短編 | ナノ


煌道連合時代の奴らと呑んでる時の話だ。勝手知ったるなんとやらってワケもあって、真ちゃんたちと呑む時とはまた別の気楽さってものがコイツらにはある。


「若狭くん、聞いてくださいよ」
「ん、」


コイツは昔のメンツの中でも割と楽天的っつーか、陽気な性格をしていて何を話すにしてもとにかく賑やかなやつだ。まだ酒の量は序盤だと言うのにコイツは最初から出来上がってるとも取れる状態で他の奴らもさすがに引いた眼で見てたり逆に目を合わせないように知らんぷりしたり。


「彼女にいっつも男たちと連んで、私と仲間とどっちが大切なんだって言われちまいまして…」
「フーン」
「若狭くん!ふーんって冷たくないっすか?!」


「言われた通り話は聞いてやってんだろ」と返せば「そうなんすけど…」とゴニョゴニョ言葉を濁し始める。何度も何かを言いかけては口を閉ざすことを繰り返したり、酒を流し込んだりした、ようやくコイツがまた口を開いた時には酒の力が多少なりとも加わったと思える頃だった。


「若狭くんは彼女さんにそーゆーこと言われたりしないんすか…」
「は?ねぇワ」
「えっ、マジ話っすか?」


本当にめんどくせぇな。アイツの何を知ってると言うんだ。事実を述べただけなのに、信じられないと言わんばかりの表情を隠すことなく全面に出して驚いてやがる。


「若狭くんモテるからこそ言われそうなのに」
「どういう意味だよ」
「そのまんまの意味っすよ、煌道連合の総大将にして白豹と呼ばれていた若狭くんは初代黒龍の特攻隊長としてめちゃくちゃ名前を轟かせてたし、今も昔も普段から真一郎くんやベンケイくんたちと連んで。そうじゃない日は俺らと呑みに行ったりして。野郎とばっかり一緒でも、いつだって女にはモテモテ、そんな若狭くんの彼女っすよ?」
「意味わかんねぇワ」


ここまでノンストップで言い切ったところはすげぇけど。何が言いてェのかはサッパリだ。だから何なんだって話。酔っ払いの戯言と言い聞かせてオレは手元にあったジョッキの中身を一気に喉へ流し込んだ。


◆◆◆


フワフワする意識の中、誰かがオレの名前を呼ぶ。浮遊感はあるし、移動してる感覚もある。でもオレの足が地べたに触れていないのは確かで、何者かによって移動しているらしいけど、正直どこに向かってるのかはさっぱりだ。


「はーい」
「すんません!若狭くん連れて来ました」


どこか遠いところで聞き慣れた声が耳に届く。なんで呑んでたはずのメンツの他にアイツの声がするのか。オレを抜きにして進む会話。「ありがとう」とか「お安い御用っす」とか何仲良く話してんだよ、って気持ちが沸々と湧き上がる。体制が崩れて、足元に地べたが触れると同時にフワリと鼻をくすぐる香りに薄っすらと瞼を上げれば、オレを全身で支える名前の姿。


「おかえり、若狭」
「ん…、」


身長差は然程変わりない、だから目線もほとんど一緒。オレのことを見つめるその表情は苦笑いだけど知ったこっちゃない。とにかく今は名前を離したくなくて、そのまま背中に腕を回して閉じ込める。後ろから「わっ」って声とヒュウッて口笛がしたけど知らねェ。そのまま名前はアイツらに再度何度か言葉を交わしてから部屋の中へと入った。


「ほーら若狭、ちゃんと歩いて」
「んー」
「っと、ソファーだから、わっ」


名前に促されるままリビングまでに移動し、ソファーに腰掛けるよう誘導される。が、オレはそのまま名前の腕を引いたおかげで二人揃って縺れるように倒れ込んだ。意思に反してダイブさせたもんだから、オレの上でワタワタと動く名前は落ち着きがない。


「名前は危機感なさすぎ」
「え、?」
「一人でいる時に野郎が来て出るなって言ってんだけど」
「若狭が酔っ払ってたから送ってくれたんでしょ…?」


名前の髪からふんわりと香るシャンプーの匂い、格好だって部屋着な訳で完全無防備のソレ。名前の言葉は聞こえないフリをしてオレは名前を抱き寄せる。


「名前」
「なあに」
「名前はさ、ねぇの」


名前の胸元に顔を埋めてるせいで顔は見えない。柔らかい女特有の体付きに名前の体温と匂いを感じながら、何故かオレは口にしていた。


「今日も昔の奴らと一緒にこんな時間まで呑んでて、とか思ったりしねぇの」
「…まあ、いっつも酔っ払ってハメ外して帰ってくるから、程々にしてほしいとは思うけど」
「そうじゃなくてさ」


記憶の彼方に残るアイツらとの会話。彼女と仲間、どっちが大切なのかと言われた後輩の言葉がずっと頭の中でぐるぐるしている。名前は一度もこんなこと口にしない、したことがない。いつだってオレの好きなようにしてくれて、名前はいつだっておかえりと言って出迎えてくれる。後輩はオレが名前に言われたことがないことを驚いていたし、オレだってそんなこと名前が言うか、って最初は思った。だけど、アイツに言われた言葉を噛み砕いていくうちに、好き勝手やっているオレを名前はどう思っているのかがわからなくなっていく。怒らず、嫌な顔をせずにいつだってここにいるけれど、これは名前の本心なのかと考えてみたら一気にわからなくなった。んな女々しいとも取れる考え方、正直口に出して余計めんどくさいことだってあり得るのに、気になってしまった疑問は直接聞いて答えを聞くしか拭うことができない。


「心配になっちゃったの?」
「オレが聞いてんだけど」


名前はまるで空気が読めない奴のよう。小馬鹿にしているようなおちょくったような口調で言うから、思わずオレの声のトーンも下がったっていうのに、名前は気にすることなくクスクス笑うだけ。


「仲間と一緒にいることは良いじゃない。若狭、モテるから女の子にばっかり囲まれてたら嫌だけど、それ以上に男の人たちと過ごす時間を作って一緒にいるなら、なーんにも。だって同性に、男に好かれる男こそ、かっこいいでしょ」
「何ソレ」
「それに若狭の愛の重さは重々知ってるから、心配のしようがないもの」
「フーン」
「安心した?」


名前はそんじゃそこいらの女と違ってた。ふふんと余裕な笑みを浮かべていてスッゲー余裕じゃん。まあ、こっちが後輩の話を聞いて勝手に気にしちまったワケで、後輩は色々言ってきたけれどよくよく考えてみればそう、ヤンチャしてた頃からのオレと付き合ってるだけあるワ。


「安心したし、名前で良かったって思えるやつな」
「あたしとしては、若狭が呑み過ぎないでくれないかなってことの方が心配なんだけどね」
「フーン」
「都合悪くなるとすーぐ、しらばくれる〜」


オレとしては別にしらばくれてるつもりはないけれど、そう思ったんならそれでいい。だって名前はあぁ言ってくれたけど、それに甘えて胡座かいて座ってるワケにもいかねぇなって。こんな理解ある良い女、やっぱ手放せねぇし、だからこそ明日は名前と一緒に何か美味いモノでも食いに行くか、と心に決めて名前に口付けた。

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