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「神子、様...!」
「司祭長様!?」
「おっと..!酷い怪我だな..」
「おい、大丈夫か!?」


聖堂へと続く長い階段へとたどり着いた四人の目の前に、急に一人の人間...司祭長がコレットの元へとフラフラとした足どりで近づいてきて、倒れこんだ。
驚きの表情を全員が浮かべ、咄嗟に近くにいたリルトが司祭長の身体を支える。
よく見れば、その人物は身体から血を流していた。

「突然、ディザイアンらしきもの共が、不可侵契約に反して聖堂に......神子様...早く、神託を..」
「ええ、わかっています..」
「くれぐれも...お気をつけて......神子様をお護り出来ず......む、無念......で、」
「司祭長さま、しっかり!!」

辛そうに、ゆっくりと、司祭長が口を開き、事情を説明してくれる。
しかし、その、喋る声は段々と小さく、か細くなっていき、
全てを言い終わる前に、司祭長の身体から力が抜け、声が途絶えるとそのまま司祭長は動かなくなった。
その身体を支えていたリルトが、重さからか、不快感からか、眉を寄せる。
コレットが動かなくなった司祭長に、焦った声を上げながら触ろうと手を伸ばす。
リルトは、それを遮り、司祭長を地面に寝かせると、静かに首を横に振った。

「......もう、死んでるよ」
「そんな...っ」
「嘘でしょ...っ」

コレットとジーニアスの二人が、横たわる司祭長を見て、悲痛な声を上げる。視線は逸らしていたが、声には出さずとも、ロイドも辛そうな顔をしていた。
膝をついて地面へと司祭長を眠らせたリルトは、ゆっくりと立ち上がって、三人の方へと向き直る。
コレットと目が合うと、コレットは決意したように唇を噛み締め、三人に意思を告げた。

「......私、行くね」
「コレット!あそこにはディザイアンがいるんだよ!?」
「うん、分かってるよ。でも、行かないと......皆は、ここで待っててね」
「いや、オレも行くよ」
「...だいじょぶだよ、危ないから、私一人で..」
「オレも、行かなきゃならないんだ。コレットが嫌がっても是が非でもついてく。むしろ一人でもオレは行くぜ。それに、ロイドも、行くつもりなんだろ?」
「ああ......ドワーフの誓い、第一番。平和な世界が生まれるように皆で協力しよう、だからな」
「待ってよ!ボクだっているんだからね。姉さんが心配だもの。ボクもついて行くよ」
「皆......うん、ありがと..」


最初は危ないからと拒否したコレットだったが、リルトの意思の強さに、二人の思いに、結局「うん」と頷いた。
危ないのなら、余計にコレットを一人で行かせる訳にはいかない。それに、確かめたいことも、あるんだ。守るのは、目的のついで、だ。
長い階段を、四人は登って行く。
後少しで階段を登りきる、といったあたりで、不意に上から声が降ってきた。

「神子はどこにいる?」

上を見上げれば、階段の頂上である広場に、司祭達を襲う兵士達の姿と、老婆に神子のありかを問いただす男の姿があった。
頑なに知らないと老婆...コレットの祖母であるファイドラは口を閉ざす。
そんな反抗的な態度をとっていたファイドラと、ふとした時に視線があった。

「コレット!?逃げるのじゃ!!」
「ボータ様!あれが神子のようです!」
「よし......神子よ、命は貰い受けるぞ!」
「くっ、ディザイアンなんかにやらせるかよ!」
「ディザイアン...か...はは、はははは!」
「な、何がおかしいんだよ!」
「では、その憎い''ディザイアン''に殺されるがいい...死ね!」

ファイドラの叫び声に、そこに居た全員がこちらを向く。
リルト達はそれぞれ武器を構え、ロイドがコレットを守るように前に立つ。
ふはは、とディザイアンという言葉に、一人の兵士が笑い声を上げ、ジーニアスがビクリと肩を震わせる。

「ロイド!来るぞ!!構えろ!」
「あ、ああ!皆、行くぞ!こんな奴らに負けていられるかよ!」
「うん、でも気をつけて..こいつら、かなり強いよ!!」

双破刃!!と、二つの衝撃波がロイドとコレットの真横を通り過ぎる。
いつのまにか臨戦態勢に入っていたリルトはコレット達に切りかかろうとしていた兵士の一人に攻撃を浴びせ、ぼさっとするなと叫んだ。
その声に、怯えて動きが鈍っていたジーニアスと、いきなりでびっくりしていたコレットがハッとして武器を構える。
ロイドも分かってると思いながらも、とりあえず目の前の敵に斬りかかった。
攻撃をくらい怯んでいた兵士も動き出しており、ボータと呼ばれた男はロイドに一太刀を浴びせる。
よけきれず、ロイドはその攻撃を受けて遠くに吹き飛んだ。ガードしたとはいえかなりの威力だ。そんなロイドをカバーするべく、リルトは持ち前の素早さでボーダの懐に入り込み、急所を狙い攻撃をする。

「くっ、ガキだけだと思ったが、貴様はなかなかやれるよう..だな!!」
「どうも......でも、まあ、パワータイプは、あんまり相性が良くないんだけどな」
「ほう、ならば...これならどうだ..!」
「!...うわっ.........しまっ..っ!」

力いっぱいに振り降ろされた武器。
避けることが出来ず、それを、寸前のところで受け止めたリルトだったが、

キンッ!

