短編 | ナノ


先日我が家のクーラーが壊れた。それはもう大変遺憾であり、早急に対応しなければならない。しかし現実は甘くはなかった。壊れたクーラーは買い直しが必要で、迅速な対応をするも取り付け作業はすぐには来られず…。つまりは、クーラーなしの環境を強いられてしまったのだ。そこで考えた、あたしは少しでも快適に、しかしダラダラと過ごせる場所として、圭介の家を選んだ。ここなら快適にゆったり過ごせる!って思っていたのに、実際来てみたらクーラーの効きが悪くて、扇風機も使わなきゃいけなくて。だから圭介の部屋で我が物顔で扇風機独占して、部屋の主である圭介を観察してたら、色気が凄くてすごく複雑になった。同い年で、同じように育って来たはずなのに、こんなにも変わることってある?脳内バグってるんじゃないかって言われたらそれまでだけど。圭介に思ったことを伝えたら、びっくり。気づいたら組み敷かれて、男と女の差を見せつけられたし、圭介は男として、あたしのことを女として見ていたと言い出すし。そんな素振り、すこっしもなかったじゃん!!!って後々思うけれど、それはまあお互い様かってなった。結局あの後、微妙な空気になって、このままことが起きるのかなって思ってたけど、タイミング良いのか悪いのか。千冬がやってきて事なき終えたのだ。



あれから数日のこと、やっぱり今日も我が家のクーラーは壊れているわけで。


「あー気持ちいい…」


懲りずに今日も圭介の部屋に上がり込んでいた。扇風機を本日も独占。今日は箱で売られている練乳入り宇治金時のスティックアイスも一緒。アイスの先端には練乳が盛り込まれていて、下には宇治金時のアイス、その周りをミルクで固めたものだ。最初甘くて後さっぱり、食べやすい。一口かぶり付けば、口の中にトロッと練乳が広がって幸せな気持ちにさせてくれる。



「オマエなぁ…」
「んー?」


圭介の呆れ声。表情は何だかひくついていた。


「普通に食え」
「普通に食べてるじゃん。あ、垂れた」


噛み付いた瞬間に声をかけられたから、中途半端に意識が圭介に持っていかれて、僅かに練乳がアイスの方に残っていたらしい。ツゥーっと口元から練乳が伸びてちょうど良くスカートから出ていた膝より上の部分、太ももに落下した。スカートに落ちなくてよかったと思いつつ、口の端にも若干ついた練乳を指で掬って舐める。さすがに足に落ちたものは指で掬うわけにもいかないから、圭介にティッシュを取ってという意味を込めて空いてる方の手を差し出した。


「ティッシュ」


今日も暑さを耐え凌ぐために、圭介は髪を結いているし、ボタンも第二まで開けていてやっぱり色気が同い年に見えないって心の中で呟く。圭介は動かなかった。じっとあたしを物言いたげに見つめるだけで動きもしない。自分で取れってこと?でもティッシュは明らかに圭介の方が近いから取って欲しい。こんなことを考えている間もアイスは暑さで溶けかねないので、食べることはやめなかったあたしは気付けばアイスをペロリと食べ終えていた。もう取ってくれないならいいや。と思ってアイスの棒を口に咥えて、スカートの端を掴み、立ち上がる。圭介から何とも言えない声が聞こえたけど知らない。そのまま立ってしまったら、スカートに練乳がつく可能性だってあるわけで、はしたないけど一緒にいるのが圭介だからいいや。そのまま、ひょいひょいっと歩いてティッシュを取ろうとした時だった。圭介に一番接近したタイミングで腰を掴まれ、スカートを掴んでいるあたしの腕ごと掴まれてしまう。


「ちょっ、と…!何してんのっ」


言葉の通り、圭介の行動に驚いて声を上げた。あたしの位置から圭介の顔がちょうど際どい位置にあって、腰と手を掴まれてるしスカートも若干だけど持ち上げているから、一気に恥ずかしくなる。


「ひっ、」


ねっとりとした感触が太ももから伝わってきて、それが圭介の舌だと気づいた時にはびっくりして身を後退させてしまい、そのまま後ろへ思いっきり尻餅をついてしまった。絶対下の階に響いた…って一瞬は思ったけど、今さっき起きた出来事をすぐに思い出してそれどころじゃなくなる。



「なにすん、のっ!」
「ぁあッ?」


さすが東京卍會の壱番隊隊長様だ。あたしのは所詮虚勢であり、圭介の返しに一瞬でも推し負かされそうになる自分がいた。けど、今回は異議を申し立てたくて、グッと堪える。


「何で舐めたのッ」


取ってと頼んだティッシュは取ってくれない。だから、自分で拭こうと思って取ろうとしたのに。完全に無反応決めてたくせに、突然舐めるとかバカなの?圭介はバカだけど!こんなことするようなバカだった?!
あたしが尻もちついたことにより、目線の高さはあたしのほうが下になる。口に咥えたままのアイスの棒を圭介は抜き取って、近くにあったゴミ箱に捨てた。だけど、これが優しさでやったわけではないことは表情を見ればわかる。


