短編 | ナノ


ワカと出会った頃のあたしたちは十代後半。ちょっとだけ背伸びしつつ、大人にもなりきれず子供のままでもいられなかった年齢で遊び盛りだったと思う。気にしてます!って風に見せかけて、割と抜けてることもあったりしたな。時代はちょうどガングロが流行りの時代でもあったから、多少の日焼けとか全然気にしたことなかったな。ガングロまでしてはいないけど、周りにもっと焼いてる人とかも多かったから、全然自分は白いじゃん!って思って腕も足も気にせず出して遊びまくってた十代の夏。それはあくまで十代の夏の話であって。


「うーん、どれが可愛いかな」


今や、あたしは夏は神経質にならざる得ない季節となってしまった。地球温暖化のせいもあって猛暑が増えてきたため、夏がより過ごしにくくなった。おかげで引きこもれるなら喜んで引きこもるし、外に行く時だって日焼け止めは必須。ちなみに今日はクーラーのガンガンに効いたデパートの中、やって来たのは割とどこにでもあるような雑貨屋で、あたしは目的のものを必死に吟味しているところ。色とりどりの日傘が並ぶ日傘コーナーには、黒、紺、白と色だけでも様々。デザイン性まで見たらもっと種類は多い。今日は新しい夏の対策グッズが欲しくてやってきたのだが、あたしの横で若狭は興味なさげにぼんやりと遠くを見ている。家でスマホでも色々調べてみたけれど、やっぱり現物が見たくてきたんだけど、興味ないなら一緒に来なければ良いのにってちょっと思ったり。


「ねー若狭はどっちが良いかな」
「名前の好きな方で良いんじゃねーかな」
「悩んでるから聞いてるんだけど」


だけどまぁ、一応あたしの買い物に付き合わせて来てくれてるということにして、そのまま放置もなんだから両手に違う日傘を持って聞いてみた。返ってきた言葉はやっぱり興味なさげで、結局自分で決めるために視線は再び日傘に戻す。ホントよくわかんないなぁ…。



「ちょっと待って」


あれからしばらくして買い物終了。まだ外は暑いし紫外線も強い時間、なので店を出る直前で買ったものを若狭に持ってもらってカバンにしまっていたアームカバー急いでつけて外に備える。ガラス越しに見る外は日差しがとてもジリジリとしていて、アスファルトに反射する熱気が視界に入り、それだけでも気分が下がる。バイクで行くかと最初誘われたけど、極力乗りたくなくて、あえての交通機関を提案して突き合わせたのだけれど、もしかしたら若狭の中でそれが面白くないのかな。バイクとか車を運転する人って、その方が楽っていうし。だけど、あたしはあたしで早速買ったばかりの日傘も使ってみたかったから、若狭にはちょっとだけ申し訳なく思いつつも、この暑い中少しだけ気分はいい。

「名前」
「なーに?」
「ナーンデ、そんなに必死にやってんの」


ちょっとだけ日陰のゾーンがあって、体感温度が少しだけ下がる。若狭に名前を呼ばれて、ちらりと日傘をずらして見れば、暑さのせいかすごく表情はよろしくない。なんでって何を?


「日焼け対策」
「だって紫外線強いじゃん」
「昔はそんなこと気にしてなかったじゃん」
「昔は昔、今は今」


何って日焼け対策のことだった。女子はみんなそうなのに、なんであえて聞いてくるんだろう。昔のこと突っつかれたらアレだけど、人は変わりゆくものだから、そんな風に気にするほどかなって思ってしまう。だけど若狭は気付いてる。じっとあたしを見つめて目を離してくれないし、完全にあたしが白状するのを待ってる顔だ。


「だって、あたしすぐ焼けるし…」
「うん」
「若狭、白いじゃん…」
「そー?」
「そうだよ、そしたら一緒に並んだらオセロじゃん」


一瞬時が止まったけど、多分言葉の意味を理解した瞬間、ブハッって噴き出した若狭。ひどい、結構深刻なことなんだけど…!


「どーして、そんな風に気にするようになったワケ」
「…若狭に言い寄ってくる女の人たちみんな色白で綺麗なんだもん」


若狭はジムをやっているから、そこで女の人との関わりも必然的にあるわけで。若狭のルックスでモテないわけがない。信じていないわけではないけれど、やっぱり若狭の周りに言い寄る人たちを見ていると自分とタイプが違いすぎて不安になるんだ。自信がなくなるというかあたしにないものを彼女たちは持っていて、女らしさとか可愛さとか。世間も美白、色白は当たり前になってきて。そんなことからあたしも世間体を気にして、ちゃんと若狭に見合うようにって色々気にしなきゃって思うんだ。


「フーン、名前はヤキモチ妬いてるんだ?」
「妬いてるわけじゃ」
「じゃあ不安なワケ」


完全図星のあたしは何も言えずに口を紡ぐ。若狭の視線がチクチクと痛くて、あたしだけ先に足を進める。そしたら後ろからついてくるように歩く若狭が「オレらが会った頃って、名前なーんも気にしないでいたじゃん。オレ、そういうところが好きになったんだよネ」って言い出すから、思わず「はい?」って言いながら振り返ってしまった。何それ、若狭は無頓着な女が好きなの…?


「夏とかさ、暑さも日差しも気にせず海行こうとかフェス行こうとか、遊ぶことに全力で何でも楽しむ名前がスゲー好きなの。それなのに今そんな引きこもっちゃって、自分押し殺してるみたいに過ごして、名前らしくねぇじゃん」
「若狭」
「名前がやりたいことなら良いけど。名前は名前でしょ。オレが好きなのも名前だから」


びっくりした、若狭がこんな風に思ってるなんて。あたしが思ってる以上に若狭はあたしのこと見てくれてたし、思われてたなんて自覚したら逆に恥ずかしくなる。しかもこんな街中で、周りを気にせずサラリと言える若狭がすごい。そんなことお構いなしの若狭はあたしの日傘を奪って笑う。


「第一、こーゆーの持ってたら、名前の横歩けねぇからいらねーじゃん」


買ったばかりの日傘は畳まれてしまったし、なんなら汗のかいた手を何も気にせず掻っ攫っていく。


「不安なら見せつければ良いだけだし」
「…ずるい」


そこまで言われたら、気持ち揺らいじゃうよ。本当は夏満喫したくて若狭と海も川も行きたい。フェスとかも夏ならではの行事を満喫したい。お祭りは夕方からだけど逆に避暑地も良いな。あちこち行きたいところもやりたいこともあるけれどそのために若狭のバイクに乗ってだと、常に炎天下で照らされる日差しが嫌だった。日焼けを止めを塗ったってキリがないんだもん。だけど若狭がそう言うなら気にしていた自分が馬鹿みたいになる。チョロいあたしは買ったばかりのこの日傘もきっと使ったり使わなかったりになるんだろうな。

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