と、ボータの攻撃にたえられず、弾かれた剣が空を舞い、甲高い音がなった。

「相性が悪かったようだな。自分の運の悪さを呪うがいい」
「!...リルトっ!」
「危ないっ..!!」
「危ないっ!」

リルトの武器が吹き飛んで、ボータがトドメを刺そうと、もう一度、武器を振り上げる。
焦った声を、三人が上げる。
しかし、当の本人はあせるどころか...


武器を目で追いながら、余裕げに、口角を上げて、

「相性が悪い?ああ、そうだな..」


馬鹿にしたような笑みを浮かべていた。


「アンタの方の、相性がな」
「なん、っ..!?」

リルトは吹き飛んで落下してきていた剣を取りに走ると、ボータの武器が振り下ろされるよりも早く、ボータの身体をその剣で斬りつけていた。
何が起こったんだ、とロイド達は目を丸くして無事であったリルトの姿を見つめている。
剣が落ちるよりも、ボータが攻撃するよりも早く、吹き飛んだ剣を取りにいって切りつけるなんて、人間技じゃない。
そこにいた全員が、リルトが走り出した瞬間、何故か時が止まったような錯覚を、覚えたような気がした。
時が止まったような......そう、まるでタイムストップという技でも受けたような......
と、まあ、例えではなく、その時、実際、本当に、時間が止まっていたのだが。
耐えきれなかったのも確かだが、あれは、耐えきれないからこそワザと剣を吹き飛ばして避ける隙を作っていただけだ。
力がないのなら、頭を使え、ってね。
魔術にも、使い方は様々ということだ。体内のマナの消費が激しいから、一瞬しか使えないのだけれど。

勝ちを確信していたボータは、不意の攻撃を食らって、苦しそうな顔をしながら膝を付いていた。
トドメを刺したりはしない。別に、わざわざ人間を殺す必要はないから。
いや、むしろいまはそんなことより、残りの兵士を相手にしていた三人の方が気になる。



「ロイド!こっちはいいから、自分の戦いに集中しろ!今オレもそっちに行く..!」
「え、おわっ!」
「ロイド!」
「あっ、ジーニアス!後ろ!」
「え!あ...うわあ!」

目を向ければ、
案の定、三人はオレの方に気を取られてか、周りが疎かになっていた。
ロイドはギリギリで攻撃をさけたが、ジーニアスの背後には、今まさに剣を振り下ろそうとしている兵士の姿が。
リルトが駆け寄るが、この距離では間に合わない。
皆がジーニアスの名前を叫び、危ない、と思った瞬間、だ。

「剛、魔神剣!」
「ウワアアア!!」

キィン!と、剣と剣がぶつかり合う音が聞こえたと思えば、衝撃波が、ジーニアスの横をすり抜けてもう一人の兵士の方へと飛んでいった。
ポカンと、リルトを除いた三人が呆然とする。
そこへ、剣を弾く音が再度響きわたり、三人はハッとして、その音の元へと目を向けた。
ジーニアスのすぐそばには見知らぬ男がたっており、
ジーニアスの足元には、倒れた兵士が、
ロイドの目の前には、ふらつきながらも立っている兵士がいた。

「ロイド!ぼけっとすんな!」
「あっ、悪......!」

状況について行けず、ロイドは目の前にまだ敵がいるにも関わらず呑気に立ち呆けている。
ふらつきながらも、兵士はせめてロイドだけでもと思ったのかそんなロイドに斬りかかろうとした。
呆然としていたロイドに、対応ができるわけもなく。
見かねたリルトが、咄嗟に、兵士が斬りつけるよりも早くロイドの前へと移動し、兵士の持っていた剣を弾き飛ばす。
すると、そこへ、どこからともなく現れた先ほどの男が、その兵士へと技をぶつけ、兵士を気絶させた。
勝てないとわかると、悔しそうにしながら、ボータが兵士に一時撤退を命じ、足早に去っていく。

「無事か?...無事のようだな...」
「まあ、なんとか...アンタのおかげで助かったよ」
「......ん?お前は..」
「え、な、なんすか..」
「......いや、なんでもない」

無事か?という男の低い声が耳に入ってきて、皆がゆっくりと頷く。
その時、男がリルトを見て何かを呟いたようであったが、疑問に思うリルトを軽くあしらうと、なんでもないと誤魔化されてしまった。
なんなんだよ!とリルトが内心でツッコミをいれる。なんとなく、理由は分かるけど。前にも同じ顔の人物に同じような態度を取られた気もするし。
しかし、まあ、これで、一安心だな。なんか、すごくハラハラしてしまった...心臓に悪い。

「ほら、アンタらも感謝しとけよ。.....オレが、いや、オレ達がいなかったら、今頃死んでたぞ。戦闘中によそ見するなんて何考えてんだ」
「う、ご、ごめん..」
「でも、すごかったね..!」
「うん、あのおじさんも、めちゃくちゃ強かったし」
「......そ、そうだな........あ。あれは、エクスフィア..?」

説教をされて、珍しくしょげていたロイドだったが、男の手の甲にキラリと光る宝石が着いているのを見つけ、ボソリと呟く。
男の手の甲には、要の紋に囲われている、エクスフィアのような石が埋め込まれていた。
ああ、だから強かったのか。と一人納得するロイド。
リルトはともかく、あんな無愛想な感じ悪いようなやつに助けられたなんて、なんか凄いむかつく。確かに、強かったけど、あんなやつに助けられたんだって事実が、ロイドは気に食わなかったようで、内心複雑そうな顔をしていた。




傭兵
(その正体は...?)


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