短編 | ナノ


※若狭視点

誰が言い出したのか、何をするかどこに行くか、困った時にはいつもそう。みんなでボーリングに行くのがお決まり。今日も今日とて俺らは一緒にボーリング場にやってきた。
受付で手続きをして、指示されたレーンに行き、ボーリング用の靴に履き替える。その間にボールを取りに行く奴もいて、各々がやりやすいように準備を終えたのは数分後のことだ。
モニターに映るのは、しんいちろう、たけおみ、わか、べんけいの四文字。この四人で来る場合の表記はいつだってこれ。ちなみに俺は順番的にも後半だから、のんびりと準備を進める。視界の端で真ちゃんが意気揚々にボールを手に取り、レーンに向かう。武臣も次だから準備を終えていて座ってるし、そういえばベンケイだけがいないじゃん、と気づいた俺は辺りを見渡してみれば、すぐに見つけられた。ボールを選びに行くために少し離れた場所まで行っていたらしい。俺も確かにそっちの方まで取りに行ったけど、ベンケイはまだボールを手に取ることもなく、俺らのレーンから離れたそこから動かない。しかもただ動かないわけでは泣く、ベンケイは誰かと話している。最初こそ死角になっていてわからなかったが、チラリとたまたま見えた影を見て俺はすぐに納得させられる。


「なるほどね」


興味がないといえば嘘になるが、俺が何か言うほどのことでもないのでそれにて終了。ただ、まあ言うならばさっさと戻ってこないと武臣がそろそろ痺れを切らしてめんどくさそうだなってことぐらいだわ。それはベンケイもちゃんとわかっていたのか、心が通じたかのように思っていた矢先、戻ってきたベンケイに俺はわざと「遅かったね」と声をかければ「あぁ」と短く返されて終了。そばに武臣もいるし、言いたくねぇってやつか。


「よーし、全員揃ったし始めようぜ!」


そーんな俺らのことなんてなんも知らない真ちゃんは呑気にニコニコ楽しそうな笑みを浮かべている。ほーんと何事も楽しそうにしていて癒されちゃうわ。真ちゃんのそのテンションに乗せられて、俺もすぐに気持ちをゲームへと切り替えてしまったこともあり、その後ベンケイを突っつくことはなかった。ゲームは順番通り、滞りなく進んでいく。ストライクを出したり、たまにピンが残ったり、ちょいちょいボーリングをしている俺らのスコアはそうそう悪くはないし、割と接戦。強いて言うならば武臣がストライク出すたびに調子乗るせいでそれがイラつくぐらいだろう。


一ゲーム目折り返しの頃だ。


トントンで進んでいたゲームの途中から、不意に耳に入ってくる場に似つかない音。投球する際に、ボールがレーンに落ちる音が響くこのボーリング場は決して静かな場所ではないはずなのに、その中でも耳に止まる音は相当な異音だ。周りを気にすることがめんどくさい俺でもさすがに気に留めてたくなる。誰だよ、マナーがなってねぇ奴は…。音のする方を探すべく、レーンに沿って隣、隣、また隣と視線を移していけば、とあるレーンが視界に入ってきた。


ゴトンッ


ボールを投げると言うよりは叩きつけているに近い。床を傷つけるわ、って誰もがわかる投げ方をしているのは俺らと同じぐらいの男四人。ゲラゲラと笑っていて品も何もねぇ。あれがかっこいいとでも思ってんのか、くっだらねぇなって言うのが印象だった。正直、離れているし俺らとは関係ねぇ。ここで口出しするほどでもねぇけど、絶妙に気に触る。だからって面倒ごとはしたくねぇ、ってのが本音の俺としては、ただ見て見ぬふりを決めたいところだったけど、それを見過ごさない男が俺らの中にいるわけで。


「あいつら、マナーがなってねぇな」


俺らの大将、真ちゃんだ。さっきまでニコニコ楽しそうにボール投げてたっていうのに、さすがの真ちゃんも気になったらしく、スンとした表情で俺と同じ視線の先を見つめている。それもそうだろう、楽しいボーリングをしにきてると言うのに、場を乱す輩がいて何が楽しい。あぁ、しっかしここで俺らが口出しすんのも違ぇんだわって思っていたら、は?って思う光景が視界に入る。
騒音集団の隣のレーンで投げていたのは四人の女の子たち。あんな奴らの横でよくもまぁボーリングできんな、って感じだけど、多分無視を決め込んで遊んでいたのだろう。女たちは投球のたびにピンが倒せても倒せなくても楽しそうにしていた。その光景を残すべくインスタントカメラで写真を撮ったりしていたみたいだけど、一人がカメラを構えて他の子達を撮ろうとした時、あろうことか隣の騒音集団の男たちが悪ノリで乱入してるじゃん。さすがにあれは腹立つだろ、女たちもあからさまに表情を顰めて睨んでいるけれど、相手は気づいてないのか気にしてないのか完全に自分達のテンションに酔っている。アホくさい、ほーんとくっだらねぇわ。


