短編 | ナノ


「煌道連合の白豹」その名前は東関東をまとめている男として有名な異名。煌道連合の総大将をしていた俺はあの日、とある抗争で珍しく負傷した。その場はなんとか誤魔化して立ち去ったものの、打ちどころが悪かったのか思ったよりも受けたダメージは体に響いていて、段々と意識が曖昧になっていく。もう帰ることさえめんどくさくなり、なんならどこか適当に女の家に上がり込もうとも思ったが、そんな相手をするのもめんどくさくて、適当に体を休めてしまいたい俺は場所を選ばず身を投じる。
次、目を覚ました時は知らない室内だった。目を開ける前に気配でそばに誰かいることはわかっていたし、害がない相手ってのもすぐにわかる。それでも、俺にとっては見ず知らずの誰かであり警戒しないわけがない。そこにいたのは全く見知らぬ女が俺を見つめている。驚きとちょっとだけ恐怖心って言ったところか。聞けば俺がほっとけなくて連れてきたなんて、どんなお人好しだよって思ったのが第一印象。
服装と雰囲気からして社会人…って感じ。しかも、俺が年下だとわかると強い目の言葉でそれこそ子供を心配する大人が言いそうな言葉を言い出した。不良の、しかも男相手に何言ってんのって思ったけど、こんなこと言う奴の方が珍しすぎて俺は考え方を切り替える。女は俺の身を案じてここまで連れてきてくれた。俺は正直動くのもかったるいし、外にいても過ごしやすいわけではない。となれば、ここは好都合。相手は社会人でも女だし、俺は男。しかも相手からすれば子供とも取れるだろう。使えるものを使ってしまおう、そう思って女をベッドに押し倒した。

正直、疲れた体でやるのはかったるいし、こんな年上なんて専門外だけど。内心、思ったこととは裏腹の言葉を吐き出して、女を流してしまえばいいと思い、女の口を塞いでしまおうと思った矢先、大きな音と共に両頬に痛みを感じたのは、全てが起きてから数秒後だった。不意をつかれるとはこのことだろう、女が俺の頬を両手でバチンと挟んでいた。そして、この場の空気を関係なしに説教されて本当に驚いた俺は何も言えなかった。


それからはもう女の、オネエサンの言うことを素直に聞いて何故か風呂に入って渡されたスウェットを着て眠った。朝起きたら、ご丁寧に手紙付きのトーストと目玉焼きとかが準備されてて呆れたのは言うまでもない。


「かったる…」


あの日、俺はおねえさんが帰ってくる前に家を出た。挨拶もお礼も何も言わずに、だ。家に見ず知らずの俺をあげて、手当をして風呂に入れてくれて寝床まで貸してくれた上に朝ご飯付き。とっても好都合な環境下だった、それでおしまいでいいはずなのに。俺はおねえさんのことがずっと頭の中をちらちらとしている。
不良の道に進んでケンカに明け暮れていた俺は気付けば煌道連合を纏める総大将。そんな俺を大人たちはまともに相手にしなかった。恐怖と距離を置き、理解されない目で見られて会話らしい会話なんてない。上部だけの言葉、作られた嘘を並べてる大人ばっかり。それしか俺にはなかったのに、俺の名前も年齢も何もかも、素性を知らないおねえさんは初めて会ったばかりの俺を叱りまでした。


「馬鹿らし」


俺だっておねえさんの名前も年齢も何も知らねぇのに、周りにいる大人とは違ったおねえさんが忘れられない。なんなら、周りにいる女とだって違うおねえさんが新鮮で俺の中で何かがジワジワと広がっていくのを感じる。


「オネエサンに会いてぇわ」


そして気付けば俺はそんなことを呟いて体は記憶にうっすらと残った道を歩んでいた。


オネエサンの寄り添ってくれる真っ直ぐな気持ちにまた触れたくて。

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