短編 | ナノ


何も変わらない休みの日。トーマンの幹部で集まって、所謂、幹部会をやっていた。時間は夜、普段の集会だって辺りが暗いのもいつものことで、なんも変わんねぇ夜だった。突然「場地ー!」って名前を呼ばれるし、その主はマイキーで。「んだよ」って返せば、ドラケンと一緒に俺の傍までやってくる。集会は終わり、解散って言ってたくせに、なんかやり残したことでもあったか?って考えてみるけれど、何一つ俺にはわかんねぇ。

「場地、お前何やってんの」
「はぁ?」


マイキーの突拍子もない言葉にマジでなんだよって気持ちが声が出た。何言いたいのかわかんねぇって、ドラケンとマイキーを交互に顔を見比べていたら、めんどくさそうなのか呆れてんのかわかんねぇけどマイキーが口を開く。俺は黙ってその話を聞き終わる頃、すげぇムシャクシャすることになる。





帰宅してから自分の部屋のベッドに寝転んでゴロゴロしていた。ゴロゴロって言っていれば、ゆったりのんびりって感じで聞こえるかもしれないけれど、全然そのつもりでのゴロゴロではない。起きているのも嫌で、部屋の電気はつけていないし、カーテンも閉めっぱなし。お母さんにご飯だよって呼ばれたけど、寝てて聞こえないふりをした。あぁ、お風呂に入らなきゃとか、まず制服にシワが寄るなとも思ったし、制服着たまますぐに寝転んだことを後々後悔するくせに、今はそんなことを気にしている余裕もなかった。

外で車の走る音がする。たまに近所の人たちの話し声もする。複数人いると夜のジョギングとか散歩してる人たちなのか、それとも誰かがこんな時間に来たのかわかんないけど、楽しい声が耳に入ってきた。雑音程度に聞き流して、無気力な体は相変わらず動かない。ちなみにご飯を食べていないせいではない。理由はわかっている、気持ち的に完全に沈んでいるせいだ。はぁ…いつまでもこうやっていても仕方ないのもわかるけれど、気持ちと考えることはいつだっていつまで経ってもきっと伴わないだろう。


「名前ー」


階段下からお母さんがあたしの名前を呼ぶ声がする。だけど、ほっといて欲しくてあたしはそれをシカトした。廊下から、ダンダンと響く足音。普段こんな大きな足音で歩くことはないから、お母さんをシカトし過ぎたから怒ったのかもしれない。けど、そういう時だってこっちにもあるんだから空気読んでほしいと思いながら、この後入ってくることがあるならば、どう言い訳しようかと考え半分、モヤモヤイライラで何も考えたくない気持ち半分で布団を被った。
階段を登り切って、すぐ部屋の扉が開く音がする。登り切った時の足音も部屋のドアを開ける勢いも強い。こんなんで何でこんなに怒ってんの、勘弁してよ。そう思っていたら、あたしのベッドの脇で止まった足音、ここまできて顔を出すのも気負けした気がするから、絶対反応しないって心に決めていたら頭上から「名前」って呼ばれてあたしの喉がヒュッとなるのがわかった。


「おい、起きろ」
「っ、え、」


混乱する頭の中、反応の仕方も忘れて体は硬直。そしたら突然被っていた布団を剥ぎ取られ、被っていた時に籠っていた熱もどんよりした空気も全部なくなって、あたしの肺に新鮮な空気が流れてくる。部屋を入ってくるときに電気をつけたらしい。突然の明るさに暗さに慣れていた目はやられ、細めて声の主を見上げる。ちょうど部屋の電気をバックにして立ちはだかるシルエットと体を射抜かれそうな眼に背筋がゾワッとしたのは気のせいではない。


「お袋さん、呼んでんのに出てこねぇし、メシ食ってねぇって言うし、何やってんだよ」
「…なんでここにけーすけがいるの…」


完全に流されそうになっていたけれど、なんとか持ち直したあたしは、刺さるような視線をグッと耐え抜いて負けじとジッと睨みつける。特攻服を着ている圭介はきっとみんなで集まった後なんだろう。ってことは、さっき聞こえてきたバイクのエンジン音ってもしかしなくても圭介のものだったのかもしれないと気付かされる。圭介は、はぁ…とため息一つ面倒くさそうに吐き出してドカッとそこに座り込んだ。…何、なんかイライラしてるっぽいけど、ホント何。なんで今来るの、あたし何かしたっけ、と思うけど心当たりは何もないし、逆にこんな気持ちの時に来て欲しくないんだけど、と心の中で悶々と気持ちだけが溢れ出てくる。
剥ぎ取られた布団はベッドの横に落とされてるし、座ってからの圭介と目は合わない。まあ、あたしも圭介の顔は見てないんだけど、なんとも言えない空気だけが漂って、これなら布団を被っていた時の方が全然マシだと思ってしまう。

何分経ったんだろうか。多分、そんなに経っていないと思うけど、体感的にはすっごい気まずい時間が経過していて、痺れ切らして喋るのも負けた気がして嫌でムッとして無の心になることに専念していれば、ちょっとだけ圭介の体が揺れた。


「…どうしたんだよ」
「…何が」


どことなく、ソワソワしている気もする。ちょっとだけ、言いにくそうな声も耳に入ってくるから気のせいではないだろう。ちなみにあたしは未だに圭介の顔は見ていない。見ているのは肩から流れる長い髪の毛の先だ。


