続・ご飯に誘われただけですが(真一郎視点)
鎌倉に行こうと思ったのは、ふと思い出したから。ただ素直にそこへ行くのもなぁと思いつつ、江ノ島に誘うことにした。そっから、鎌倉に行くよう会話の流れでさりげなく提案して。最後に連れて行ったのは鎌倉にあるアクセサリー工房。ここでアクセサリーを作ってくれると聞いて連れてきた。店内はそんなに大きくなくて、こじんまりとしながらも無駄がなく動けて業務ができる作りになってんだなって思ったのが第一印象。
様々なデザインと種類のリングが並べられてて、俺が欲しかったものを探すけど、ぱっと見では見当たらず。とりあえず指輪を作ることにして、種類から指輪を選ぶことにした。
仕事中に指輪はできねェけど、オフの日はつけられっしなぁ…と思い、デザイン性とかも拘るのもありかって思ってたら、横で美憂が興味津々で食い入るように見てるじゃん。だから、「美憂も作る?」って聞いてみたら、「作ろうかな」って前向きな答え。
「サイズどれが良いかな…」
美憂は完全に無意識だろうな。見本の指輪を右手の指に嵌めたり、左手の指にも嵌めてみたり。おかげで、ちゃっかり美憂の指のサイズがわかってしまった。絶対覚えておこ…。って思ってたら、俺今どんな返事してたっけって後々思ったけど、美憂自体はあんま気にしてなさそうだからセーフか。
結局、今日は指輪作りしかしてないってこともわかって、正直これは残念。だけど、美憂の指のサイズわかったし、これなら指輪を…って思ったけど、俺が渡す理由がそれこそねェんだわ。それは今じゃないって言い聞かせて、店内を見てたら、壁に飾られたバングルやブレスレット、ネックレスが目に入る。
「これ、作ってねェのかな」
「今は指輪はだけみたい」
あーマジかよ。本当はこれを作りたくて来たんだけどなぁ。まあ、仕方ない。ここにあるやつで、なんか良いのないかなって吟味した。美憂には可愛らしいモノをあげるべきなんだろうけど、目につくのは太めのちょっとゴツいタイプばっかり。可愛いの感覚も俺だけじゃ分かんねェしな、こういう時エマがいたらまた別なんだろう。
「美憂にやるよ」
帰り道、美憂に手を出してもらって腕につけたシルバーの太めのチェーンブレスレット。細いコイツの腕にはちょっと似つかないものだけど、美憂は突然のことに驚いた表情を浮かべてる。
「美憂につけて欲しかったから」
嘘は何もない、素直に思ったことを伝えたら、美憂は嬉しそうにふふって笑ってくれて、ちょっとだけホッとした。美憂に本来ならオーダーメイドのブレスレットやりたかったけど、これはこれで良いとするか。
ブレスレットの贈り物の意味。美憂は知らないんだろうな。
「いつも身近に自分を感じてほしい」「ずっと一緒にいたい」
太ければ太いほど意味は重い。
つまりは束縛。
何もできない俺が今できる精一杯の自己主張。
今回、江ノ島に連れ出したのもぜーんぶここに来るための口実。何も知らない美憂が素直に喜んでくれたら全て成功。何もしてあげられない俺ができる精一杯の愛情表現。俺のことを忘れないで、離れないでという重たい愛情表現、鎖のように切れない拗れた感情を美憂は何も知らずに身につけて笑っている。
そんな俺の心の奥底の気持ちを知らず、俺のあげたブレスレットを見つめてる美憂を見て、いつだって不安で枯渇してる心の中が満たされていくのが分かった。