「俺言ったよな」


じっとあたしを見下ろしてくる意味あり気な目だ。威圧感があって、正直怖いぐらいの雰囲気を醸し出している圭介に、あたしは何も言えず口の中がカラカラに乾燥していくのがわかる。


「俺は男だって。煽ってんのかって」
「い、われました…けど…」
「けどって何」


多分何言ってもダメ。納得する言い分を言えって言いつつ、何言っても無駄なやつ。今回は一応自分なりに座り方は気をつけてたし、スカートなんだから足元が見えそうなのは不可抗力だ。扇風機は占領してたけど…、と脳内でぐるぐる出る言葉はどれを発したって所詮言い訳。今の圭介にはきっと通じない。


「ッ、け、っすけ」


圭介は尻餅ついて座り込んでるあたしの足に手を添わせて、さっき舐めてきた太ももの内側をゆっくりと摩る。優しさと何かを含ませてるような手つきで全神経は集中するし、触られている途中で気づいた。まためくり上がってるスカートの裾を引っ張って隠そうとするけど、圭介の手は離れないから逆にこれではスカートの中に手を入れているように見えてしまって、恥ずかしくも歯痒くも感じる。


「ッん」


恥ずかしいはずなのに、やめて欲しいはずなのに本気で争うこともできなくて。そうしたら、圭介は抵抗しないことを良いことに、あろうことか顔を近づけて圭介の唇が触れる。息が太ももの内側に当たってくすぐったいし、伝わる熱がこしょばゆくて逃げたいのに圭介の手がそれを許さない。圭介が何をしたいのかわからなくて、ただ見ているしかないあたしの視線に気づいた圭介が上目遣いで見上げて来た。だけど圭介は目が合ってもやっぱりやめてくれなくて、とにかく変な声が出そうになるのも我慢して堪えてを繰り返し。まるで我慢大会のような感じの中、気を抜いていたわけじゃない。突然だった。チクッとした痛みが内股に走る。やっと顔を離してくれた時、圭介は再びそこを優しく撫でる。



「名前」


上体が起きたかと思えば、次は首筋に顔を埋めてきて完全に密着する体。もうこの際暑さなんて気にしている余裕はない。早まる鼓動も全部圭介にバレてると思う。暑い中、そのまま上がり込んだ圭介の家で二人きり。密着させた圭介の体が逃さないと言わんばかりに上体の体重をかけてきては、あたしが退いてを繰り返し、このまま倒れてしまうのも負けだと謎の気合いで気付けば中途半端に仰け反っていて、圭介が離れてくれたのは鎖骨の辺りに再び痛みを感じた後だった。


「くっそ暑いだけでも、イライラすんのに、アイスの食い方がエロいんだよ…、ちゃんと食えねぇのかよ」
「そ、んなの不可抗力っ」
「人のこと誘ってんのか」
「そんなことしてない…」
「やってることがそうなんだよ」


無表情で圧があって、でも心なしか余裕もない様子の圭介に不覚にもドキッとしてしまうあたしは相当末期だと思う。だって、圭介はあたしを見て余裕を無くしたってことでしょ?もちろん恥ずかしさも大きくあるけれど、それ以上に嬉しくないわけがない。


「手ェ出すぞ」


あ、圭介も緊張してるんだって思った。普段なら、こんな風に言わないもん。どんなに怒っていたって、あたしに対して心無いようなことは言わない。だけど、緊張した時だけ余裕がない時だけは別。


「やだ」
「はぁ?」


だから、あたしはキッパリと言った。嫌だ、と反論した。圭介はこの言葉が予想外だったみたいで、ピキって青筋が見える気がする。気がするだけだけど、表情は無から不満へと変化して、あたしを食い入るように見つめてきた。そんな圭介からの視線があまりにも鋭くて、耐えられなくなって視線を逸らす。


「だって…するときはちゃんと準備したい…」


今日だってこんなつもりじゃなかった。したくないわけじゃなくて、この現状からやるのが嫌なだけ。だって暑いし汗かいてるし、絶対臭いし…!圭介に太ももとか首元に顔近づけられたのも、正直それが気になって辛いのに、圭介が本当にそう思ってくれるならば、こっちだって圭介のためにちゃんと準備しておきたい。そう思って振り絞って出した言葉。圭介からの返事はなし。何か言ってほしいのに、と思って圭介に視線を移せば、珍しく顔を赤らめて固まる姿。


「お、おう」


結局、お互いグダグダ。暑さのせいで今日も脳内バグって勝手に暴走、そして冷静になったら、また火照っての悪循環。さすがのあたしも、もうちょっと気にしよう、と働かない頭の中で心に決めた。

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