「あ、」


誰が声を漏らしただろうか。気づいた時にはその女たちのところには一番似つかないベンケイの姿。それを遠巻きに見るだけの俺ら。ベンケイは男たちに声をかける。男たちは驚いていた、それもそうだろう。ベンケイみたいなガタイの良いやつに声かけられて、普通のやつがビビらねぇわけがねぇワ。この雰囲気だと、まあ大ごとにはならないだろう。ベンケイは一見びびられるガタイの良い大男だが、ベンケイはこのメンツの中で誰よりも落ち着いてる男だ。口数は多くないベンケイは常に相手の考え方を受け入れて尊重するタイプ。敵対すりゃわかんねぇけど、仲間になって初めてわかる部分だ。そんなベンケイが無茶なことをするなんて野暮。ベンケイは男たちに何かを伝えている間に店員も駆けつけてきて終了。アイツらは店員によって強制退場を強いられていてザマァねぇなぁ。


「大丈夫だったか?」
「ありがとうございます」


どうやら店員を呼んできたのは真ちゃんだったみたい。真ちゃんはベンケイたちのそばに行って、女たちに声をかける。近くにいた女の一人が胸を撫で下ろしながらありがとうと呟いた言葉が近くまで行った俺の耳にも入ってきた。


「ずっと迷惑してたんで助かりました」
「さっさと店員呼べば良かっただろ」
「うーん、確かに。でもちょっとそこまで踏み出せなくって」
「相手がどんな奴かわかんねぇと悩むよな」
「結局自分らが楽しめねぇなら意味ねぇだろうが」
「なんだよ、ベンケイ。珍しく結構言うじゃん」


真ちゃんが違和感に気づく。女とベンケイと真ちゃんの会話は普通に噛み合っているようで実は違和感があった。ベンケイはこのメンツの中で冷静タイプ。相手のことを尊重するタイプの男だ。脳筋に見せかけて、一歩引くことができるベンケイだが、今この場でのベンケイは違う。さっきから女の言葉に対して否定的、に近い言葉を投げかけている。


「その言い方はキツすぎると思うけどな」
「あ、良いんです。慶三くんの正論なんで」
「けい、ぞーくん?」


真ちゃんが女の言葉を復唱して初めて何かに気づいたかな、と俺は思った。女は真ちゃんの反応を不思議にも思わなかったのだろう。はい、と笑って言葉を続ける。


「慶三くんもボーリング来ててよかった。行くって話聞いてたけど、場所と時間が被ってて助かった」
「今回はたまたまだったから良いけど、普段からあんま軽視すんじゃねぇぞ」
「え、二人とも知り合い…?」
「はい、えっと」


真ちゃんの中できっと行き着いた答えがあるはず。気の抜けた声でベンケイと女を交互に見比べているが、その表情は隠す気がないぐらい驚いている。


「ベンケイの彼女だよ、真ちゃん」
「ベンケっ…!?マジで!!!?つーか、ワカ知ってて?!」
「当たり前でしょ」
「俺も知らなかったんだけど」
「武臣には言ってねぇからな」
「ひでぇな!」


あーあ。追い出した男たちとは別の意味で俺らうるさくね?って思ったけど、周りもボーリング客でそこそこ賑わってるし、これならまだ許容範囲内でしょ。真ちゃんは結構マジでショック受けた顔してるし、武臣もひでぇって言ってるけど、多分これはそんな気にしてねぇな。ベンケイは呆れて遠くを見ているけれど、潮時だったんだ仕方ねぇな。


「慶三くんもみなさんもありがとうございます。ほら、残りのゲームあるだろうからもう大丈夫だよ」
「あぁ。なんかあったら言えよな」
「うん、ホントありがとね」


彼女の言葉の通り、互いにまだゲームがあるからそろそろ戻ろう。彼女はベンケイに軽く手を振るし、ベンケイも軽く手を上げてその場を離れる。俺も脱力した真ちゃんを引っ張って自分達のレーンに戻った。あーこんなんじゃ、あれじゃん。ベンケイと彼女、付き合いが長いことを知ったらまーたショック受けそうだし、俺は黙ってようかね。

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