真一郎と幼馴染 | ナノ

目が覚めたら(真一郎視点)

仕事中に連絡が来るのは珍しくなかった。
“いつものところで呑んでるから!”と簡潔的なメッセージ。つまり徒歩で恋という事だろう。グループの方で連絡が入り、“仕事終わったら行く”と返して、店に行った頃にはみんなある程度呑んだあとだった。


「真ちゃんおつかれ〜」


ワカはいつも通り。他の奴らもまぁまだ普通かな。美憂 がほんのり酔いが回ってきたか、ちょっとだけポヤポヤしてるように見える。そっからまた乾杯して呑み始めて、しばらくすれば俺より早めに呑んでいたわけだから、段々潰れてくるやつも出てきた。


「真ちゃんデレデレ」
「えー」


武臣は潰れたし、ベンケイもそれなりに酔ってる感じ。ワカはシラフだな。俺は途中合流だったってこともあるけど、それなりに呑む前に自制が働いたってのもあるので割と普通。会計済ませて、お店の外に出て一言、ワカの言葉に俺は一応反論のように声を漏らした。


「送り狼」
「しねーって」
「わかんないじゃん、真ちゃん拗らせてっから」


それを言われちゃなんも言えない。俺の背中には意識を手放した美憂がいて、耳元からスゥスゥと寝息が聞こえる。普段は安定を選んでチャレンジしないくせにたまたま見つけた期間限定の酒を呑んでから、ペースが変わった。美味しいと言って呑んだのがおそらく呑みやすく酔いやすいやつだったんだろう。だから最後の方は俺の横で寝てたし、起こそうとしても起きなくて擦り寄ってきた時には可愛くてたまんなかった。ワカにはすげぇ顔して見られたけど。けど、送り狼にはならねェって。そのまま俺たちはここで解散、それぞれ帰路に着く。


「美憂、帰ろうか」
「、んぅ…や…」


どうしようかと思った、美憂の家まで連れて行っても良いけど、時間も時間。まぁこの前も送り届けたけれど、あれはまだ美憂にはかろうじて今よりも意識があった。今回は完全に意識を飛ばしているわけだし、そんな美憂の家に上がるのも…それこそ送り狼になりかねないと思った俺は行き先を自分の家に切り替えた。家ならまぁ…寝てるだろうけど万次郎やエマもいるし、俺以外の奴がいるってことが歯止めになるからなと思っただけのこと。家に帰って、俺の部屋のベッドに美憂を転がし、靴を脱がせてからまた戻り、一応は声をかけてみる。



「美憂、とりあえずウチ連れてきたけど、ほら水飲んで帰れるか?」
「ん…ん」


結局寝返り打って動く気がない。わかってはいたけれど、このままここに泊めるしかねぇのかと俺はため息をついた。普段、スカートを履かない美憂 。俺らがバイク乗せることが多いから、それを意識してってのもわかってる。だからこそ、こうやってたまに見れるスカート姿は新鮮だし、良いなって思うけどこうやって自分のベッドで無防備に寝てるならわけが違う。ワカと交わしたやりとりが頭の中でリフレクションした。結局そのあと、美憂 が一瞬だけ起き上がったかと思えば、徐にスカートを脱ぎ始めてギョッとしたし、脱いだら脱いだでまた当たり前のように布団の中に潜って眠りだす。ベッドサイドに寄って、そっと美憂の頬を撫でながら「美憂さーん、なんで脱いだんですかー」ってちょっと小声で声をかけてみれば、「シワになる」ってめちゃくちゃ眠そうな声で返された。さいですか。

結局俺も眠くなったし、寝ることにした。美憂 が横にいて意識しないわけなかったけれど、ワカの言う通りずっと拗らせた気持ちがあっても、それを今更どうするとかできるものでもない。今の俺が抱えるにはまだ荷が重いんだ。万次郎もエマもいる。なんなら、イザナだって。身内のことで手ェいっぱいの俺が、美憂のことまで何ができる。無責任に手を出して、後々悩ませる可能性があるならない方がいい。親を見て子は育つ。いい意味でもあり悪い意味もあると思うそれは、俺の中でいろんなことを考えさせられた。もっと何も考えずにいられたら良かったかもしれないと思うことだってあるけれど、俺だってそんなに能天気でもなければ器用な人間でもない。結局追々のことを考えて、壊れるのが嫌で美憂にまでずっと我慢させてるような碌でもない男だ。わかってて、フラフラして思わせぶりなことして。だけど、その度に一喜一憂する美憂が見たくてそれを繰り返す。



目は自然と覚めた。眠りも浅かったと思う。だからあんまり寝た気がしなくて、ボーッとしながらまだスヤスヤと眠る美憂の寝顔をぼんやりと眺めてしまう。


「…まじか…」


生理現象に気づいたのは自分の体を少しだけ動かした時だった。あーあ、俺も健全な男だしな。無防備に寝てる美憂はもっと危機感持つべきだと思う。なんて他人のせいにしたりして。そのまま寝ちまったし、とりあえずシャワー浴びるか…と思って、部屋を後にした。
仕事終わりに呑みに行ったことと美憂の件もあって、そのまま寝ちまったわけだけど、そういう意味でも美憂が起きる前に目が覚めて良かったと思う。シャワーの蛇口を捻ってお湯を出しながら、俺は熱を帯びたソレに手を伸ばす。


「っは…」


脳裏に浮かぶのはいつだって美憂。なーんも知らずに寝ている美憂 にもし、全てを言えていたら俺たちの関係はもっと変わっていたし、俺が一人でこんなことをすることもないんだろうなって思える。それでもやっぱり口に出せないのは、俺が美憂を大切にしたいと思える女だから。惚れた弱みって奴だろう。


「美憂ッ…」


最強と謳われていた初代黒龍の総長の座にいた俺だけど、それも仲間達がいたおかげだ。俺一人では成し得なかった偉業であって、俺一人の手柄ではない。だからこそ、俺は俺の力量を測り間違えてはいけない。今の俺が抱えられるのはまだ家族だけ。最優先に守らなければならないアイツらのために。そのために俺は俺の気持ちも美憂の気持ちも見ても知っても気づいていてもただひたすらに流す。


「っ…」


まるで手の中に吐き出された白濁のソレが出しっぱなしのお湯と共に流れてくように。ぼーっと眺めて終わるだけ。気づいても何もできない。


こんな狡い俺を美憂はいつまで好きでいてくれるのか。そんな不安を抱えながら、今日もきっと美憂を揺さぶる言葉を吐き出すんだろうな。



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