真一郎と幼馴染 | ナノ

目が覚めたら、知らない部屋でした

普段寝ている時と違う肌触り。布団に包まってるのはわかるんだけど、何かが違う。頭が重いような痛いような。何でだろうとぼんやりする意識の中で考えてみれば、昨日はお酒を呑んだことを思い出す。お酒に関しては弱くなく強くなく。ほどほどに嗜める程度、そして自分の限度はわかっているつもりだ。だから、昨日だって無理なく呑んだと思っていたんだけれど、さてこれは?


「え、夢…?」


まず目を開いて見えた景色が見慣れたものじゃなかった。時間を見たくてスマホを探そうと思って、うつ伏せに寝転んで上体を起こそうとベッドに腕をついいた。ここまでは割といつもの流れだ。本当ならスマホは枕元に置いて寝るのだけれど、今回は昨夜が酔っていたこともあるから、何処に置いたかの記憶もないので、こういう行動を取ったのだけれど、重い瞼を擦りながら開けた景色が予想外すぎて一気に眠気がぶっ飛ぶ。見覚えのない部屋。しかも生活感がありすぎて、ここはどこ、あたしは誰って自問自答を繰り返す。見るから女子の部屋ではない。つまり男の部屋…ってことになるわけだけど、本当にここは何処。ちなみに部屋の主はいない。あたしの格好は…下着はつけてるけど…履いてたはずのスカートは脱いでるからなんとも言えない…。


「お〜、起きた?」
「っ、し、んッ」


どうしようどうしようと内心慌てふためきながらも、とりあえずこのままではいけないと気づき、脱ぎ捨てられていたスカートを手にして履くことにした。履いたらこの後は?部屋を抜け出す?まず荷物は、スマホはとまとまらない思考回路をなんとかしなきゃと、自分の考えていることが自分でもわからなくなっていた時、部屋の扉が開いく。扉が開いたことも驚いたけれど、一番驚いたのはそこから現れたのが真だったこと、


「て、なんで、服着てないのッ…!!!」
「え?だってシャワー浴びてきたから」
「〜〜〜っ!!!」


多分普段だったらこんなに取り乱したりしないのに。間が悪かった、完全に。直前まで自分が何処にいるかもわからず、自分の格好にも記憶がなく、畳み掛けるように現れたのが真で、しかも上半身裸ってなんなの!?ってならないわけがない。こっちの気も知らないで、ケロッと答える真のメンタルが理解できないし、思わず手元にあった枕を投げたら「あっぶね!?」って片足を上げながら驚く素振り。ちなみに枕は上手く投げれず真の足元に落ちたので、無駄な体力を使った気分。


「ここ何処」
「俺の部屋」
「なんで、」
「昨日のこと、覚えてねぇの?」


真がシャワーを浴びた後というのは嘘じゃないと思う。現に肩からタオルをかけて、髪の毛をわしゃわしゃと拭いているし、若干濡れてヘタってる髪に上半身が何も着てないからわかる、意外と引き締まった体と筋肉がついているのがわかる腕とか…待ってそんな体付きしてるのズルいってなる、いやそんなこと思う自分に待ってだよね!?あぁ、でもバイク屋をやってて力仕事だし有り得るのか…。


「美憂?」
「あ、えっと」


って考えてしまって、昨日のことをなかなか思い出せない。名前を呼ばれて、完全に意識が逸れていたことを気付かされて我に帰るし、真の体を見て余計に意識しちゃって目線を逸らした。



「みんなで呑んでたじゃん、昨日」
「あ、うん…、ワカとかベンケイもいたよね」
「そーそー」


そうだった、昨日は近くの居酒屋に行ってたんだ。武臣たちと話してたらワカがジムのスケジュール的にも呑んでも支障がないって話になって、ベンケイも呼んで、だったら仕事終わりに真もバイクなしで来るよう声かけよ〜て電話で呼び出して。みんなでいつもみたいに呑んでたはず。こっちが必死に昨日の流れを思い出しているというのに、真といえば呑気に部屋に入ってきて、あたしの座っているベッドの脇の床に座り込んで服を着る気配がない。さっきは遠目だったから寝起きに気も動転して気づかなかったけれど、近くで見たら古い傷とかもあって、本当にヤンチャしてたんだなって変なところで頭の中が冷静になる。



「いつも通り呑んでたはずなんだけど」
「おう、いつも通り呑んでたはずだったな」
「じゃあ、」
「いつも通り呑んでたけど、美憂さ、途中から結構呑んでたんだよな」
「…、」


結構呑んでたって、あたしが?自制をしているあたしが、嘘だ。でも真は結構呑んでいたと確かに言った。だめだ、思い出せない、この辺りが全く覚えてないから肯定も否定もできない。床に座ってるから、あたしより低い位置いるため、必然的に見上げてくる真に不覚にもまたドキッとさせられる。このアングルもダメだって。



「期間限定の酒呑んでてさ、多分それが相性悪かったんじゃねぇかな。その後からいつもペース変わってのんでんなって思ったし」
「あー…」


そういえば。真の言う通り、昨日はお店の壁に貼られてた期間限定のお酒が気になって頼んだ気がする。しかも結構美味しくて呑みやすかったんだけど…、あれか。呑みやすくて呑まれたパターンか。ってことは、その後の記憶が曖昧なあたしにとって恐怖でしかない。その後、あたしは何かを仕出かしているのか、しているだろう。じゃなきゃここにいないと思う。しかも中途半端な格好で寝てもいないはず。怖い、怖くて聞けないけど、知らなきゃいけない。どうしよう、って起きて数分なのに何度目かの自問自答を繰り返す。必然的に黙ってしまったあたしを真はじっと見つめてきたかと思えば、フって笑みを浮かべる。なんかやだ、その笑顔。