「元気ねぇって聞いたし、俺…のせいかな、って」
「へ?」


めちゃくちゃびっくりして、ベッドに手をついて少しだけ上半身を起こすほど、本当に思わず顔を上げてしまった。ここであたしの負けかもしれないけど、もう良いや。圭介が珍しいこと言い出すから、驚かずに入られないし、「頭殴られ過ぎておかしくなった?」って聞いてみたら「怒るぞ」ってジト目でやっぱり射抜かれて、ここでやっと目が合った。圭介の目に映るあたしはきっと間抜けな顔しているかもしれないけれど、仕方ないじゃないか。


「…なんで、圭介が?」
「あ?俺が全然会ってねぇからとかじゃねぇのかよ」
「…うん?」
「は?」


お互いがお互いを見ながら、もし自分からクエスチョンマークを出せるなら今頃いっぱい飛び散ってる気がする。眉間に皺寄せて、聞き返してくる圭介は本当に理解できない顔で止まっているし。それはこっちの反応なんだけどって思いつつ、次は微妙な空気が流れ出すし、すぐに圭介が体をワナワナと振るわせて「マイキー…」って言葉がかろうじて聞こえた気がする。


「何か言われたんだ」
「…名前が元気ねぇ、お前がほっといてるせいじゃねーのかって言われたんだよ」


あ、この圭介はちょっとだけ気まずいというか気恥ずかしい時のやつだ。ボソボソと歯切れ悪く呟く圭介は自分で言うのが嫌なんだろうな。でも、あたしが聞いたから言ってくれたって感じだろう。お前がほっといてるせいで…つまり圭介にほっとかれてあたしが不貞腐れてると思ったの?それを気にして圭介は来てくれたんだ?と言われたことから連想ゲームのように答えを導き出せば、圭介の配慮に申し訳ないけれどあたしはつい笑ってしまう。


「んだよっ」
「いや、だって…、圭介優しいなって思って」


あたしがここで笑うと思わなかったんだろう。圭介は声を荒げたけれど、事情が分かれば全然怖くない。むしろ可愛らしいなって思ってしまう。


「ごめんって。ちょっと色々上手くいかないことが立て続けに起きてて嫌になってただけだから」
「上手くいかないってなんだよ」
「大したことじゃないよ、ホントに些細なこと。忘れ物したとか、授業でミスったとか。小テストがイマイチだったとか」


多分、そういう時期だったんだと思う。何をやっても上手くいかない。調子がいい時は絶好調!ってなぐらいなんでもできる日もあるから、逆を返せばこんな日があってもおかしくないけれど、それが立て続けに数日続いてしまったのだ。小さい出来事がちょこちょこと積み重なって、あぁもう!って自分がとうとうイラだって不貞腐れていただけのこと。だけど、圭介は同い年なのに学年も違うし、なんなら学校ですら違うから知る由もないだろう。


「これから受験なのに、こんなの凹むって」
「…あー」


不貞腐れた大きな理由はそれだ。今は大事な時期、これから余計ピリピリするであろうに、こんな些細なことでイライラしたくはなかった。だけど、気持ちの整理ができるほどあたしもできた人間じゃないから、一人で引きこもってたはずなのに、まさかの圭介の来訪で全ては崩されてしまったんだけど。受験って言葉を聞いて圭介は遠くを見つめてるし、わかりやすいなあ。


「だから、一人で気持ち落ち着かせようとしてただけ」


本当は不貞腐れてただけだけど。上手く気持ちも切り替えられずにいたんだけど。って口に出せないことを心の中で呟きつつ、圭介がこうやってきてくれたから、割とどうでも良くなったのも本音。


「あ〜癒しがほしい」


って言葉で誤魔化したつもりだった。そしたら、圭介が難しい顔であたしを見つめてくる。さっきとは違う怖い顔になってるけど、どうしたの急にって思い巡らせていれば、「ほら」って言われてあたしの頭の中が真っ白になる。だって、突然両手を広げるから、こっちの脳がバグらないわけがないじゃん?!


「…ガラにもねぇことしてんだからよぉ…どうすんだよオイ」


恥ずかしさマックスって感じ。圭介は居た堪れなさそうに、間一髪なのに痺れを切らして唸るような声で言うから、あたしはベッドからガバッと飛び込んだ。ベッドのスプリングの勢いも若干相まって勢いよく飛び込んだせいで、圭介の体が倒れるかと思ったけど、そうだこの男はそんなに柔じゃない。「あっぶねぇな」なんて言いつつ、しっかり抱きとめてくれるんだから不器用な優しさにふふって気持ちが弾む。


「嬉しい〜」
「…元気出たかよ」
「うん、圭介来てくれたし、どうでも良くなっちゃった」
「そうかよ」
「ありがと」
「…ん」


あぁ本当にしょうもないことにイラついて凹んで不貞腐れていたけれど、どうでも良くなったかも。生活環境は学区のせいで違うから、会えないこともちょっとだけ気になってはいたところもあるけど、最近の良くないことはこうやって圭介が会いに来てくれるためだったと思えば、ありがたしって思うことができた。あたしの彼氏は顔は怖いしチーム組んで喧嘩も強いくせに、実際は素直で不器用で優しいところがあるから愛おしいよ、ありがとう。

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