたしにはそんな風に言い切ることはできなかった。何故なら自分でも今回が何の会なのかわからず、自分自身が合コンを疑っている部分もあるのが理由だと思う。ワカの顔を見ることもできなくて、突き刺さる視線が痛い。結局、その後はろくに言葉も交わさず逃げるように立ち去ってしまった。


あれから三日ぐらいが経った。あたしもみんなもそれぞれ生活があるわけで、会わないときは本当に会わない。わざわざ連絡するわけでもないし、だけど、ただなんとくあの日ワカから逃げてしまったことが気掛かりで、必然的に真と会うことも避けてしまう。別に悪いことはしてないんだけど、ワカが余計なことを言ってそうで怖い。


「って、あたしが言う筋合いもないのか…」


こんなことまで考えていて、悲しくなる。自分は真の何者でもない。はぁ…、ここまで考えるなんて自意識過剰すぎる。真との関係は曖昧で不安定。確証までいかなくても、真と今までやってきたやりとりを思い返せば少しだけ自意識過剰にもなりたくなる。なりたくなるけれど、それとこれとは別問題。結局はなんの肩書きも持たないただの腐れ縁だ。

完全に気を抜いていて歩いていた時だった。たまたま道で人と鉢合わせるようになってしまい、本当にたまたまパッて顔を見てしまって、喉の奥がヒュッてした。この感じ、デジャヴだ。


「し、ん」


会いたいけど会いにくかった真だった。ビニール袋をぶら下げて、コンビニとかスーパーとかなんかの帰りっぽい。向こうもあたしとここで会うと思ってなかっただろうし、びっくりした表情であたしを見つめて立ち止まって、完全にお互いがお互いに面食らってる状態だ。あたしは絞り出して声を出したけど、真は何も言わない。この沈黙が居た堪れない上に、会いたいと思ってたくせにいざ鉢合わせてしまったどうすればいいか分からず目が泳いでしまう。


「今帰り?」
「うん」
「気をつけて帰れよ」
「うん」


真はそれだけいうとあたしの横を通り過ぎる。いつもだったら、もっとくだらないことを話をするのに、あまりにも呆気なくて、思わず「えっ」って声が出てしまったぐらいだ。


「真っ」
「どうしたー?」


思わず呼び止めてしまったあたしに対して、真は立ち止まって振り向いてくれる。だけど、その表情はいつもと違う。笑っているけれど、何処かぎこちない。なんでそんな反応を真がするの、なんで真がそんな風に取り繕うのかがわかんない。わかんないよ…、なんで。


「あ、美憂」
「…何」


上手く言葉にできずに詰まっていれば、真が何かを察してか思い出したように呟く。


「美憂、酒には弱いんだから呑み方気をつけろよ」
「、え」
「俺らと同じ感覚でいたら危ねぇし危機感持った方がいいと思うけど、まあ気が許せる奴できたなら別にそれも良いのか」


何言ってんの、真の言葉が理解できなくて、でもそれを言葉にもできなくて、パクパクした口の中がどんどん乾いていくのがわかる。


「あとは」
「…なんで」


なんで、あたしの話を聞かずに話し始めるの。真があたしの何を知ってるというの。真はあたしの気持ちを知ってるんじゃないの。わかってくれてたんじゃないの。全部真に向かって投げつけてやりたいのに、あたしの声は乾いてうまく出せない。乾いた口とは裏腹にポロポロと流れる涙。いっそのことこの水分を全部口に含んで言葉を発せるようにして言い放ってやりたい。


「な、にそれッ」


まるであたしが他の誰かのものになったみたいな言い方して。


「あたしはっ…!!真が待ってろって言ったくせにッ」


あの日の出来事を何度夢なんじゃないかって思った。都合のいい酔っ払いの夢だって。それでも真と会うたびに、
さりげなく言ってくれる言葉や視線に夢じゃないって信じてきたのに、なんなのこんなの。


「だって、この前男と」
「ッ真のばかっ!!どうせワカの言葉信じたんでしょッ!あれはそんなんじゃないっ」


そう、あれはそんなんじゃなかった。友達から後から聞いた話で知ったのは、友達と面識のある相手の男の人が女の人を紹介して欲しいって話だった。ただそれはあたしがってわけではなくて、一緒にいたもう一人の子を紹介する程だったらしい。と、いうのもこういう女の子いないかな、って相談されてヒットしたのが彼女だった。だけど、あたかもそんな感じで誘うのも警戒と緊張しそうだし、って理由であたしにも声をかけたとのことだった。確かに友達はあたしが真のことでウダウダしてることも知ってたし、それなら別の出会いのきっかけにもなったらってことの意味も含んでたらしいけど。それはあくまで、ついでの話で、


「違うのにッ」


真は狡い、嫌々でも待っててと言ってたのに、思わせぶりな態度をするのに、そんなすぐに手のひら返すなんて聞いてない。待ってるって決めたのに、数年かけたこの拗らせた気持ちは今すぐ捨てれるものじゃない。それを勝手に、そんな。


「ごめん」
「真のバカァっ」
「うん、ごめんな」


あぁ、もうこの道のど真ん中で嗚咽までして泣いてしまう二十代。なんていう光景だろう。ただひたすらに真のその性格が信じられなくて泣いた。それ以上に、支えたい真を振り回すこの自分が信じられない。暴言を吐くしかできないあたしを真があやすって逆の行動。全然やりたかったことじゃないのに、やっと触れてくれた手はいつもみたいに優しくて。いつもならそれが嬉しいはずなのに真のせいでぐちゃぐちゃになった感情は収まることを知らない。


「…ッぐす、謝るならご飯奢って…」
「おう」


謝ってきても、誤解が解けても、結局は最終的にはお互いに好きとか付き合おうなんて言わないし、言えないのだ。もはやこれは暗黙のルールに近いのかもしれない。だから、あたしはあえてご飯を奢ってって言うし、真も困ったように笑いながら頷いてくれる。



「高いご飯じゃなきゃダメだからね…」
「それで美憂の気が済むなら」


気が済むわけないじゃん、おバカ真。だけど、こうでもして真を振り回さなきゃやってけない。こうでもしなきゃ、真とまた普通に戻るための口実がないのだから、あたしはこれで納得するフリをする。


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