「美憂が珍しく酔って、俺に甘えてきだんたよ。真〜って」


ゾワゾワした。それは真があたしの真似して出した裏声に対してもあるけれど、あたしがそれをみんなの前でやらかした方への気持ちの方がでかい。


「嘘っ!?」
「ホント。んで、お開きってなった時に、俺が家に送るってことになったんだけど、帰りたくねぇって言われて連れて帰ってきた」
「…嘘」
「帰りたくねぇ、離れたくねぇってなって自分でスカート脱いで」
「…」


それはもう痴女では。自分で、脱いだの?脱がされたとかではなく?頭を抱えた。


「美憂、すげぇ積極的だったな」


しんじらんない…笑顔で言われる真の言葉にあたしはもう絶望。酔った勢いとか一番ない、せいぜい素面で酔ったフリとか。無理だけど、やるならそういう時にまだやってほしかったよ、自分って思った。真のことは好き。でもそれとこれとは別だ。順序ってものがあるし、一番良くない流れ。あぁ、もう最悪だ、これは悪い夢であってほしい。だけど、そばに座る真がベッドを背もたれにして座ってるから、少しでも動けばベッドは動くし、あたしの方を見るためにベッドに乗せた腕がスカート越しだけど足元に触れて伝わってくる体温。いろいろな現状が現実だとあたしに知らしめてくる。



「ってのは嘘で」
「…う、そ?」


頭を抱えていた手の隙間から真を覗き見た。ハハッと呑気に笑っている。


「帰りたくねぇって言ったのもホント、スカートも自分で脱いだのもホント」
「嘘じゃないじゃん…」
「スカートを脱いだ理由は、このまま寝たらシワが寄るしって言いながら脱いだんだよ」
「…」
「眠すぎて寝たいってずっと騒いでて、真の店が近いから真の店行くっつたんだよ。だけど、店じゃ寝れねぇから俺の家にしようなって言い聞かせて連れてきたってわけ」


酔っ払った自分にビックリだ。ちゃんと甘えているのに、なんかズレてる。そんな酔っ払いをしっかり介抱してくれたってことには感謝してる。だけど、なんかこう色々複雑な感情が渦巻き始める。


「…ちなみに真はどこで寝たの」
「ん〜?そりゃベッドで」


記憶ない上に真と同じベッドで寝てたって…記憶がなくって良かったようなあって欲しかったような。


「言っておくけど、何もしてないからな」


しかもこれはこれでさらに複雑だ。あたしに魅力がないってことか。やだもう、本当に。



「…帰る」
「帰んの?なら送ってく」
「いい」
「良いって、送るから」


もうここにいたらどんどん自分の心が乱されていく。頭が痛いのも相まって、余計に余裕がなくなって、帰る意思を示すために立ち上がれば、真もケロッとした様子で立ち上がるとするから、それを止めた。さらに言い被されたけど、ここで引き下がりたくない。


「大丈夫、帰れる」
「帰れるだろうけど、そんな顔してるの一人で帰せねぇって」


真は鈍感すぎる、というか乙女心がわかってなさすぎる。こっちがどんな気持ちで言ってるか汲み取れないから、いつだって振られるんだ。ばーか!なんて心の中で悪態ついて。実際には全部の気持ちをギュッと丸めるかのように手を握ることしかできない。



「それとも、シャワー浴びてくか?」
「なんで」
「少しはスッキリするだろうし、その間に俺は仮眠」
「仮眠て」


シャワーを浴びる提案をされても、着替えがないしって思っていたら、真の仮眠って発言が引っかかった。だって真も同じベッドで寝たって言ったはずなのに、何故朝から仮眠?


「同じベッドで横にはなったけど、好きな女横にして寝付けたわけじゃねぇからな」


今なんて言った?これは夢?ずっと夢であって欲しいと思ってたから夢になった?正夢…?ダメだやっぱり寝ぼけてるのかな、思考が狂ってる。真が柄にもなく真剣な表情で見つめてくるから、喉がヒュってなる。


真は横で寝てたと確かに言ったけど、起きた時に真は横にはいなかった。シャワーを浴びてきたって言ってた。つまりそれはいつから?朝からシャワー、昨日遅くまで飲んでて返ってきたから浴びれなかったから、朝シャーしたってことなら話は通じる。だけど、真は今好きな女て言ったし、あたし自身起きた時の姿を思い出した途端、一気に顔が熱くなる。



「ッ真のばかっ!!!」
「ってぇええ!!」



真の背中に平手打ちをバチンッと一発。そしてそのまま部屋を飛び出した。そしたらエマに会って「えっ、美憂!?真ニイの部屋から出てきた!?!嘘っ!」って騒がれたし、追いかけて来た上裸の真見て黄色い声あげてて二日酔いの頭にすごく響いた。このぐちゃぐちゃの気持ち、全部吐き出したいと今日一強く願ったのは言うまでもない。


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